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入洛の巻
一
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京の都を見下ろす丘に立ち、時太郎とお花、それに翔一の三人は目を瞠っていた。
「なんだろう、あの列は?」
時太郎の問いかけに、翔一が答える。
「どうやら二輪車の群れのようで御座います。あんな大勢の二輪車、初めて見ます」
翔一の言葉通り、京の朱雀門を目指し、延々と二輪車の列が土埃を巻き起こし、進んでいた。
二輪車に跨る武者たちは各々の旗指物を背中に靡かせ、身につけた鎧兜の前立てや打ち物が日差しを浴びてきらっ、きらっと反射している。二輪車の立てる爆音が風に乗って微かに聞こえていた
「ということは、戦か?」
時太郎の言葉に翔一は首を振った。
「そうとは思えません。戦なら、あの二輪車に従う徒歩の兵の姿が見えません。付き従うのは槍持ちや、道具運びの小者ばかりで御座いませんか」
翔一の指摘に時太郎は「ふうん」と頷いていた。時太郎は翔一の分析に内心、舌を巻いていた。一目ちらっと見ただけで、ずばり核心を突く翔一の観察目に、時太郎は感心する。
狸御殿のあの騒ぎがあってひと月近く、三人は歩き詰めに歩いて旅を続けていた。
狸姫によって精気を吸い尽くされ、ひょろひょろに痩せていた翔一も、ようやく肉がつき、足下もしっかりしてきた。
といっても、最初に出会った頃のたぷたぷに肥え太った姿ではなく、旅が鍛え上げたのか、精悍な印象に変わっている。
「ねえ、見に行かない? 面白そうだわ」
お花がはしゃいだ声を上げた。
時太郎たちは二輪車の列に近づいた。行列を見物しているのか、道路の両側に物見高い人々が口をあんぐり開け、時折ちらほら通りすぎる武者の旗指物を指さしている。
「おうおう、あれは島村右近どのの旗指物じゃ! あそこに通られるのは緒方上総ノ介殿の右腕の鹿田馬ノ介殿の列じゃ! まったく勇壮そのものじゃのう……」
大声を上げているのは行商人らしい四十がらみの小男だった。貧相な顔つきで、口許にまばらに髭が生え、突き出した前歯が、どことなく鼠のような印象を与える。
その周りに、男の話を聞きに数名の男女が集まって、しきりに行商人の声に頷いている。
二輪車の列がようやく途切れたころ、列の殿軍に、ずしりずしりと重々しい足音を響かせ、傀儡の列が姿を表す。こちらは旗指物は立ててはいないが、傀儡の胴体に家紋が描かれている。
最後に、信じられないほど巨大な傀儡が続いた。その傀儡に比べれば、人間はまるで豆粒に見えるほど巨大だった。巨大な傀儡の胸には緒方家の家紋である九曜星が描かれている。
先ほどの行商人も、その傀儡には驚いたようだった。
「超弩級人型傀儡じゃ! あんなものも上総ノ介殿はお持ちになっておられるのか」
時太郎は話しかけた。
「いったい、この列はなんだい?」
時太郎のぞんざいな口調に、行商人はちょっと、むっとしたようだった。それでも、話しかけてきたのが子供であると思ったのか、にこやかに返事をする。
「緒方殿の二輪車揃えの行列じゃよ。緒方殿は〈御門〉さまに、ご自身の戦支度を見せるため、配下の将に召集を懸けられたのじゃ」
「二輪車揃え?」
「そうじゃ、見てみよ! なんと華々しい軍列じゃのう……」
感嘆の声を上げ、男は腕を組んだ。
超弩級人型傀儡が通過すると、地面がずしずしと激しく揺れた。ようやく軍列が跡絶え、見物人は夢から覚めたような顔つきになって三々五々歩き始める。
時太郎たちも京の都へ入るため、門へ近づく。
聳える門の上部には翼を広げた大きな鳥の彫刻が飾られてあった。時太郎は彫刻を見上げ、あまりの精緻な細工に、うっとり暫し見とれた。
「これは京の南を守る朱雀門じゃよ。見事なものじゃろう?」
先ほどの四十男が馴れ馴れしく話しかけてくる。振り返ると、小男は満面の笑みを浮かべ立っている。
「おぬしたち、京は初めてか? よかったら、わしが案内して進ぜようか?」
そっとお花が近づき、時太郎の袖を掴んだ。
「どう思う?」
小声で囁きかける。疑っている。
小男は急いで手を振った。
「なに、わしは何も企んではおらんぞ! ただ、親切に案内してやろうというのじゃ」
男の言葉に時太郎は微かな嘘を感じ取った。時太郎の表情を読み、小男は頷いた。
「さすが、河童淵の時太郎。わしの言葉の僅かな嘘を見破ったのじゃな」
時太郎とお花は立ち竦んだ。
「あんた、誰だ?」
鋭い時太郎の言葉に、小男はがらりとそれまでの人の好さそうな表情を掻き消し、目を鋭く光らせた。
