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入洛の巻
四
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「わたくしの言葉は〈聞こえ〉の力を持つお方だけにしか聞こえないので御座います。あなただけが、わたくしの言葉を聞き取ることができる。ということは、信太一族の血を引くお方と見てよろしう御座いますな?」
管狐と名乗った狐は、真っ直ぐ時太郎の目を見て話しかけた。時太郎は暫し呆然としていたが、強く頷いた。
「そうだ、おれの母さんは信太三位の娘、時姫だ! おれの名は時太郎」
「おお! なんという出会い! わたくし、感動しております!」
狐は幇間のような大げさな仕草で顔を挙げ、ぺこりと頭を下げた。
時太郎は、お花と翔一に向かって、狐との遣り取りを説明した。二人は時太郎の言葉に、しきりと感心したように頷いている。
「時太郎さま、それにお供のお二人、実に好都合な時に──いや、もしかしたら実に危ない時に──いらっしゃった! 見れば、そちらの娘御は河童で御座いますな。しかも、烏天狗も従っております。そのお二人が揃っているのは天機が満ちている証拠で御座いましょう。皆様方に、信太一族の秘密を明かす時節が、やってきました!」
「信太一族の秘密?」
「左様で御座います。信太一族は表向き御所の陰陽師の役目を仰せつかっておるのですが、その実、この世界全体に関わる、ある重要な使命を受けているのです。その使命は、河童と天狗一族も関わっている。どうかお三人とも、わたくしに従い、その使命を果たして頂きたい! 伏してお願い奉ります」
時太郎の通訳に翔一は身震いした。
「た、大変なことになりましたね! この世界全体をなんて、想像もできません」
「でも、どうして、あたしたちが必要なの?」
お花の疑問に管狐は軽く首を振った。どうやら狐の言葉は時太郎にしか聞こえないが、狐は人間の言葉を理解するようである。
「それには皆様方を、ある場所へご案内する必要が御座います。こちらへどうぞ」
ぴょん、と狐は縁側に飛び上がり、荒れ放題になっている屋敷の中へと入っていく。時太郎たちは狐の後を追って、屋敷に上がりこんだ。
狐は屋敷の渡り廊下をぴょん、ぴょんと飛び跳ねるように進んでいく。
やがて狐は、屋敷の中庭に三人を案内した。
中庭には小さな祠がしつらえてある。おそらく、この屋敷の屋敷神であろう。狐は祠の扉を開くと、中に頭を突っ込み、なにか忙しく前足を動かした。
その作業が終わり、狐は三人に顔を向けた。
「驚かないでくださいよ」
「何を──」と言いかけた時太郎は思わず「わあっ!」と叫んでいた。
お花と翔一も叫んでいる。
いきなり地面が沈み込んだ。ぼこっ、と三人の立っている辺りが丸く切り取られるように沈み込み、ぐんぐん地面の下へと下がっていく。
時太郎が見上げると、円形に切り取られた空が急速に遠ざかった。
やがて下降は止まり、三人の目の前に横穴が現れた。横穴の壁はすべすべとして、なにか非人間的な感じをさせている。
「こちらへ──」
狐はぴょんぴょんと先へ立つ。
しかし三人が立ち止まったままなのを見て、苛々と尻尾を振った。
「早く! 誰かに見られたらどうするのです!」
時太郎がようやく歩き出すと、お花と翔一も続く。三人が円形の筒の底から離れると、その底が再び上へと登っていった。背後には壁が持ち上がり、もう後戻りはできない。
「元の通りに塞がるのか?」
狐は時太郎の言葉に頷いた。
「当たり前でしょう。あのままにしたら、穴が残ってしまいます。ここは秘密の場所なのです」
横穴は所々、白い光源で照らされている。
天井から放たれている光は、時太郎の見たことのないものだった。蝋燭や松明の光なら時々揺らめくこともあるが、この光は瞬きもしない。
