蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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裁定

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 ラングはとん、と杖で床を叩いた。
「彼女の提案で問題が解決された! ミリィよ」
 ラングに話しかけられ、ミリィは顔をあげた。
「お前はそのヘロヘロを正しく導くことはできるか? 邪悪に染まらせることなく、魔王にさせることなく」
 ミリィは驚いた。
「わたしに?」
「そうだ。わしの見るところ、ヘロヘロはお前に対し──なんというか、精神的に依存しているように見える。お前が導けば、悪にそまることなく、正しく生きることを悟るようになるかもしれん。つまり人間になる、ということだよ」
「人間になるのですか? このヘロヘロが」
「そうだ。可能性は低いが、ありえないことではない。人間として生きたい、とそやつが心の底から思わないと駄目だがな。
 その方法を教えてやることはできん。わしにも判らんからだ。
 ただ、わしの予感によれば、どこか遠くの場所で、お前はその使命をはたすことになると告げておる。
 お前はヘロヘロを連れ、世界中を旅して、その答えを見つけなくてはならない。その旅の中で、お前はヘロヘロを人間にする答えを見つけることになろう」
 ミリィは叫んだ。
「あたしやります! ヘロヘロを人間にして見せます!」
 ラングはうなずいた。
「そう言うと思った。ミリィよ、お前は優しい心を持つようだ。その優しさがヘロヘロを改心させるちからとなるかもしれん。だがお前ひとりではその使命も重荷でしかないだろう。わしらの代表をひとり、お前たちの使命達成の助力としてつけよう。どうだ、わしの提案を受けるかね?」
 ミリィはうなずいた。
「はい! ヘロヘロを改心させるためなら、なんでもやります!」
「よし決まったな! それではわれらの代表を選ばなければならんが……」
 うおう……!
 その場にいたエルフ全員が手を挙げた。
「お館さま! ぜひわたしを推薦してください!」
「いいえ、わたしです! その使命にわたしを命じてください!」
「わたしを!」
「わたしを!」
 全員、熱をおびて口々に立候補していた。
 ミリィはあっけにとられた。
「いったいどうして……」
 驚いているミリィにラングは答えた。
「この使命のほか、エルフとして名誉に感じる使命はあるまい? この使命を成功させたなら、魔王を改心させたと同時に、世界を救うという名誉も得ることになる。だがこう自薦の者が多くてはだれを選んで良いか迷うな……。おおそうだ! ミリィとやら、おぬし食事はまだかな? 休息はしておらんのじゃろう?」
 言われてミリィは気づいた。
 考えてみれば食事はおろか、睡眠すらろくすっぽとっていない。
 空腹と睡眠不足で、ミリィは倒れそうになっていた自分に気づいた。
「やはりそうか……。まずはおぬしに食事と休養をあたえよう。ヨン。お前、この娘に食事と泊まる場所を頼む」
 はい、とヨンはうなずいた。
 手をあげ、ミリィの右手に重ねる。
「いらっしゃい、あなたいまにも倒れそうよ」
 ミリィはヘロヘロを見た。
 あいかわらず一言も発せず、棒をのんだように固まっている。
「あれのことなら心配しなくてもいいのよ。あとで会わせてあげるから、まずはあなたが休息をとらないとね」
 ミリィは素直に従った。
 そのほうがいいと思えたのだ。
 これもエルフの魔法であろうか?
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