アニメのお仕事

万卜人

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第七話 タイミング・シート乱れ打ち!

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 ブラス・バンドが国歌を演奏し、礼砲が飛行場に鳴り響いた。
 空は相変わらずの晴天である。
 抜けるような青に、ぽっかりと白い雲。
 市川は「そういえば、今まで曇天は見ていないな」と胸のうちで呟いた。アニメでは、特別な場面でない限り、空は晴れ渡っているのが普通だ。
 飛行場には、長さ百メートルはあろうかと思われる葉巻型の飛行船が横たわっている。葉巻型の胴体には、ボーラン帝国の紋章がでかでかと描かれていた。
 飛行船には階段が横付けされ、前方には帝国の重要人物が勢ぞろいして、五番目の王子──つまりは、三村健介──を見送りに来ていた。
 三村は見送りの人々と律儀に握手を交わし、時々、短く会話をしている。
 堂々としていて、余裕すら感じさせる態度に、市川は「あれが三村か?」と密かに呆れていた。現実世界での三村とは、どうしても同一人物とは思われない。
 それら見送りに来た連中との会話を切り上げ、三村はゆっくりと飛行場に整列している兵士たちに近づいてくる。
 市川たち四人は、列の最後尾に並んでいた。
 三村は近づくと、市川の顔を認め、表情にちらりと弱気らしきものが浮かぶ。
 つい、と視線を逸らし、小走りになって階段へと急いだ。そこだけ見ると、やはり普段の三村である。
 軽い足取りになって三村は階段を登ると、搭乗口付近で背後を振り返った。
 わあああ……。
 飛行場に詰め掛けた見物の市民から、一斉に歓声が湧き起こる。三村は階段の天辺から、腕を挙げ、市民の歓呼に応えていた。
 優雅な仕草で三村は軽く頭を下げ、飛行船の船内に姿を消した。
「なんとまあ……」
 市川の隣に立っていた山田が、首を振り振り、驚きの声を上げていた。
「あれが、三村君かね? まるで、生まれながらの王子様に見えるぞ」
 山田の言葉に、市川は無言で頷いた。まったく、同感だ!
「全員、搭乗!」
 指揮官が大声を上げ、その場にいた兵士たちが動き出した。ぞろぞろと階段を登り、次々に船内に入っていく。
 搭乗する兵士の列を見上げ、市川は驚きに目を見開いた。
 あの女!
 ほっそりとした肢体に、帝国の軍服を身に着けた、木戸監督の特別注文でキャラクター設定をした女が、列の先頭付近にいた!
 市川の胸に、むらむらと予感が湧いた。
 きっと、あの女、何か仕出かす!
 予感というより、確信だった。
 だって、今いる世界はアニメの世界なんだぜ……。しかも女は、何度も市川の目の前に伏線として登場している。何か仕出かさないと思わざるを得ないじゃないか!
 面白くなってきた……。
 自分の感想に、市川は吃驚していた。何だか、この冒険を自分は楽しみ始めているのではないか、と疑い始めていたのである。
 違う、違う! 断固、違う! おれは何としても、元の世界へ帰るんだ! こんな気違いじみた状況は、どうあっても耐えられそうにない……。
 が、確実にそうだと言い切れない自分にも気付いていた。
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