管狐はもう何も言わず、黙々と先を走っている。後を追いながら、時太郎の胸は我知らず高鳴っていた。
管狐と名乗った狐は、真っ直ぐ時太郎の目を見て話しかけた。時太郎は暫し呆然としていたが、強く頷いた。
「そうだ、おれの母さんは信太三位の娘、時姫だ! おれの名は時太郎」
「おお! なんという出会い! わたくし、感動しております!」
狐は幇間のような大げさな仕草で顔を挙げ、ぺこりと頭を下げた。
時太郎は、お花と翔一に向かって、狐との遣り取りを説明した。二人は時太郎の言葉に、しきりと感心したように頷いている。
「時太郎さま、それにお供のお二人、実に好都合な時に──いや、もしかしたら実に危ない時に──いらっしゃった! 見れば、そちらの娘御は河童で御座いますな。しかも、烏天狗も従っております。そのお二人が揃っているのは天機が満ちている証拠で御座いましょう。皆様方に、信太一族の秘密を明かす時節が、やってきました!」
「信太一族の秘密?」
「左様で御座います。信太一族は表向き御所の陰陽師の役目を仰せつかっておるのですが、その実、この世界全体に関わる、ある重要な使命を受けているのです。その使命は、河童と天狗一族も関わっている。どうかお三人とも、わたくしに従い、その使命を果たして頂きたい! 伏してお願い奉ります」
時太郎の通訳に翔一は身震いした。
「た、大変なことになりましたね! この世界全体をなんて、想像もできません」
「でも、どうして、あたしたちが必要なの?」
お花の疑問に管狐は軽く首を振った。どうやら狐の言葉は時太郎にしか聞こえないが、狐は人間の言葉を理解するようである。
「それには皆様方を、ある場所へご案内する必要が御座います。こちらへどうぞ」
ぴょん、と狐は縁側に飛び上がり、荒れ放題になっている屋敷の中へと入っていく。時太郎たちは狐の後を追って、屋敷に上がりこんだ。
狐は屋敷の渡り廊下をぴょん、ぴょんと飛び跳ねるように進んでいく。
やがて狐は、屋敷の中庭に三人を案内した。
中庭には小さな祠がしつらえてある。おそらく、この屋敷の屋敷神であろう。狐は祠の扉を開くと、中に頭を突っ込み、なにか忙しく前足を動かした。
その作業が終わり、狐は三人に顔を向けた。
「驚かないでくださいよ」
「何を──」と言いかけた時太郎は思わず「わあっ!」と叫んでいた。
お花と翔一も叫んでいる。
いきなり地面が沈み込んだ。ぼこっ、と三人の立っている辺りが丸く切り取られるように沈み込み、ぐんぐん地面の下へと下がっていく。
時太郎が見上げると、円形に切り取られた空が急速に遠ざかった。
やがて下降は止まり、三人の目の前に横穴が現れた。横穴の壁はすべすべとして、なにか非人間的な感じをさせている。
「こちらへ──」
狐はぴょんぴょんと先へ立つ。
しかし三人が立ち止まったままなのを見て、苛々と尻尾を振った。
「早く! 誰かに見られたらどうするのです!」
時太郎がようやく歩き出すと、お花と翔一も続く。三人が円形の筒の底から離れると、その底が再び上へと登っていった。背後には壁が持ち上がり、もう後戻りはできない。
「元の通りに塞がるのか?」
狐は時太郎の言葉に頷いた。
「当たり前でしょう。あのままにしたら、穴が残ってしまいます。ここは秘密の場所なのです」
横穴は所々、白い光源で照らされている。
天井から放たれている光は、時太郎の見たことのないものだった。蝋燭や松明の光なら時々揺らめくこともあるが、この光は瞬きもしない。
管狐はもう何も言わず、黙々と先を走っている。後を追いながら、時太郎の胸は我知らず高鳴っていた。
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