蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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ヘロヘロの覚醒

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 と、パックを睨んでいたダルトの表情が変化した。
 なんだろう、とパックは眉をひそめた。
 ダルトの視線はパックの背中ごしを見ている。
 ふるい手だ。
 背中に何かあると思わせ、おもわずふりかえったときに襲いかかるつもりだろう。
 が、ダルトのほかギャンの取り巻き、そしてギャンもまたパックの背中に視線を注いでいる。
 ミリィもあっけにとられた表情で同じ方向を見ていた。
 そのときようやく駈けつけたニコラ博士がパックに声をかけた。
「パック、そいつはいったい何者だ?」
 ようやくふりむいたパックは目を見開いた。
 そこにいるのはヘロヘロだった。
 が、それはいままでのヘロヘロではなかった。
 ずんぐりとした身体つきはそのままだったが、その表情が違っていた。
 細い目が妖しく光り、口にはにゅっと牙が生えている。
 そして頭の角が太く、そして長くなっていた。
 いまでは二十センチほどの長さにのび、太さも五、六センチはありそうだ。
 ぐふぐふぐふ……と、ヘロヘロは口の中でこもった笑い声をたてた。
「ヘロヘロ……お前……」
 パックが声をかけるとヘロヘロはぎろりと目玉を動かした。
「パックか……駆けつけるのが遅かったじゃないか……もしかして、ここに来るのは厭だったんじゃないのか?」
「なに言ってるんだ?」
 パックの胸はずきりと痛んだ。
 ヘロヘロのことは考えたくもなかった。だからギャンがあんな目つきで見ていたのに関わらず、教室を飛び出してしまったのだ。こうなることは判っていたのに……。
 はあはあはあ……とヘロヘロは低い声で笑った。
 パックはぞっとなった。
 魔王が復活した!
 その表情を覗き込んだヘロヘロは鷹揚にうなずいた。
「さよう、わしこそが魔王そのものである!」
 そう言うとギャンを見る。
 視線を向けられたギャンは、へたへたと腰を抜かしていた。
「ギャン、とかいったな。礼を言うよ。お前のおかげで、本来のわしに戻れたからな。この角……」
 こつこつと指をあげ、角にふれた。その指には太く、鋭い爪が生えていた。
「これにお前の悪意、嫉妬、妄念がびんびんと響いてきた。お前の悪意は底なしだ。お前の暗い欲望にわしは目覚めたのだ……」
 わはははは……!
 ヘロヘロの哄笑は、まるで物理的な力を持つかのようにあたりを圧倒する。ダルトは恐怖のあまりくらくらと目をまわしていた。
「ヘロヘロちゃん……」
 目に涙をため、ミリィはつぶやいた。彼女を羽交い絞めにしていたツーランは、すでに雲を霞と逃げ去っていた。
 ほほ、とヘロヘロは軽く笑った。
「ミリィ、お前はわしに善良さを教えてやろうと思っていたようだが、それはいまはかなわぬことだ。が、お前がわしに寄せてくれた好意に免じ、お前だけは助けることにしよう。さて、魔王の復活の手はじめとして、このロロ村を地獄の業火に陥としてやろう」
 ヘロヘロはさっと両手を天にのばした。
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