河童戦記

万卜人

文字の大きさ
87 / 124
南蛮人の巻

しおりを挟む
「現地人ではありませんか!」
 松田大尉は憤然となった。頬が薄紅色にほんのり染まっている。
「そうさ。おれは、あんたらが言う〝現地人〟ってやつさ。しかし大抵の事情は、そこの吉村って旦那から聞いているがね。あんたら、星の世界からはるばる空を飛ぶ船に乗ってやってきたってことだな?」
 木戸甚左衛門は帯に指を掛け、反り返るような姿勢になって松田大尉に話しかけた。甚左衛門の雄弁に、大尉は呆気に取られた表情になる。
「そんなことまで……」
 大尉はきっとなって吉村中佐を睨みつけた。
「中佐殿、これは規律違反です! わたしたちの正体を現地人に明かすことは、禁じられているはず」
 中佐は肩を竦めた。
「それは知っている。が、特別規定があるのは知らないわけではないだろう。特別規定によれば、現地採用の局員を先任の将校は招集できることになっている。わたしは木戸甚左衛門を、現地採用したのだ」
 大尉は黙ってしまった。しかし疑いの目は甚左衛門に向けられたままである。甚左衛門は、そんな松田大尉の様子を面白がっているようだった。
「まあ、そうつんけんするなって、おれの話を聞けば、あんただって、そう尖がってばかりもいられなくなるぜ」
「どういうことかしら?」
「おれの主人の緒方上総ノ介のところに、ちょくちょく妙な南蛮人が訪ねてくるんだが、どうやらその南蛮人、緒方上総ノ介に色々と妙な入れ知恵とか、武器を与えているようだ。どうだい、こういう情報は興味あるんじゃないのか?」
「南蛮人ですって?」
 大尉の目が見開かれた。それを見て、甚左衛門の目じりに笑い皺が刻まれた。大尉は中佐を見た。中佐は頷いた。
「そうなのだ。甚左衛門の話を聞いて、わたしはその南蛮人がもしかしたら、干渉の原因ではないかと思っているのだ」
「でも、どうして? その人物の目的はなんです?」
「それが判らん!」
 中佐は机の表面を、ばしりと叩いた。
「君が持ってきた分析によると、その人物の干渉によりこの惑星の地方豪族たちの間に活発な活動が見られ、本来の発達段階を跳び越え、この惑星は地球の戦国時代の様相を現している。そんな工作をして、いったい、何の得があるのか……」
 大尉は立ち上がった。
「すぐ逮捕すべきです! その人物の身柄を確保し、再発見された殖民惑星の正常な発達を阻害したという罪で拘禁しましょう」
「それが簡単にいかんのだ。君も知ってる通り、逮捕状を取るには、この惑星の政治状況の変化と、当人の活動に因果関係を立証する必要がある。それには途方もなく時間がかかるよ。それまでこの惑星の政治状況が待ってくれるかどうか」
 甚左衛門が割り込む。
「そこで、おれの出番、ってわけだ。おれはさっきも言ったとおり〝現地人〟だ。あんたらが掟に縛られ動けなくとも、おれなら自由に動ける。おれがあんたらに代わって、その南蛮人のことを探っても良いんだぜ」
 大尉は目を細めた。
「それで、甚左衛門さん。あなた、引き換えに何を要求なさるつもりなの? 無料奉仕ボランティアはあなたの柄ではなさそうね」
 甚左衛門は真顔になった。
「そう、おれは、あんたらにある報酬を望んでいる。おれは最初、緒方上総ノ介の配下の木本藤四郎についたころ、一国一城の国主になれればいいと思っていた。やがておれの望みは大きくなった。緒方上総ノ介は天下を狙っている。おれだって狙ってもいいはずだ、とね」
 松田大尉は叫んだ。
「あなた、まさか?」
 甚左衛門は手を振った。
「いいや、今のおれは、さらさら天下など眼中にない。おれの望みはもっと大きくなった。おれは、この世界を出たい! あんたらの船に乗って、星の世界へ行って見たいんだ」
 大尉は意外な言葉に、口をあんぐりと開けて甚左衛門の顔を見つめた。
 甚左衛門は頷き、繰り返す。
「そうさ。おれは、あんたらの世界が見たいんだ! 頼む! おれを、あんたらの飛ぶ船に乗せてくれ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...