蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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ギャンの野望

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 翌日、終点のボーラン市の駅ホームには、トーラの両親が待ち受けていた。
 ギャンにとっては祖父母にあたる。
「お帰り」
 最初に声をかけたのは祖母のミトである。
 ほっそりとした、背の高い老婦人で、厳しい灰色の目をして背をまっすぐのばしている。髪の毛はすでに真っ白になっていたが、それをきちんととかしつけている。どことなく、母親のトーラにおもざしが似ていた。
「お前がギャンか。こんな小さなとき、わしの膝に乗っけてやったきりだったなあ」
 人のよさそうな笑みを浮かべているのは、祖父のゴルドであった。祖母のミトとは違い、背が低く、恰幅の良い老人であった。ちいさな鼻眼鏡をちょこんとかけ、髪の毛はほとんど抜けていた。
 祖父母の背後には使用人が数人、ひかえている。かれらはすぐさま、トーラとギャンの手荷物を受け取り、待たせていた蒸気車に積み込んだ。
「さあさあ、立ち話もなんだし、はやく家へ帰ろう」
 ゴルドはトーラとギャンを抱きかかえんばかりにして蒸気車に乗り込ませた。車には向かい合わせの座席があり、ギャンは二人の祖父母に見守られる形になって座った。
 しゅっ、しゅっと蒸気を噴き出し、一行が乗り込んだ蒸気車は走り出した。
 ギャンははじめて見るボーラン市の景色に圧倒される思いだったが、それを必死に押し隠していた。しいて無表情を装っていたが、実際は大声で叫びだしたい気分だった。
 これが都会か!
 これが帝国の首都か!
 すげえ! なんて人があふれているんだ!
 それに建物があんなに……。
 ギャンの目は、駅前の商店街や、巨大な劇場、ときおり見かける帝国の威信を高めるためのさまざまな彫像に惹き付けられていた。彫像はボーラン市で高名な文学者、科学者、軍人などの英雄像である。それらの事跡はギャンは一切、知らなかったが、彫像の目は厳しくギャンを監視しているようだった。
 首都は富と栄光をこれ見よがしに見せ付けている。
 ロロ村とはえらい違いだ……。
 空を見上げるギャンの目がおおきく見開かれる。
「あれは?」
 指さすギャンの方向を見上げた祖父は答えた。
「ああ、あれは飛行船だ」
「飛行船?」
「なんでも空気より軽い気体を詰め込んだ船体で飛ぶんだそうだ。一度に百人の乗客を運べるということだ」
 ギャンはじっと首都の上空をゆったりと飛ぶ、葉巻型の飛行物体を見送っていた。
 葉巻型の機体は銀色の塗装がなされており、陽射しをまぶしく反射している。
 祖父を見て尋ねる。
「ねえお祖父ちゃん、ぼくもあれに乗れるかい?」
 ほっほ、とゴルドは笑った。
「なんだ、ギャンはあれに乗りたいのか?」
 ギャンはなぜか真っ赤になった。好奇心をむきだしにしたことが悔やまれた。
 ここにはおれの知らないことがいくらでもありそうだ。
 このボーラン市にギャンは住むことになるのである。
 すべてを体験してやろう!
 ギャンはわくわくしていた。
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