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第二話 戦慄の文芸担当
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『タップ』は、もともと二階建てのビルで、屋上にプレハブの建物を継ぎ足して三階構造にしている。一階から二階への階段は建物の内部を通っているが、二階から三階へは外階段を登る。外階段の呼称通り、三階へは吹きさらしの鉄階段を登っていく。二階は動画マンのための部屋で、三階は演出部屋だ。
二階の突き当たりのドアを開くと、ぶあっと生温い風が市川の顔を直撃した。空気が重い。湿気が相当に高そうだ。
ぴかっ! と、外階段の踊り場に立った一同を、稲光が青白く浮かび上がらせる。
「きゃあっ!」と洋子が悲鳴を上げる。
すぐ、ぱしーんっ……と、雷鳴が聞こえ、がらがらがらと物凄い音が耳朶を打つ。びゅうびゅうと、電線が唸りを上げていた。
屋上の半分ほどを、プレハブの演出部屋が占めている。残り半分の片隅に、小さな祠が設けられていた。どこかの地方神を勧請したとかで、わざわざ新庄が神主を呼んで設置した。新庄は、外見とは裏腹に、随分と信心深いのである。
市川は、かつて新庄が、別の作品のスケジュールが厳しいときに「どうか無事、スケジュールが消化できますように」と祠の前で手を合わせていた場面を目撃している。おそらく、この数日、新庄は祠に日参しているのではないか?
プレハブの演出部屋の入口ドアでは、三村がひょろ長い身体を折り曲げるようにして、取っ手と格闘していた。渾身の力を込め、ドアを開けようとするが、内側から鍵を掛けているようで、びくとも動かない。
「三村、どうしたっ!」
新庄の怒鳴り声に、三村は両目を飛び出んばかりに見開き、振り向いた。
「木戸さんが、内側から鍵を……」
判りきった場面を説明してる。新庄は唸り声を上げ、三村をドアから引き剥がすように突き飛ばし、だんだんだんっ! と拳を上げて連打した。
市川は洋子に向けて尋ねる。
「木戸さん、引き篭もりなのか?」
洋子は呆れたような表情を浮かべた。
「馬鹿ね。それを言うなら立て篭もりって言いなさいよ」
市川は恥ずかしさに顔に血が昇るのを感じていた。新庄が喚いている。
「木戸さんっ! 開けてくれっ!」
怒鳴ると、耳をドアに押し当てた。ぐるぐると目玉が別の生き物のように動く。
「こっちへ」と新庄は、顎をしゃくった。新庄の周りに、市川たちが顔を近寄せる。
「こうなったら、ドアを押し破るしかないな。皆、協力してくれ!」
全員「うん」とばかりに、一斉に点頭する。
ドアの前に肩を組み、息を合わせた。
「行くぞ、せいのっ……!」
新庄の掛け声に合わせ、全員が破れかぶれでドアに体当たりを懸ける。
ばたーんっ! と思いもかけない大仰な音がして、ドアが部屋の内部へ倒れこんだ。勢いが余り、市川たちは部屋の中へ雪崩れ込んで、床にごろごろと転がってゆく。
演出部屋は真っ暗だった。
うろうろしていると、ドアの近くに立っていた三村が、ぱちりと電灯のスイッチを入れた。
ぱっ、と照明が点いて、白々とした明かりの中に、一人の人物が怯えきった顔付きで呆然と立ち尽くしていた。
木戸純一であった。
二階の突き当たりのドアを開くと、ぶあっと生温い風が市川の顔を直撃した。空気が重い。湿気が相当に高そうだ。
ぴかっ! と、外階段の踊り場に立った一同を、稲光が青白く浮かび上がらせる。
「きゃあっ!」と洋子が悲鳴を上げる。
すぐ、ぱしーんっ……と、雷鳴が聞こえ、がらがらがらと物凄い音が耳朶を打つ。びゅうびゅうと、電線が唸りを上げていた。
屋上の半分ほどを、プレハブの演出部屋が占めている。残り半分の片隅に、小さな祠が設けられていた。どこかの地方神を勧請したとかで、わざわざ新庄が神主を呼んで設置した。新庄は、外見とは裏腹に、随分と信心深いのである。
市川は、かつて新庄が、別の作品のスケジュールが厳しいときに「どうか無事、スケジュールが消化できますように」と祠の前で手を合わせていた場面を目撃している。おそらく、この数日、新庄は祠に日参しているのではないか?
プレハブの演出部屋の入口ドアでは、三村がひょろ長い身体を折り曲げるようにして、取っ手と格闘していた。渾身の力を込め、ドアを開けようとするが、内側から鍵を掛けているようで、びくとも動かない。
「三村、どうしたっ!」
新庄の怒鳴り声に、三村は両目を飛び出んばかりに見開き、振り向いた。
「木戸さんが、内側から鍵を……」
判りきった場面を説明してる。新庄は唸り声を上げ、三村をドアから引き剥がすように突き飛ばし、だんだんだんっ! と拳を上げて連打した。
市川は洋子に向けて尋ねる。
「木戸さん、引き篭もりなのか?」
洋子は呆れたような表情を浮かべた。
「馬鹿ね。それを言うなら立て篭もりって言いなさいよ」
市川は恥ずかしさに顔に血が昇るのを感じていた。新庄が喚いている。
「木戸さんっ! 開けてくれっ!」
怒鳴ると、耳をドアに押し当てた。ぐるぐると目玉が別の生き物のように動く。
「こっちへ」と新庄は、顎をしゃくった。新庄の周りに、市川たちが顔を近寄せる。
「こうなったら、ドアを押し破るしかないな。皆、協力してくれ!」
全員「うん」とばかりに、一斉に点頭する。
ドアの前に肩を組み、息を合わせた。
「行くぞ、せいのっ……!」
新庄の掛け声に合わせ、全員が破れかぶれでドアに体当たりを懸ける。
ばたーんっ! と思いもかけない大仰な音がして、ドアが部屋の内部へ倒れこんだ。勢いが余り、市川たちは部屋の中へ雪崩れ込んで、床にごろごろと転がってゆく。
演出部屋は真っ暗だった。
うろうろしていると、ドアの近くに立っていた三村が、ぱちりと電灯のスイッチを入れた。
ぱっ、と照明が点いて、白々とした明かりの中に、一人の人物が怯えきった顔付きで呆然と立ち尽くしていた。
木戸純一であった。
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