蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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聖剣

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 どっしりとした岩の台座に、一本の古びた剣が突き刺さっている。剣は垂直に立ち、突き刺さったところは、岩に同化しているように見えた。
 ホルンとメイサに教わったことを思い出し、パックとミリィはその前に近づくと跪いた。
 目を閉じ、頭を垂れて、ご先祖のことについて思いをめぐらす。
 立ち上がると、ふたりはすばやく目配せをした。
 どっちがさきに剣にふれる?
 ミリィは笑みを浮かべ、すばやく剣に近づいた。
 手を伸ばし、そっと柄の部分に指先を触れさせる。
 それだけだった。
 ちょん、と触っただけで、ミリィは大急ぎで手を引っ込めた。まじまじと触れた指先を見つめているが、なんともなっていない。
 次はパックだ。
 息を吸い込むと、パックは剣に近づいた。
 見れば見るほど、古びた剣だ。
 いったいどんな素材で出来ているのか、錆ているようではないが、長い年月風雨に晒され、埃が何層にもなって、こびりついているようである。
 全体として素っ気ないデザインで、聖剣というような印象ではない。
 まっすぐな両刃の剣に、どっしりとした柄と鍔。装飾らしきものはまったくなく、実用一点張りといった感じだ。
 剣を見ているうち、パックのどこかでなにか奇妙な感覚がうずいていた。
 なんだろう……。
 なんだか懐かしい、といった感情がわきあがってくる。
 さらに近づくと、その感覚はいっそう強まった。
 これはじぶんの所有物だ、そういう感覚がしてくるのだ。
 手を伸ばす。
 柄を握る。
 と、剣を引き抜きたい衝動が、こみあげてきた。
 ぐっとちからをいれる。
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