194 / 279
サーカス
4
しおりを挟む
ふたりのピエロがこけつまろびつ、会場のすみからすみまで追いかけっこをしている。いっぽうのやせたひょろ長い身体つきをしたピエロが、もうひとりの太ったピエロの頭から帽子を奪い取りこっちへおいでとからかいつつ逃げている。太ったピエロはよたよたとした動きで、必死になっておいかけている。途中、わざとらしく床に落ちたバナナの皮ですべり、大げさな動きでずっでんどうとひっくりかえる。
そのたびに観客はわっと湧き、笑い声をあげる。観客の中にニコラ博士もいた。博士だけは出演しなくてすむので、観客席に気楽に座っている。
ひとしきりピエロの演技が終わると、つぎは動物たちの演技である。数頭の犬が行列をつくって登場すると、自転車にのったり、輪くぐりをしてみせる。犬たちの演技のつぎはライオンと虎の登場だ。会場に鉄の檻が組み立てられ、猛獣使いがライオンと虎を鞭の動きで演技させる。象、熊なども登場し、猛獣使いのたくみな誘導で、あきれるほど従順に演技をする。
その間、オーケストラが軽快なポルカや、ジンタを演奏し、雰囲気を盛り上げた。
数分間の休憩のあと、会場が暗くなり、スポットライトを浴びてキオ団長が現れ演説をはじめた。
「さて、ここにお集まりのみなさま! 大変お楽しみになられたことを思い、わがサーカス欣快のいたりでございます! つぎにお目にかかりますのは神秘の技を身につけた隠者ホルストによりますイルージョン! 誰も見たことのない、奇跡の技をぜひご覧ください!」
もうもうと蒸気の白煙がたちのぼり、オーケストラが音楽を盛り上げる。トランペットの奏列が会場に甲高いテーマを響き渡らせる。その中を、パックの運転するムカデがのしのしと現れた。ムカデに乗るのはパックのほか、マリア、サンディ、そしてホルスト。
マリアの身体は全身、金色に光り輝いている。会場に出演する直前、サーカスの団員たちによって入念に磨き上げたてられたのだ。
ムカデは会場をぐるりと進んで、喚声があがるなかホルストが両手をふって応えている。ホルストの皺ぶかい顔はほころび、その目は輝いていた。
こんなホルストははじめて見る、とパックは思っていた。
会場からニコラ博士が手を振った。それにパックたちサンディとマリアも応える。
会場のまんなかにムカデが停まり、ホルストはひらりと地上へ降り立った。
ながいローブの袖をひらめかせ、ホルストは両手を高々とあげる。
わあわあという会場の喚声がじょじょに静まっていく。
そのままホルストは会場が静かになるのを待っていた。
ついに会場は、しわぶきひとつもれない、完全な沈黙につつまれた。
観客の期待が高まっている。
ホルストの口が開いた。
「みなさん、わたしはホルストといい、長年魔法について研究をしてきましたじゃ! この世界には魔法が存在します! それをわしは、証明しましょう」
さっと、ホルストが合図をすると、会場のかたすみからもうもうと蒸気が噴きあがった。蒸気の噴き出し口を持つのはサンディとマリアだ。その蒸気の前にたち、ホルストは両手を動かした。
と、噴き出した蒸気が徐々にかたちをとりはじめ、テントの天井近くの空間に固まっていく。蒸気の雲はひとのかたちをとりはじめた。
おお……、と観客がいっせいに驚きの声をあげる。
蒸気の巨人はゆっくりと歩き出した。
ふわり……ふわり……。
音もなく、しろい巨人が歩いている。目鼻立ちははっきりしないが、たしかにひとのかたちをしているのが見てとれる。
ホルストはふたたび蒸気の雲をあやつりはじめた。
もうひとつ、しろい雲がかたちをとりはじめる。
今度は竜だ!
雲の中からあらわれたのは、翼をひろげた竜であった。
竜はながい身体をくねらせるようにして、巨人にちかづいていく。巨人ははっと驚き、待ち受ける。
さっ、とホルストが指先をあげた。
なんと! 巨人の手には剣が握られていた。
楽団が、この対決を盛り上げるべく、演奏を続けている。音もなく動く二体の雲の怪物の足音、咆哮を音楽で表現している。巨人が歩くと、その足音のかわりに太鼓がリズムを刻み、竜がその口を大きくひろげ、咆哮するときはトランペットが甲高い音をたてる。
ついに竜が巨人に迫った!
