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入洛の巻
二
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木本藤四郎と名乗った小男は、時太郎と一緒に京の都を歩きながら話しかけた。
「わしの同僚に、木戸甚左衛門と申す男がおってな。こやつが出世の足がかりにしたのが、信太三位の娘、時姫じゃ。時姫を〈御門〉に差し出したのが、切っ掛けじゃった」
「なんだと?」
時太郎の言葉に、藤四郎は大きく頷く。
「そうじゃ。お前の母親を捕えたのは、甚左衛門の奴なのじゃ。しかし、やつは何を考えておるのか、まるで腹のうちが読めん。わしは密かに、やつを見張っておった。そのうち、お前を探っておることに気付いた。時姫に時太郎、この名前の共通性から、おぬしは、やつの捕えた時姫の息子ではないかと推察したのじゃ。それで、わしも河童淵に人をやり、おぬしのことを調べることにした。おぬしは人の嘘を見抜く。おそらく、お前の母親の〈聞こえ〉の力を受け継いでいる証拠じゃろうな」
「それで、おれを待っていた理由は?」
「そうじゃ、それで、わしは配下の者を使って、おぬしの動きを見張らせた。狸御殿の一件も耳にしている。今では、このような便利な道具があるから、連絡は簡単につく」
藤四郎は懐から移動行動電話を取り出し、時太郎に示した。
「おぬしは母親に会いたいのじゃろう? 母親は御所に囚われておる。しかし御所に忍び込むことは至難の業じゃぞ。それに、先ほど言った甚左衛門のこともある。甚左衛門は多分、罠を仕掛けているに違いない。お前を捕え、人質にして〈御門〉との面会を企んでおるはずじゃ。なあ、時太郎。わしはお前の味方なのじゃ。どうじゃ、わしの言葉に嘘があるか判るであろう」
時太郎は立ち止まった。藤四郎も立ち止まり、京の雑踏の中で顔を見合わせる。
時太郎はゆっくりと頷く。
「確かに、あんたの言葉に嘘は無さそうだ。でも、総てを話した訳じゃないな。どうして、おれに味方するんだ?」
「甚左衛門が〈御門〉との面会を望んでおる、と話したであろう。〈御門〉との面会を望んでおるのは、わが殿上総ノ介さまも同じなのじゃ。なぜならば〈御門〉との面会を果たした者だけが、征夷大将軍の称号を得ることができる」
時太郎の表情から藤四郎は言葉を言い添えた。
「判っておらんようじゃな。つまり征夷大将軍の位に就くとは、総ての武将の上に立つことを意味するのじゃ。甚左衛門めは、上総ノ介さまの上に立つ野望を抱いておるのじゃ。かつてわしの下に働いておったのが、何時の間にか、わしの同輩になったようにな。それだけは許せん!」
藤四郎の言葉には深い恨みが籠められているようだった。
時太郎はぷい、と横を向いた。
「結局、あんたらの権力争いじゃないか! そんなのに巻き込まれるのは御免だね。お花、翔一、行こうぜ」
三人は肩を並べて歩き出す。
藤四郎は背後から叫ぶ。
「時太郎、わしの忠告を聞け! よいか、軽々しく動くでないぞ! 甚左衛門は、おぬしを捕えるため、罠を張っている……」
お花は心配そうに話しかけた。
「ねえ、あの人の言うことを聞いたほうがいいんじゃない?」
「放っておけよ。やっぱり、あいつは信用できない」
時太郎はそれきり口を引き結び、ぐっと前方を睨むようにして歩を進めた。胸の中にはやり場のない怒りが満ちている。
おれたちは、あいつらの手駒なんかじゃない……!
「わしの同僚に、木戸甚左衛門と申す男がおってな。こやつが出世の足がかりにしたのが、信太三位の娘、時姫じゃ。時姫を〈御門〉に差し出したのが、切っ掛けじゃった」
「なんだと?」
時太郎の言葉に、藤四郎は大きく頷く。
「そうじゃ。お前の母親を捕えたのは、甚左衛門の奴なのじゃ。しかし、やつは何を考えておるのか、まるで腹のうちが読めん。わしは密かに、やつを見張っておった。そのうち、お前を探っておることに気付いた。時姫に時太郎、この名前の共通性から、おぬしは、やつの捕えた時姫の息子ではないかと推察したのじゃ。それで、わしも河童淵に人をやり、おぬしのことを調べることにした。おぬしは人の嘘を見抜く。おそらく、お前の母親の〈聞こえ〉の力を受け継いでいる証拠じゃろうな」
「それで、おれを待っていた理由は?」
「そうじゃ、それで、わしは配下の者を使って、おぬしの動きを見張らせた。狸御殿の一件も耳にしている。今では、このような便利な道具があるから、連絡は簡単につく」
藤四郎は懐から移動行動電話を取り出し、時太郎に示した。
「おぬしは母親に会いたいのじゃろう? 母親は御所に囚われておる。しかし御所に忍び込むことは至難の業じゃぞ。それに、先ほど言った甚左衛門のこともある。甚左衛門は多分、罠を仕掛けているに違いない。お前を捕え、人質にして〈御門〉との面会を企んでおるはずじゃ。なあ、時太郎。わしはお前の味方なのじゃ。どうじゃ、わしの言葉に嘘があるか判るであろう」
時太郎は立ち止まった。藤四郎も立ち止まり、京の雑踏の中で顔を見合わせる。
時太郎はゆっくりと頷く。
「確かに、あんたの言葉に嘘は無さそうだ。でも、総てを話した訳じゃないな。どうして、おれに味方するんだ?」
「甚左衛門が〈御門〉との面会を望んでおる、と話したであろう。〈御門〉との面会を望んでおるのは、わが殿上総ノ介さまも同じなのじゃ。なぜならば〈御門〉との面会を果たした者だけが、征夷大将軍の称号を得ることができる」
時太郎の表情から藤四郎は言葉を言い添えた。
「判っておらんようじゃな。つまり征夷大将軍の位に就くとは、総ての武将の上に立つことを意味するのじゃ。甚左衛門めは、上総ノ介さまの上に立つ野望を抱いておるのじゃ。かつてわしの下に働いておったのが、何時の間にか、わしの同輩になったようにな。それだけは許せん!」
藤四郎の言葉には深い恨みが籠められているようだった。
時太郎はぷい、と横を向いた。
「結局、あんたらの権力争いじゃないか! そんなのに巻き込まれるのは御免だね。お花、翔一、行こうぜ」
三人は肩を並べて歩き出す。
藤四郎は背後から叫ぶ。
「時太郎、わしの忠告を聞け! よいか、軽々しく動くでないぞ! 甚左衛門は、おぬしを捕えるため、罠を張っている……」
お花は心配そうに話しかけた。
「ねえ、あの人の言うことを聞いたほうがいいんじゃない?」
「放っておけよ。やっぱり、あいつは信用できない」
時太郎はそれきり口を引き結び、ぐっと前方を睨むようにして歩を進めた。胸の中にはやり場のない怒りが満ちている。
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