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ギャン
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パックは叫んだ。
「嘘だ! ギャン。お前はただ、因縁をつけたいだけなんだ。正直に言えよ。おれが気に入らないだけなんだろ?」
しゅっ、とギャンの手首が動いた。
ぱあん、とパックの頬が鳴る。
じいん、と痛みが痺れを伴ってパックの頬にしみた。
ギャンは唇をまくりあげて言い放った。
「なんて言い草だ! お前には年上の人間にたいする敬意というのはないのか?」
かっ、とパックの胸に怒りがこみあげた。
この野郎!
パックはギャンに飛びかかった。
「それ!」
ツーランが足をとばし、パックの足にからめてきた。
わっ、とパックは前かがみなって転んだ。
転んだところに、ツーランが爪先で蹴り上げようとしてきた。
パックはごろごろと転がってそれを避けた。
その時、パックの指先が触れたものは、細い木の枝だった。無我夢中で細枝を握りしめ、パックは立ち上がった。
「おっ?」
さらに攻撃を加えようとしたツーランは、パックが木の枝を握っていることに、ちょっとためらった。
細い木の枝一本ではあるが、パックはそれを、剣を持つかのような構えで手にしていた。
ツーランは「へっ!」と笑った。
なんだ、ちょっと触っただけでぽきりと折れそうな細い木の枝だ。ためらった自分が馬鹿のようである。
だっとばかりに突っ込む。
ぴしっ!
「わっ!」
ツーランは鼻を押さえた。
つーん、と痛みが鼻先から脳天へ突き刺さる。
「痛え!」
悲鳴をあげ、ツーランはかがみこんだ。
ぱしっ!
また鋭い痛みが頬をおそった。
頬をおさえた手の甲にまた痛みがおそう。
わっ、わっと悲鳴をあげつつ、ツーランは踊りを踊るように飛び跳ねた。
いったいなにがおきた?
痛みに涙がにじむ瞼をあげ、パックを見る。
パックは静かに枝先をこっちへ向け、立っている。
くそっ!
一歩踏み出すと、パックの右手が素早く動いた。
ひゅっ、というような風を切る音がして、ツーランの上唇に痛みが走った。
「わあっ!」
ツーランはどっとばかりに尻餅をついてしまった。
もう、戦う気力すらない。
それを見ていたギャンは、さっと手を振り、仲間に合図をした。
さっとばかりに、仲間たちは、パックの背後をふさいだ。
にやっ、とギャンは笑った。
「やるじゃないか、パック。おまえの父親から教えられたのか?」
ギャンの言葉に、パックははじめて気がついた、というように、手元の枝を見つめた。
身体が勝手に動いていた。
そうだ、ホルンの朝の修行とおなじ気持ちで枝を握っていたのだ。
ギャンを見上げたパックの顔に、不敵な笑みがうかんだ。
「だとしたらどうなんだ?」
ギャンは顎をあげた。
「ますます見逃せないな。お前の父親は軍隊あがりだ。つまり人殺しの訓練を受けているということだ。そんな危ない訓練を受けているということは、いつかお前もその成果を試したいと思うようになるだろう。そんなことにならないよう、いまからお前に、徹底的に教育する必要がありそうだ」
ぺっとパックは足もとに唾をはいた。
つくづくギャンは、自己正当化しかないやつなんだ。口では立派なことを言って、その実、他人にたいし暴力をふるいたいだけなんだ。
ギャンの目が細くなった。
そのギャンの手元に、手下のひとりがあたりを探し、木の棒を拾うとさしだす。
ギャンはそれを受け取り、握りしめた。
じぶんの木の棒を見て、そしてパックの握る木の枝を見る。
太さが違いすぎる。
ちょっと当たっただけで、パックの木の枝はぽっきりと折れてしまうだろう。
ギャンは勝利を確信した。
「嘘だ! ギャン。お前はただ、因縁をつけたいだけなんだ。正直に言えよ。おれが気に入らないだけなんだろ?」
しゅっ、とギャンの手首が動いた。
ぱあん、とパックの頬が鳴る。
じいん、と痛みが痺れを伴ってパックの頬にしみた。
ギャンは唇をまくりあげて言い放った。
「なんて言い草だ! お前には年上の人間にたいする敬意というのはないのか?」
かっ、とパックの胸に怒りがこみあげた。
この野郎!
パックはギャンに飛びかかった。
「それ!」
ツーランが足をとばし、パックの足にからめてきた。
わっ、とパックは前かがみなって転んだ。
転んだところに、ツーランが爪先で蹴り上げようとしてきた。
パックはごろごろと転がってそれを避けた。
その時、パックの指先が触れたものは、細い木の枝だった。無我夢中で細枝を握りしめ、パックは立ち上がった。
「おっ?」
さらに攻撃を加えようとしたツーランは、パックが木の枝を握っていることに、ちょっとためらった。
細い木の枝一本ではあるが、パックはそれを、剣を持つかのような構えで手にしていた。
ツーランは「へっ!」と笑った。
なんだ、ちょっと触っただけでぽきりと折れそうな細い木の枝だ。ためらった自分が馬鹿のようである。
だっとばかりに突っ込む。
ぴしっ!
「わっ!」
ツーランは鼻を押さえた。
つーん、と痛みが鼻先から脳天へ突き刺さる。
「痛え!」
悲鳴をあげ、ツーランはかがみこんだ。
ぱしっ!
また鋭い痛みが頬をおそった。
頬をおさえた手の甲にまた痛みがおそう。
わっ、わっと悲鳴をあげつつ、ツーランは踊りを踊るように飛び跳ねた。
いったいなにがおきた?
痛みに涙がにじむ瞼をあげ、パックを見る。
パックは静かに枝先をこっちへ向け、立っている。
くそっ!
一歩踏み出すと、パックの右手が素早く動いた。
ひゅっ、というような風を切る音がして、ツーランの上唇に痛みが走った。
「わあっ!」
ツーランはどっとばかりに尻餅をついてしまった。
もう、戦う気力すらない。
それを見ていたギャンは、さっと手を振り、仲間に合図をした。
さっとばかりに、仲間たちは、パックの背後をふさいだ。
にやっ、とギャンは笑った。
「やるじゃないか、パック。おまえの父親から教えられたのか?」
ギャンの言葉に、パックははじめて気がついた、というように、手元の枝を見つめた。
身体が勝手に動いていた。
そうだ、ホルンの朝の修行とおなじ気持ちで枝を握っていたのだ。
ギャンを見上げたパックの顔に、不敵な笑みがうかんだ。
「だとしたらどうなんだ?」
ギャンは顎をあげた。
「ますます見逃せないな。お前の父親は軍隊あがりだ。つまり人殺しの訓練を受けているということだ。そんな危ない訓練を受けているということは、いつかお前もその成果を試したいと思うようになるだろう。そんなことにならないよう、いまからお前に、徹底的に教育する必要がありそうだ」
ぺっとパックは足もとに唾をはいた。
つくづくギャンは、自己正当化しかないやつなんだ。口では立派なことを言って、その実、他人にたいし暴力をふるいたいだけなんだ。
ギャンの目が細くなった。
そのギャンの手元に、手下のひとりがあたりを探し、木の棒を拾うとさしだす。
ギャンはそれを受け取り、握りしめた。
じぶんの木の棒を見て、そしてパックの握る木の枝を見る。
太さが違いすぎる。
ちょっと当たっただけで、パックの木の枝はぽっきりと折れてしまうだろう。
ギャンは勝利を確信した。
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