巨人は手にした剣をかまえ、立ち向かう。空中を漂うように迫る竜に、手にした剣をふりおろす。ぎゃああ……と竜の咆哮を弦楽器が表現する。剣が竜の身体を断ち切り、ふたつにわれた竜の身体が水蒸気になって散っていく。巨人もまた、ゆっくりと蒸気に戻り消えていった。
わあわあと観客が拍手をおくり、絶賛する。ホルストの顔は得意そうに輝いていた。両隣にサンディとマリアがたち、手をふっていた。
観客の中で、そのサンディをじっと見つめる一団の男たちがいた。みなそろいの黒いスーツで、黒いサングラスをかけていた。男たちはまわりの観客たちとはまるで違い、陰気な表情のままじっと彼女を見つめていた。ショーが終わると、おたがいうなずきあい立ち上がる。
そのたびに観客はわっと湧き、笑い声をあげる。観客の中にニコラ博士もいた。博士だけは出演しなくてすむので、観客席に気楽に座っている。
ひとしきりピエロの演技が終わると、つぎは動物たちの演技である。数頭の犬が行列をつくって登場すると、自転車にのったり、輪くぐりをしてみせる。犬たちの演技のつぎはライオンと虎の登場だ。会場に鉄の檻が組み立てられ、猛獣使いがライオンと虎を鞭の動きで演技させる。象、熊なども登場し、猛獣使いのたくみな誘導で、あきれるほど従順に演技をする。
その間、オーケストラが軽快なポルカや、ジンタを演奏し、雰囲気を盛り上げた。
数分間の休憩のあと、会場が暗くなり、スポットライトを浴びてキオ団長が現れ演説をはじめた。
「さて、ここにお集まりのみなさま! 大変お楽しみになられたことを思い、わがサーカス欣快のいたりでございます! つぎにお目にかかりますのは神秘の技を身につけた隠者ホルストによりますイルージョン! 誰も見たことのない、奇跡の技をぜひご覧ください!」
もうもうと蒸気の白煙がたちのぼり、オーケストラが音楽を盛り上げる。トランペットの奏列が会場に甲高いテーマを響き渡らせる。その中を、パックの運転するムカデがのしのしと現れた。ムカデに乗るのはパックのほか、マリア、サンディ、そしてホルスト。
マリアの身体は全身、金色に光り輝いている。会場に出演する直前、サーカスの団員たちによって入念に磨き上げたてられたのだ。
ムカデは会場をぐるりと進んで、喚声があがるなかホルストが両手をふって応えている。ホルストの皺ぶかい顔はほころび、その目は輝いていた。
こんなホルストははじめて見る、とパックは思っていた。
会場からニコラ博士が手を振った。それにパックたちサンディとマリアも応える。
会場のまんなかにムカデが停まり、ホルストはひらりと地上へ降り立った。
ながいローブの袖をひらめかせ、ホルストは両手を高々とあげる。
わあわあという会場の喚声がじょじょに静まっていく。
そのままホルストは会場が静かになるのを待っていた。
ついに会場は、しわぶきひとつもれない、完全な沈黙につつまれた。
観客の期待が高まっている。
ホルストの口が開いた。
「みなさん、わたしはホルストといい、長年魔法について研究をしてきましたじゃ! この世界には魔法が存在します! それをわしは、証明しましょう」
さっと、ホルストが合図をすると、会場のかたすみからもうもうと蒸気が噴きあがった。蒸気の噴き出し口を持つのはサンディとマリアだ。その蒸気の前にたち、ホルストは両手を動かした。
と、噴き出した蒸気が徐々にかたちをとりはじめ、テントの天井近くの空間に固まっていく。蒸気の雲はひとのかたちをとりはじめた。
おお……、と観客がいっせいに驚きの声をあげる。
蒸気の巨人はゆっくりと歩き出した。
ふわり……ふわり……。
音もなく、しろい巨人が歩いている。目鼻立ちははっきりしないが、たしかにひとのかたちをしているのが見てとれる。
ホルストはふたたび蒸気の雲をあやつりはじめた。
もうひとつ、しろい雲がかたちをとりはじめる。
今度は竜だ!
雲の中からあらわれたのは、翼をひろげた竜であった。
竜はながい身体をくねらせるようにして、巨人にちかづいていく。巨人ははっと驚き、待ち受ける。
さっ、とホルストが指先をあげた。
なんと! 巨人の手には剣が握られていた。
楽団が、この対決を盛り上げるべく、演奏を続けている。音もなく動く二体の雲の怪物の足音、咆哮を音楽で表現している。巨人が歩くと、その足音のかわりに太鼓がリズムを刻み、竜がその口を大きくひろげ、咆哮するときはトランペットが甲高い音をたてる。
ついに竜が巨人に迫った!
巨人は手にした剣をかまえ、立ち向かう。空中を漂うように迫る竜に、手にした剣をふりおろす。ぎゃああ……と竜の咆哮を弦楽器が表現する。剣が竜の身体を断ち切り、ふたつにわれた竜の身体が水蒸気になって散っていく。巨人もまた、ゆっくりと蒸気に戻り消えていった。
わあわあと観客が拍手をおくり、絶賛する。ホルストの顔は得意そうに輝いていた。両隣にサンディとマリアがたち、手をふっていた。
観客の中で、そのサンディをじっと見つめる一団の男たちがいた。みなそろいの黒いスーツで、黒いサングラスをかけていた。男たちはまわりの観客たちとはまるで違い、陰気な表情のままじっと彼女を見つめていた。ショーが終わると、おたがいうなずきあい立ち上がる。
0
あなたにおすすめの小説
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる