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北へ
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石炭積み込み作業が終わり、出発しようとしたパックは、港のほうから近づいてくる軍装の一団を見た。
古めかしい甲冑をつけ、手には大時代な剣と槍を持っている。先頭を歩く指揮者らしき男は、さらに膝までとどきそうなゆったりとしたマントをひるがえしている。
がちゃ、がちゃと歩くたび甲冑が擦れ合い金属音を響かせている。日差しに金属の表面がきらきらと輝いていた。
指揮官は石炭集積所前で一団を止め、声をはりあげた。片手に指揮を取るための乗馬鞭を持っている。
「われわれはゴラン皇国の第一歩兵旅団に属する警備隊である! 当日よりこのアンガスの港はゴラン皇国の統括することとなった! よってコラル帝国の艦船に燃料を供給するこの集積所もわれわれの管理することになる。集積所は本日から封鎖される。よってここで働くすべての者は、ただちに帰宅し、わがほうの連絡を待つように。給料は保証されるから、生活の心配はない!」
なんだとう……と、髭の男が顔を真っ赤にさせた。ずい、と一歩前へ出て指揮官の顔を舐めるように見る。
「封鎖って、どういうことでえ? 給料は保証されるから家へ帰れ? 馬鹿言うない! そんなこと聞いていねえぞ」
ざっ、と音を立て兵士たちは一斉に剣を抜いた。それを見て、男はたじたじとなった。
指揮官は氷のような無表情で口を開いた。
「もう一度だけ言う。ただちに帰宅し、われわれの連絡を待て! 命令に従わないものは反逆者として処罰する!」
すごすごと髭の男は退散した。ほかの作業員もそれを見て、ぶつぶつ文句を言いながらであるが、帰宅準備をはじめる。
指揮官はそれを満足そうに見ながら、パックに気付いた。
「お前は?」
「パック」
短く答えるパックに、指揮官は背後のムカデを興味深く見つめる。
「これはなんだ?」
「ムカデ」
「ふむ、確かにムカデの形をしているな。しかしどう見ても機械だ。ムカデの形をした機械だな。何をするものだ?」
「乗り物だ」
パックの答えはあくまで短い。
ちら、と指揮官の顔に苛ついたような表情が浮かんだ。
「どこの生まれだ?」
「ロロ村」
「ロロ村? 聞いたことない地名だな。わがゴラン皇国の人民には見えんな。帝国出身か?」
パックがうなずくと、じろりと指揮官はムカデを見た。
「これは武器ではないのか?」
「違うよ。乗り物だよ。蒸気で動く」
ふむ、と指揮官は鞭をふりあげ、とんとんと自分の肩を叩いた。
「まあ一応、この機械は没収することにする。おい! こいつを押収しろ」
最後の言葉は部下に向けて命令したものだった。パックは叫んだ。
「没収? どうしてだよ!」
じろり、と指揮官はパックの顔を見た。
「当たり前だろう。わがゴラン皇国はコラル帝国と宣戦状態にはいりつつある。そういう非常事態において、このような怪しい機械は接収することが当然だ。それとお前、パックといったな。お前も尋問することにする」
がしっ、とパックの背後にまわった兵士がその両肩を掴んだ。
マリアにも兵士たちが取り巻き、剣をふりかざす。
「マリア!」
パックが叫ぶと、マリアは無造作に兵士たちの剣を手で掴んだ。ぐいっ、とひねると、あっけなく兵士たちはバランスを崩して倒れこんだ。
パックもまた両肩を掴んだ兵士たちの手をふりほどき、ムカデに駆け上った。マリアも続く。
指揮官がなにか叫んだようだったが、パックはムカデの起動に夢中だった。ボイラーに燃料を送り込み、蒸気の圧力を確認する。じゅうぶん、圧力が上がったのを見てとり、パックは蒸気弁を開いた。
ぴいーっ、と蒸気の圧力で笛のような音が鳴り響き、シリンダーが動き出す。
がちゃり……がちゃりとムカデは足を動かし、進みだした。
「止まれ!」
指揮官が叫びながら追いかける。
パックは無視してムカデを走らせた。
そのうち重い甲冑を着込んだ指揮官は息切れしはじめた。よたよたと歩みがのろくなり、ついに地面にへたり込んだ。
パックはちらりとそれをふりかえると、ムカデの速度を上げ、町を通り過ぎた。
「マリア! ミリィの居場所は判るか?」
はい、と背後でマリアは返事をした。
「わたしはつねにバベジ教授のエイダと感応しております。エイダの感じるミリィと一緒に移動している存在の居場所は、いまも感じとれます」
そうか、とパックはうなずいた。
とにかく北の大陸に着いたのだ。
目指すはミリィの居場所である。
「方向をしめしてくれ」
こちらです、とマリアはパックの背後から腕をあげた。
パックはその方向へムカデの舵を取った。
部下にたすけ起こされ、警備隊の指揮官は唇を噛みしめた。
部下たちに向け、矢継ぎ早に命令を下す。
「すぐあの機械のムカデの行方を追え! どう見てもあやしい奴だ。もしかすると、帝国のスパイかもしれん! わしはこのことを提督へ報告へせねばならん!」
はっ、と部下たちは機敏にうなずくと、がちゃがちゃと甲冑の音を響かせ走り去った。
それを見送り、指揮官はうなった。
「パックとか言ったな、あの小僧……。絶対逃がさんからそう思えよ……」
かれは燃えるような目でパックの立ち去った方向を見つめていた。
古めかしい甲冑をつけ、手には大時代な剣と槍を持っている。先頭を歩く指揮者らしき男は、さらに膝までとどきそうなゆったりとしたマントをひるがえしている。
がちゃ、がちゃと歩くたび甲冑が擦れ合い金属音を響かせている。日差しに金属の表面がきらきらと輝いていた。
指揮官は石炭集積所前で一団を止め、声をはりあげた。片手に指揮を取るための乗馬鞭を持っている。
「われわれはゴラン皇国の第一歩兵旅団に属する警備隊である! 当日よりこのアンガスの港はゴラン皇国の統括することとなった! よってコラル帝国の艦船に燃料を供給するこの集積所もわれわれの管理することになる。集積所は本日から封鎖される。よってここで働くすべての者は、ただちに帰宅し、わがほうの連絡を待つように。給料は保証されるから、生活の心配はない!」
なんだとう……と、髭の男が顔を真っ赤にさせた。ずい、と一歩前へ出て指揮官の顔を舐めるように見る。
「封鎖って、どういうことでえ? 給料は保証されるから家へ帰れ? 馬鹿言うない! そんなこと聞いていねえぞ」
ざっ、と音を立て兵士たちは一斉に剣を抜いた。それを見て、男はたじたじとなった。
指揮官は氷のような無表情で口を開いた。
「もう一度だけ言う。ただちに帰宅し、われわれの連絡を待て! 命令に従わないものは反逆者として処罰する!」
すごすごと髭の男は退散した。ほかの作業員もそれを見て、ぶつぶつ文句を言いながらであるが、帰宅準備をはじめる。
指揮官はそれを満足そうに見ながら、パックに気付いた。
「お前は?」
「パック」
短く答えるパックに、指揮官は背後のムカデを興味深く見つめる。
「これはなんだ?」
「ムカデ」
「ふむ、確かにムカデの形をしているな。しかしどう見ても機械だ。ムカデの形をした機械だな。何をするものだ?」
「乗り物だ」
パックの答えはあくまで短い。
ちら、と指揮官の顔に苛ついたような表情が浮かんだ。
「どこの生まれだ?」
「ロロ村」
「ロロ村? 聞いたことない地名だな。わがゴラン皇国の人民には見えんな。帝国出身か?」
パックがうなずくと、じろりと指揮官はムカデを見た。
「これは武器ではないのか?」
「違うよ。乗り物だよ。蒸気で動く」
ふむ、と指揮官は鞭をふりあげ、とんとんと自分の肩を叩いた。
「まあ一応、この機械は没収することにする。おい! こいつを押収しろ」
最後の言葉は部下に向けて命令したものだった。パックは叫んだ。
「没収? どうしてだよ!」
じろり、と指揮官はパックの顔を見た。
「当たり前だろう。わがゴラン皇国はコラル帝国と宣戦状態にはいりつつある。そういう非常事態において、このような怪しい機械は接収することが当然だ。それとお前、パックといったな。お前も尋問することにする」
がしっ、とパックの背後にまわった兵士がその両肩を掴んだ。
マリアにも兵士たちが取り巻き、剣をふりかざす。
「マリア!」
パックが叫ぶと、マリアは無造作に兵士たちの剣を手で掴んだ。ぐいっ、とひねると、あっけなく兵士たちはバランスを崩して倒れこんだ。
パックもまた両肩を掴んだ兵士たちの手をふりほどき、ムカデに駆け上った。マリアも続く。
指揮官がなにか叫んだようだったが、パックはムカデの起動に夢中だった。ボイラーに燃料を送り込み、蒸気の圧力を確認する。じゅうぶん、圧力が上がったのを見てとり、パックは蒸気弁を開いた。
ぴいーっ、と蒸気の圧力で笛のような音が鳴り響き、シリンダーが動き出す。
がちゃり……がちゃりとムカデは足を動かし、進みだした。
「止まれ!」
指揮官が叫びながら追いかける。
パックは無視してムカデを走らせた。
そのうち重い甲冑を着込んだ指揮官は息切れしはじめた。よたよたと歩みがのろくなり、ついに地面にへたり込んだ。
パックはちらりとそれをふりかえると、ムカデの速度を上げ、町を通り過ぎた。
「マリア! ミリィの居場所は判るか?」
はい、と背後でマリアは返事をした。
「わたしはつねにバベジ教授のエイダと感応しております。エイダの感じるミリィと一緒に移動している存在の居場所は、いまも感じとれます」
そうか、とパックはうなずいた。
とにかく北の大陸に着いたのだ。
目指すはミリィの居場所である。
「方向をしめしてくれ」
こちらです、とマリアはパックの背後から腕をあげた。
パックはその方向へムカデの舵を取った。
部下にたすけ起こされ、警備隊の指揮官は唇を噛みしめた。
部下たちに向け、矢継ぎ早に命令を下す。
「すぐあの機械のムカデの行方を追え! どう見てもあやしい奴だ。もしかすると、帝国のスパイかもしれん! わしはこのことを提督へ報告へせねばならん!」
はっ、と部下たちは機敏にうなずくと、がちゃがちゃと甲冑の音を響かせ走り去った。
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