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ヘロヘロの覚醒
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がっしゅ、がっしゅと蒸気の音を立て、ムカデは全速で走っている。
ときおり野良作業に出ている村人と出会うとみな、わっ、と驚き口をぽかんと開け見送った。
やがて学校の建物が見えてくる。
校庭に走りこみ、パックはムカデを止め操縦席から飛び降りた。コールもその後を駈けていく。
そのまま校舎の裏へまわる。
「おい、パック!」
つられたように、博士もパックを追って校舎の裏へと走っていった。
校舎裏の森の中に踏み込むと、すぐにギャンたちの姿が見えた。
森の中の開けた場所に、ヘロヘロを真ん中に輪をつくって取り囲んでいる。
輪の中心のヘロヘロはべそをかいていた。
ぼこ! と、ヘロヘロの頭に小石がぶつかる。ギャンの取り巻きのひとりが投げたのだ。小石がぶつかり、悲鳴をあげたヘロヘロを見て、取り巻きたちはげらげら笑っている。
すでに何度も石をぶつけられた後なのか、ヘロヘロの顔は無残にはれあがり、出血のあとがあった。
腰に両手をあて立ちはだかっているギャンに、ミリィが叫んでいた。
「やめてギャン! ヘロヘロちゃんにかまわないで!」
必死にギャンを止めようとするが、それを後ろからツーランが羽交い絞めにしている。
ギャンはじろりとミリィを見た。
「そうはいかんな。こいつは噂では魔王のなれのはてだという。ご先祖様が封印した魔王を、パックのやつが解放してしまった。危険じゃないか。いまのうち、殺したほうがいいかもしれん」
「殺す! あなた、なに言っているの?」
「村のためだ。こいつは生きていては世界にまた破滅をもたらすかもしれないじゃないか? 違うかね」
「そんなことない! ヘロヘロちゃんにはあたしが人を愛したり、大事にする心を教えてあげるつもりなんだもの。絶対、世界を破滅させるような魔王にはさせないわ!」
「坊っちゃん、ミリィを黙らせてくださいよ!」
ギャンの右手にいるダルトという逞しい体の若者がいらいらして叫んだ。ダルトは学校を卒業して、いまは農作業についている。が、在校中からギャンとはつるんでいることが多く、卒業後もこうして取り巻きのひとりでいるのだ。ダルトは手に棍棒をもっていた。ダルトの父親はギャンの父親サックの農地を借りて耕作している小作人で、自然ギャンのことを坊っちゃんとよぶ。
ぺっと手に唾をつけ、ダルトは棍棒をふりかぶりヘロヘロに打ちかかった。
ミリィが悲鳴をあげた。
ごつ、といやな音を立て、棍棒がヘロヘロのどこかに当たった。
うむ……とひとこえ唸ると、ヘロヘロはしゃがみこんだ。そのまま動かない。気絶したのかもしれなかった。
「はなして! ヘロヘロちゃんが死んじゃう!」
目に一杯涙をため、ミリィは叫んだ。
「ギャン!」
たまらず、パックは叫んだ。
ギャンはゆっくりとふりむいた。
「なんだ、パックか……お前はあいつのことは知らんといったばかりじゃないか。邪魔するなよ」
「パック! ヘロヘロちゃんを助けて!」
ミリィの言葉にパックははじかれたように飛び出した。
「そらよ!」
そのパックの足もとにダルトがひょい、と棍棒を放り投げた。
「わっ!」
棍棒に足をとられ、パックはもんどりうって転んだ。さっと転んだ勢いで一回転すると、一挙動で立ち上がる。
「おっ?」
パックの素早い動きに、ダルトはちょっと驚いたのか、とたんに用心深い表情になった。
ダルトは身をかがめて棍棒を取り上げると、腰をひくくして構えた。
パックも身構えた。
農作業で鍛えられているダルトの身体は、服の上からもはっきりわかるほど筋肉が盛り上がってごつごつとしていた。ほかの取り巻きの、やわな身体ではなかった。
「ダルト。良い機会だ。このパックに目上の人間を尊敬させることを教えてやれ! ただし甘く見るなよ。こいつの父親に剣を教えられているらしいからな」
ぱしっ、ぱしっと手に棍棒を打ちつけ、ダルトはにやにやと笑っていた。
「なあに心配することねえです。おれだって多少剣の心得はあるんで」
そう言うと、ダルトは棍棒を両手に持つと正眼に構えた。
なるほど……確かに心得はあるようだ。
パックは目を細めた。
じりっ、じりっとダルトはパックに向け距離を縮めていく。
パックには得物はない。
やあ! と、ダルトは声をあげ撃ちかかる。
さっとパックはそれをさけ、ぴょんと一飛びすると距離をとった。それを見越し、ダルトは棍棒を横殴りにふった。
