蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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魔王?

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 帰りは行きの倍時間がかかった。
 なぜならヘロヘロがいたからだ。
 山を下る道を、ヘロヘロは覚束ない足取りで、ミリィやパックに急かされ、歩いていたが、ときどきへたばって、もう歩けないと泣き出し、そのたびにミリィが元気をだしてと励まさなければならなかったからである。
 パックもまた、荷物を抱えることになった。
 あの剣である。
 折れた剣をそのままにするわけにはいかないとホルストが主張し、なんとなく、剣を折れた原因をつくったパックが背負うことになったのである。
 剣は重かった。
 折れる前、パックはその剣がまるで紙のように軽いと感じたものだった。しかし、折れたいまでは、本来の金属の重みが戻ってきたのか、ずっしりと重量を主張して、背中に背負ったバッグのなかで、パックの肩に重みを加えている。
 ようやくふもとに降りて、ホルストの小屋で別れるときには、すでに三日目の朝だった。
 行きの日程とあわせると五日になる。
 パックもミリィもすっかり疲れ、小屋の中へ折り重なるように転がり込んだころは、全員荒い息をついている始末だった。
 元気なのはホルスト老人ひとりだった。
「とにかく家へ帰んないと……」
 パックがミリィに提案すると、彼女も大きくうなずいた。
 ミリィの隣りに、ヘロヘロも尻餅をついている。
 ヘロヘロは、びっしりと全身に汗をかいていた。
 ミリィはヘロヘロに話しかけた。
「ヘロヘロちゃん。あんた、あたしの家へ来る?」
「お家?」
「そう、あたしのお家」
 うん、とヘロヘロはこっくりした。
 パックは驚いた。
「おい、ミリィ。本気か?」
「当たり前じゃない。この子をここに置いたままなんてできないわ」
 この子、だって?
 それを聞いていたホルストも目を丸くしていた。
「さ、行きましょう」
 ミリィが立ち上がると、ヘロヘロも大儀そうに立ち上がる。彼女にうながされ、小屋を出て行く。
 後を追って立ち上がったパックの肩を、ホルスト老人がぐっと掴んだ。
「待て、おぬしには話しがある」
 え? と振り向いたパックにミリィが近づく。
「ミリィ、おぬしは先に帰っておれ。わしはパックとすこし話し合いたいのじゃ」
 ミリィは肩をすくめた。
「そういうことなら、お先に失礼します」
 くるりと背を向け、ミリィはヘロヘロをつれて出て行った。
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