蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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帝国

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 町を歩くすべての人がふり返る。
 思ったとおりだ。
 パックはムカデの操縦席でハンドルを握り、となりにマリアを乗せてボーラン市街を練り歩いた。
 人々は驚きの表情を見せ、あっけにとられこちらを見つめている。
 まずは人々の注目を集めることだ。
 最初にボーラン市に入ったとき、蒸気車の運転手が話しかけてきて、パックの頭に作戦が浮かんでいた。
 人々の注目を集め、じゅうぶん引き付けてその上でミリィを攫った、あの白球についての情報をつのるつもりだったのである。
 パックは目の前に広場があるのに気づき、そこへとムカデを向かわせた。
 広場の真ん中に行き着くと、ムカデを停止させる。
 物見高い市民がぞろぞろと集まってくる。
 パックは立ち上がった。
 人々は面白そうな、それでいて一抹の不安を浮かべる複雑な表情で見上げている。
 息を吸い込み、唇を舐めた。
「みなさん!」
 パックの声に、ちょっとどよめきがおきた。
「みなさんに少しぼくの話を聞いてもらいたいと思います!」
 なんだ、はやく喋れ! と、ひとりが声を張り上げた。
 良い傾向だ。
「ぼくはボーラン市の南、ロロ村と言うところから来ました。そこではある不思議な出来事がおき、白い球のようなものが北を目指して飛び去るという事件がおきました。ぼくはその白球の行方について知りたいと思っているのです。みなさんの中で、その白球を見た、あるいは噂を聞いたというかたはいらっしゃいませんか?」
 集まった人々はおたがい顔を見合わせた。
 なんだ、知っているか?
 さあなあ……。
 空飛ぶ白球? なんだい、そりゃ?
 ざわめきはしだいに沈黙にかわる。
 パックはふたたび声を張り上げた。
「なんでもいいんです! だれか、空を飛ぶ白球について……」
 その声は途切れてしまう。
 人々は興味を失ったのか、三々五々、散らばっていく。
 パックはがくりと肩を落とした。
 だめだ……うまくいくと思ったのに。
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