「わしは緒方上総ノ介殿配下の木本藤四郎と申す。実は、お前を待っていたのだ」
「なんだろう、あの列は?」
時太郎の問いかけに、翔一が答える。
「どうやら二輪車の群れのようで御座います。あんな大勢の二輪車、初めて見ます」
翔一の言葉通り、京の朱雀門を目指し、延々と二輪車の列が土埃を巻き起こし、進んでいた。
二輪車に跨る武者たちは各々の旗指物を背中に靡かせ、身につけた鎧兜の前立てや打ち物が日差しを浴びてきらっ、きらっと反射している。二輪車の立てる爆音が風に乗って微かに聞こえていた
「ということは、戦か?」
時太郎の言葉に翔一は首を振った。
「そうとは思えません。戦なら、あの二輪車に従う徒歩の兵の姿が見えません。付き従うのは槍持ちや、道具運びの小者ばかりで御座いませんか」
翔一の指摘に時太郎は「ふうん」と頷いていた。時太郎は翔一の分析に内心、舌を巻いていた。一目ちらっと見ただけで、ずばり核心を突く翔一の観察目に、時太郎は感心する。
狸御殿のあの騒ぎがあってひと月近く、三人は歩き詰めに歩いて旅を続けていた。
狸姫によって精気を吸い尽くされ、ひょろひょろに痩せていた翔一も、ようやく肉がつき、足下もしっかりしてきた。
といっても、最初に出会った頃のたぷたぷに肥え太った姿ではなく、旅が鍛え上げたのか、精悍な印象に変わっている。
「ねえ、見に行かない? 面白そうだわ」
お花がはしゃいだ声を上げた。
時太郎たちは二輪車の列に近づいた。行列を見物しているのか、道路の両側に物見高い人々が口をあんぐり開け、時折ちらほら通りすぎる武者の旗指物を指さしている。
「おうおう、あれは島村右近どのの旗指物じゃ! あそこに通られるのは緒方上総ノ介殿の右腕の鹿田馬ノ介殿の列じゃ! まったく勇壮そのものじゃのう……」
大声を上げているのは行商人らしい四十がらみの小男だった。貧相な顔つきで、口許にまばらに髭が生え、突き出した前歯が、どことなく鼠のような印象を与える。
その周りに、男の話を聞きに数名の男女が集まって、しきりに行商人の声に頷いている。
二輪車の列がようやく途切れたころ、列の殿軍に、ずしりずしりと重々しい足音を響かせ、傀儡の列が姿を表す。こちらは旗指物は立ててはいないが、傀儡の胴体に家紋が描かれている。
最後に、信じられないほど巨大な傀儡が続いた。その傀儡に比べれば、人間はまるで豆粒に見えるほど巨大だった。巨大な傀儡の胸には緒方家の家紋である九曜星が描かれている。
先ほどの行商人も、その傀儡には驚いたようだった。
「超弩級人型傀儡じゃ! あんなものも上総ノ介殿はお持ちになっておられるのか」
時太郎は話しかけた。
「いったい、この列はなんだい?」
時太郎のぞんざいな口調に、行商人はちょっと、むっとしたようだった。それでも、話しかけてきたのが子供であると思ったのか、にこやかに返事をする。
「緒方殿の二輪車揃えの行列じゃよ。緒方殿は〈御門〉さまに、ご自身の戦支度を見せるため、配下の将に召集を懸けられたのじゃ」
「二輪車揃え?」
「そうじゃ、見てみよ! なんと華々しい軍列じゃのう……」
感嘆の声を上げ、男は腕を組んだ。
超弩級人型傀儡が通過すると、地面がずしずしと激しく揺れた。ようやく軍列が跡絶え、見物人は夢から覚めたような顔つきになって三々五々歩き始める。
時太郎たちも京の都へ入るため、門へ近づく。
聳える門の上部には翼を広げた大きな鳥の彫刻が飾られてあった。時太郎は彫刻を見上げ、あまりの精緻な細工に、うっとり暫し見とれた。
「これは京の南を守る朱雀門じゃよ。見事なものじゃろう?」
先ほどの四十男が馴れ馴れしく話しかけてくる。振り返ると、小男は満面の笑みを浮かべ立っている。
「おぬしたち、京は初めてか? よかったら、わしが案内して進ぜようか?」
そっとお花が近づき、時太郎の袖を掴んだ。
「どう思う?」
小声で囁きかける。疑っている。
小男は急いで手を振った。
「なに、わしは何も企んではおらんぞ! ただ、親切に案内してやろうというのじゃ」
男の言葉に時太郎は微かな嘘を感じ取った。時太郎の表情を読み、小男は頷いた。
「さすが、河童淵の時太郎。わしの言葉の僅かな嘘を見破ったのじゃな」
時太郎とお花は立ち竦んだ。
「あんた、誰だ?」
鋭い時太郎の言葉に、小男はがらりとそれまでの人の好さそうな表情を掻き消し、目を鋭く光らせた。
「わしは緒方上総ノ介殿配下の木本藤四郎と申す。実は、お前を待っていたのだ」
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