パックは背をそらせ、あやうく避けた。
焦りに、汗が噴き出した。
このままではやられる。
ときおり野良作業に出ている村人と出会うとみな、わっ、と驚き口をぽかんと開け見送った。
やがて学校の建物が見えてくる。
校庭に走りこみ、パックはムカデを止め操縦席から飛び降りた。コールもその後を駈けていく。
そのまま校舎の裏へまわる。
「おい、パック!」
つられたように、博士もパックを追って校舎の裏へと走っていった。
校舎裏の森の中に踏み込むと、すぐにギャンたちの姿が見えた。
森の中の開けた場所に、ヘロヘロを真ん中に輪をつくって取り囲んでいる。
輪の中心のヘロヘロはべそをかいていた。
ぼこ! と、ヘロヘロの頭に小石がぶつかる。ギャンの取り巻きのひとりが投げたのだ。小石がぶつかり、悲鳴をあげたヘロヘロを見て、取り巻きたちはげらげら笑っている。
すでに何度も石をぶつけられた後なのか、ヘロヘロの顔は無残にはれあがり、出血のあとがあった。
腰に両手をあて立ちはだかっているギャンに、ミリィが叫んでいた。
「やめてギャン! ヘロヘロちゃんにかまわないで!」
必死にギャンを止めようとするが、それを後ろからツーランが羽交い絞めにしている。
ギャンはじろりとミリィを見た。
「そうはいかんな。こいつは噂では魔王のなれのはてだという。ご先祖様が封印した魔王を、パックのやつが解放してしまった。危険じゃないか。いまのうち、殺したほうがいいかもしれん」
「殺す! あなた、なに言っているの?」
「村のためだ。こいつは生きていては世界にまた破滅をもたらすかもしれないじゃないか? 違うかね」
「そんなことない! ヘロヘロちゃんにはあたしが人を愛したり、大事にする心を教えてあげるつもりなんだもの。絶対、世界を破滅させるような魔王にはさせないわ!」
「坊っちゃん、ミリィを黙らせてくださいよ!」
ギャンの右手にいるダルトという逞しい体の若者がいらいらして叫んだ。ダルトは学校を卒業して、いまは農作業についている。が、在校中からギャンとはつるんでいることが多く、卒業後もこうして取り巻きのひとりでいるのだ。ダルトは手に棍棒をもっていた。ダルトの父親はギャンの父親サックの農地を借りて耕作している小作人で、自然ギャンのことを坊っちゃんとよぶ。
ぺっと手に唾をつけ、ダルトは棍棒をふりかぶりヘロヘロに打ちかかった。
ミリィが悲鳴をあげた。
ごつ、といやな音を立て、棍棒がヘロヘロのどこかに当たった。
うむ……とひとこえ唸ると、ヘロヘロはしゃがみこんだ。そのまま動かない。気絶したのかもしれなかった。
「はなして! ヘロヘロちゃんが死んじゃう!」
目に一杯涙をため、ミリィは叫んだ。
「ギャン!」
たまらず、パックは叫んだ。
ギャンはゆっくりとふりむいた。
「なんだ、パックか……お前はあいつのことは知らんといったばかりじゃないか。邪魔するなよ」
「パック! ヘロヘロちゃんを助けて!」
ミリィの言葉にパックははじかれたように飛び出した。
「そらよ!」
そのパックの足もとにダルトがひょい、と棍棒を放り投げた。
「わっ!」
棍棒に足をとられ、パックはもんどりうって転んだ。さっと転んだ勢いで一回転すると、一挙動で立ち上がる。
「おっ?」
パックの素早い動きに、ダルトはちょっと驚いたのか、とたんに用心深い表情になった。
ダルトは身をかがめて棍棒を取り上げると、腰をひくくして構えた。
パックも身構えた。
農作業で鍛えられているダルトの身体は、服の上からもはっきりわかるほど筋肉が盛り上がってごつごつとしていた。ほかの取り巻きの、やわな身体ではなかった。
「ダルト。良い機会だ。このパックに目上の人間を尊敬させることを教えてやれ! ただし甘く見るなよ。こいつの父親に剣を教えられているらしいからな」
ぱしっ、ぱしっと手に棍棒を打ちつけ、ダルトはにやにやと笑っていた。
「なあに心配することねえです。おれだって多少剣の心得はあるんで」
そう言うと、ダルトは棍棒を両手に持つと正眼に構えた。
なるほど……確かに心得はあるようだ。
パックは目を細めた。
じりっ、じりっとダルトはパックに向け距離を縮めていく。
パックには得物はない。
やあ! と、ダルトは声をあげ撃ちかかる。
さっとパックはそれをさけ、ぴょんと一飛びすると距離をとった。それを見越し、ダルトは棍棒を横殴りにふった。
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このままではやられる。
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