蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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駐屯地

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 背中に銃口を押し付けられたまま、総督府の建物に連れて行かれる。
「怪しいものじゃないですよ! とにかくロロ村で大変なことが……」
 だが兵士たちはパックの言うことなど耳を貸す様子もなく、建物の奥へと引っ張っていく。
「なんだ、その小僧は?」
 連れてこられた部屋の向こう側で、なにか書類仕事をしていた軍服の男が、顔をあげ叫んだ。
 まるで数日間絶食していたと思われるほどげっそりと頬がこけ、目の下には黒々とした隈ができている。その割りに身動きは機敏で、パックはこの軍人はもとからこういう顔つきなんだと思った。
 肩には中佐の徽章があった。
「はあ、ロロ村の住民だと申しておりますが、なにやら妙なことを口走っております」
 ロロ村……?
 と、中佐は首をかしげた。
「ああ、この近くの村だな。で、何があったというんだね?」
 これはパックに向けての問いかけだった。
 パックは勢い込んで、いままでのことを事細かに説明した。
 ふむふむ、と一応親身になってパックの説明を聞いていた中佐だったが、説明が終わるや否や首をふった。
「魔王だの、魔法だの、昼間からこの子供は酒でも呑んでいるのか?」
 はっ、とパックを連れてきた兵士はかしこまった。
「いいえ、その様子はありません。ただ妙な乗り物で近づいてきたので、怪しいと思い停止させたのであります」
「妙な乗り物?」
「はあ、ムカデのような足が六対ついておりまして……」
「見せてくれ」
 中佐は立ち上がった。
 パックを連れてふたたび表へ出る。
 建物の前に停止しているムカデに気づき、呆然となった。
「これは……どこの兵器だ?」
「ニコラ博士の発明だよ!」
「ニコラ博士?」
 そこでパックはニコラ博士のことも説明するはめとなった。
 中佐はうなずいた。
「科学省長官のテスラ博士に兄がいるとは聞いていたが、そうかロロ村にいたのか……」
「科学省長官?」
「そうだ、わがコラル帝国が誇る科学省の長官をなさっておられる。いままで様々な兵器を開発、発明なさった偉大な科学者だ」
 そう言うと中佐は胸を張った。
 ぽん、とパックの肩に手をやる。
「ともかくお前の村でなにか事件が起きたと言うなら、調査官を派遣するから、調書はその後でとろう。ミリィという女の子が行方不明となれば、わがほうで捜索人として手配するからな」
 駄目だこりゃ、とパックは肩を落とした。
 まるで信じてくれない。
 中佐は腰に両手をあて、にやにやしながら続けた。
「とにかく、魔法だの魔王だの夢のようなことを言うのはよしなさい。まあ、テスラ博士の兄の知り合いだと言うなら怪しいものではなさそうだが、頭がおかしいと思われるのがいやだったら、あまり法螺は吹かないほうが利口だぞ」
 パックはムカデに乗り込み、アクセルを踏み込んだ。そっぽをむき、唇を噛みしめた。
 こうなったら、誰にも頼むもんか!
 しゅっ、しゅっと蒸気を吹き上げ、動き出したムカデに中佐は目を丸くした。
「さよならっ!」
 叫ぶと、パックはミリィの連れ去られた北の方角へ向けて、ムカデを走らせていった。
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