34 / 80
第七話 タイミング・シート乱れ打ち!
2
しおりを挟む
ブラス・バンドが国歌を演奏し、礼砲が飛行場に鳴り響いた。
空は相変わらずの晴天である。
抜けるような青に、ぽっかりと白い雲。
市川は「そういえば、今まで曇天は見ていないな」と胸のうちで呟いた。アニメでは、特別な場面でない限り、空は晴れ渡っているのが普通だ。
飛行場には、長さ百メートルはあろうかと思われる葉巻型の飛行船が横たわっている。葉巻型の胴体には、ボーラン帝国の紋章がでかでかと描かれていた。
飛行船には階段が横付けされ、前方には帝国の重要人物が勢ぞろいして、五番目の王子──つまりは、三村健介──を見送りに来ていた。
三村は見送りの人々と律儀に握手を交わし、時々、短く会話をしている。
堂々としていて、余裕すら感じさせる態度に、市川は「あれが三村か?」と密かに呆れていた。現実世界での三村とは、どうしても同一人物とは思われない。
それら見送りに来た連中との会話を切り上げ、三村はゆっくりと飛行場に整列している兵士たちに近づいてくる。
市川たち四人は、列の最後尾に並んでいた。
三村は近づくと、市川の顔を認め、表情にちらりと弱気らしきものが浮かぶ。
つい、と視線を逸らし、小走りになって階段へと急いだ。そこだけ見ると、やはり普段の三村である。
軽い足取りになって三村は階段を登ると、搭乗口付近で背後を振り返った。
わあああ……。
飛行場に詰め掛けた見物の市民から、一斉に歓声が湧き起こる。三村は階段の天辺から、腕を挙げ、市民の歓呼に応えていた。
優雅な仕草で三村は軽く頭を下げ、飛行船の船内に姿を消した。
「なんとまあ……」
市川の隣に立っていた山田が、首を振り振り、驚きの声を上げていた。
「あれが、三村君かね? まるで、生まれながらの王子様に見えるぞ」
山田の言葉に、市川は無言で頷いた。まったく、同感だ!
「全員、搭乗!」
指揮官が大声を上げ、その場にいた兵士たちが動き出した。ぞろぞろと階段を登り、次々に船内に入っていく。
搭乗する兵士の列を見上げ、市川は驚きに目を見開いた。
あの女!
ほっそりとした肢体に、帝国の軍服を身に着けた、木戸監督の特別注文でキャラクター設定をした女が、列の先頭付近にいた!
市川の胸に、むらむらと予感が湧いた。
きっと、あの女、何か仕出かす!
予感というより、確信だった。
だって、今いる世界はアニメの世界なんだぜ……。しかも女は、何度も市川の目の前に伏線として登場している。何か仕出かさないと思わざるを得ないじゃないか!
面白くなってきた……。
自分の感想に、市川は吃驚していた。何だか、この冒険を自分は楽しみ始めているのではないか、と疑い始めていたのである。
違う、違う! 断固、違う! おれは何としても、元の世界へ帰るんだ! こんな気違いじみた状況は、どうあっても耐えられそうにない……。
が、確実にそうだと言い切れない自分にも気付いていた。
空は相変わらずの晴天である。
抜けるような青に、ぽっかりと白い雲。
市川は「そういえば、今まで曇天は見ていないな」と胸のうちで呟いた。アニメでは、特別な場面でない限り、空は晴れ渡っているのが普通だ。
飛行場には、長さ百メートルはあろうかと思われる葉巻型の飛行船が横たわっている。葉巻型の胴体には、ボーラン帝国の紋章がでかでかと描かれていた。
飛行船には階段が横付けされ、前方には帝国の重要人物が勢ぞろいして、五番目の王子──つまりは、三村健介──を見送りに来ていた。
三村は見送りの人々と律儀に握手を交わし、時々、短く会話をしている。
堂々としていて、余裕すら感じさせる態度に、市川は「あれが三村か?」と密かに呆れていた。現実世界での三村とは、どうしても同一人物とは思われない。
それら見送りに来た連中との会話を切り上げ、三村はゆっくりと飛行場に整列している兵士たちに近づいてくる。
市川たち四人は、列の最後尾に並んでいた。
三村は近づくと、市川の顔を認め、表情にちらりと弱気らしきものが浮かぶ。
つい、と視線を逸らし、小走りになって階段へと急いだ。そこだけ見ると、やはり普段の三村である。
軽い足取りになって三村は階段を登ると、搭乗口付近で背後を振り返った。
わあああ……。
飛行場に詰め掛けた見物の市民から、一斉に歓声が湧き起こる。三村は階段の天辺から、腕を挙げ、市民の歓呼に応えていた。
優雅な仕草で三村は軽く頭を下げ、飛行船の船内に姿を消した。
「なんとまあ……」
市川の隣に立っていた山田が、首を振り振り、驚きの声を上げていた。
「あれが、三村君かね? まるで、生まれながらの王子様に見えるぞ」
山田の言葉に、市川は無言で頷いた。まったく、同感だ!
「全員、搭乗!」
指揮官が大声を上げ、その場にいた兵士たちが動き出した。ぞろぞろと階段を登り、次々に船内に入っていく。
搭乗する兵士の列を見上げ、市川は驚きに目を見開いた。
あの女!
ほっそりとした肢体に、帝国の軍服を身に着けた、木戸監督の特別注文でキャラクター設定をした女が、列の先頭付近にいた!
市川の胸に、むらむらと予感が湧いた。
きっと、あの女、何か仕出かす!
予感というより、確信だった。
だって、今いる世界はアニメの世界なんだぜ……。しかも女は、何度も市川の目の前に伏線として登場している。何か仕出かさないと思わざるを得ないじゃないか!
面白くなってきた……。
自分の感想に、市川は吃驚していた。何だか、この冒険を自分は楽しみ始めているのではないか、と疑い始めていたのである。
違う、違う! 断固、違う! おれは何としても、元の世界へ帰るんだ! こんな気違いじみた状況は、どうあっても耐えられそうにない……。
が、確実にそうだと言い切れない自分にも気付いていた。
0
あなたにおすすめの小説
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
ほんの少しの仕返し
turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。
アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。
アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。
皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。
ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。
もうすぐです。
さようなら、イディオン
たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる