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魔王?
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ぐっとホルスト老人は、全身にちからをこめ、精神を集中させた。
かれの手の平にゆらゆらと陽炎のようなものが立ち昇った。
うん、と気合を入れようとした瞬間、ミリィが飛び出し、手足を伸ばして、ヘロヘロをかばう姿勢になった。
「やめて! そんなこと許せません!」
はっ、とホルスト老人は構えを解いた。ふっと緊張が消え去った。
「なぜじゃ! わしの話を聞いたろう。そやつはわしらのご先祖が封印した、魔王なのじゃぞ! そのままにしておいては、いずれそやつは、ふたたび世界を滅ぼすため、災厄をもたらすに違いないわい!」
ミリィは叫び返した。
「そんなのわからないわよ! もしかしてホルストさんの、勝手な思い込みかもしれないじゃない」
う、とホルストは詰まった。
確かにそうだ。
そのヘロヘロが魔王であるということは、ホルストの推測に過ぎない。
パックが触れた剣が折れた。
そしてヘロヘロがいる。
となれば、魔王を封じた剣からなにかが飛び出したと考えるしかないではないか。剣から出てきたなら、それは封じられた何者かであり、その封じられた何者かは魔王である。
ならばヘロヘロは魔王である。
という理屈だ。
しかしいまのヘロヘロはとても魔王に見えない。
黄色の肌、紫色の唇。
とても人間とは思えない容貌だが、その態度は無邪気で、まるで大きな赤ん坊のようだ。
うむむむ……、とホルストは悩んでいる。
ゆっくりとヘロヘロに近づき、かれを見おろした。
ヘロヘロはぽかんとした顔で老人を見上げ、にっこりと笑った。
まるきり他人に対して、悪意のかけらもなく、恐怖すら感じていないようだ。老人が自分を魔法で焼き殺そうと宣言した後だと言うのに、そんなこと、何もなかったかのようである。
老人はほっとため息をついた。
「わからん。こやつが魔王のなれのはてだとあのときは確かに思えたのだが」
そう言うと、ふっと腕を上げ、額の汗をぬぐった。
パックはあることに気づいた。
「ホルストさん。聞きたいことがあるんだけど」
「なんじゃ」
「魔法、使えるようになったんだね」
パックの言葉に、ホルストは目を丸くした。
「そうじゃ。言われるまで気づかなんだ。確かにわしは魔法を使えるようになった……」
そう言うと、今度は虚空に手を伸ばし、むっ! と気合をいれた。
ぼっ!
老人の手の平から、炎の塊がほとばしる。
オレンジ色の炎は空中を飛び去り、ちいさくなって消えた。
「まさに魔法じゃ……威力も桁違いじゃ」
ホルストはぼうぜんとつぶやいた。
そして首をふった。
「なぜじゃ、なぜいま突然このような魔力がわしに宿ったのじゃ?」
きっとヘロヘロを睨む。
「あやつがあらわれたとき、わしの魔法の力が強まったのを感じた。ということは……」
「ということは?」
パックは問い返した。
「あやつが魔法の源ということじゃ!」
そう言うとさっと指さす。
そして真っ二つに割れた剣に目をおとす。
「パックが触れたときこの剣が折れた……」
じろりとパックを睨む。
睨まれたパックはぞくりとなった。
それほど老人の凝視は厳しいものだった。
「不思議じゃ、こんなことははじめてのことじゃ。しかもお前はだれもできなかった剣を引き抜くということをしでかした。なぜ、そんなことが出来たんじゃ?」
「わ、わかんないよ。おれ、なんとなく引き抜けると思って……」
パックはへどもどといい訳をした。
ミリィは、ヘロヘロと名乗った、奇妙な人物とともに、無言でパックとホルストを見守っている。
山の頂上に風が吹きわたっていた。
かれの手の平にゆらゆらと陽炎のようなものが立ち昇った。
うん、と気合を入れようとした瞬間、ミリィが飛び出し、手足を伸ばして、ヘロヘロをかばう姿勢になった。
「やめて! そんなこと許せません!」
はっ、とホルスト老人は構えを解いた。ふっと緊張が消え去った。
「なぜじゃ! わしの話を聞いたろう。そやつはわしらのご先祖が封印した、魔王なのじゃぞ! そのままにしておいては、いずれそやつは、ふたたび世界を滅ぼすため、災厄をもたらすに違いないわい!」
ミリィは叫び返した。
「そんなのわからないわよ! もしかしてホルストさんの、勝手な思い込みかもしれないじゃない」
う、とホルストは詰まった。
確かにそうだ。
そのヘロヘロが魔王であるということは、ホルストの推測に過ぎない。
パックが触れた剣が折れた。
そしてヘロヘロがいる。
となれば、魔王を封じた剣からなにかが飛び出したと考えるしかないではないか。剣から出てきたなら、それは封じられた何者かであり、その封じられた何者かは魔王である。
ならばヘロヘロは魔王である。
という理屈だ。
しかしいまのヘロヘロはとても魔王に見えない。
黄色の肌、紫色の唇。
とても人間とは思えない容貌だが、その態度は無邪気で、まるで大きな赤ん坊のようだ。
うむむむ……、とホルストは悩んでいる。
ゆっくりとヘロヘロに近づき、かれを見おろした。
ヘロヘロはぽかんとした顔で老人を見上げ、にっこりと笑った。
まるきり他人に対して、悪意のかけらもなく、恐怖すら感じていないようだ。老人が自分を魔法で焼き殺そうと宣言した後だと言うのに、そんなこと、何もなかったかのようである。
老人はほっとため息をついた。
「わからん。こやつが魔王のなれのはてだとあのときは確かに思えたのだが」
そう言うと、ふっと腕を上げ、額の汗をぬぐった。
パックはあることに気づいた。
「ホルストさん。聞きたいことがあるんだけど」
「なんじゃ」
「魔法、使えるようになったんだね」
パックの言葉に、ホルストは目を丸くした。
「そうじゃ。言われるまで気づかなんだ。確かにわしは魔法を使えるようになった……」
そう言うと、今度は虚空に手を伸ばし、むっ! と気合をいれた。
ぼっ!
老人の手の平から、炎の塊がほとばしる。
オレンジ色の炎は空中を飛び去り、ちいさくなって消えた。
「まさに魔法じゃ……威力も桁違いじゃ」
ホルストはぼうぜんとつぶやいた。
そして首をふった。
「なぜじゃ、なぜいま突然このような魔力がわしに宿ったのじゃ?」
きっとヘロヘロを睨む。
「あやつがあらわれたとき、わしの魔法の力が強まったのを感じた。ということは……」
「ということは?」
パックは問い返した。
「あやつが魔法の源ということじゃ!」
そう言うとさっと指さす。
そして真っ二つに割れた剣に目をおとす。
「パックが触れたときこの剣が折れた……」
じろりとパックを睨む。
睨まれたパックはぞくりとなった。
それほど老人の凝視は厳しいものだった。
「不思議じゃ、こんなことははじめてのことじゃ。しかもお前はだれもできなかった剣を引き抜くということをしでかした。なぜ、そんなことが出来たんじゃ?」
「わ、わかんないよ。おれ、なんとなく引き抜けると思って……」
パックはへどもどといい訳をした。
ミリィは、ヘロヘロと名乗った、奇妙な人物とともに、無言でパックとホルストを見守っている。
山の頂上に風が吹きわたっていた。
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