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第一章
銀河番長ガンガガン
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集談館の建物に近づくと、建物の前面にそびえている巨大な像が視界に入ってくる。
身長十メートルほどもある学生服を身に着けたロボットの像で、頭部は恐ろし気な顔つきの操縦席になっていた。
「銀河番長ガンガガン」のロボット像だ。
集談館の誇る人気コミックに登場する有人操縦ロボットで、主人公の巌我岩はバンチョウ型ロボットを操縦して、銀河系の様々な星の番長を倒し、自らの番長連合を統率するという内容だ。
コミックだけでなく、アニメ、ゲームのほか、スピン・アウトで小説や実写映画などにもなってありとあらゆるメディアで人気になっていた。もはや日本国内で「銀河番長ガンガガン」の名前を知らない少年少女は誰一人いなかった。
ロボット像のまわりには、髪の毛をパンチ・パーマにし、裾を長くしたり、極端に短くしたりした改造学生服を身に着けた男たちが集まっていた。「銀河番長ガンガガン」は主人公が宇宙で一番の番長を目指す物語なので、ロボット像がある集談館ビル前の広場は、ツッパリや不良の〝聖地〟と化していた。学生たちはいかにも不良っぽく、ヤンキー座りをして何かダラダラと会話を続け、美登里が通り過ぎるとジロジロ眺めてきた。特に美登里の胸に当てる視線は、ねちっこく執拗だった。
美登里は足を速めた。
だからこの出版社に出向くのは気が重い。
美登里はツッパリ、ヤンキーとかいう人種が好きではない。できれば一生、関わりたくはない。しかし表現の狭まった今、マンガ家が題材とできるのは、ツッパリ、ヤンキーなどの読者が喜ぶ格闘ものや、拳でしか会話を成り立たせられない、不良たちを主人公にしたストーリーだ。
ロボット像を横目に見て、美登里は集談館のビルに入った。ロボット像を横切るとき、美登里は(心の中で)中指を立てたポーズで、通り過ぎた。中指を立てる、とは挑発を行うときのポーズで「いつかガンガンガンの人気を超えて見せる!」という美登里の無言の挑戦だった。
「銀河番長ガンガガン」の作者はペンネームで「紅蓮」とのみ表記し、正体は不明だった。男女の別すら、明らかにされず、集談館の最高機密となっている。美登里は何度か担当の編集者に、作者の「紅蓮」と会わせてくれるよう頼んだが、未だに面会の約束は叶えられていない。
集談館ビルのエントランスを通り過ぎ、美登里は「少年マックス」の編集部へと移動した。編集部へはエントランスから通行証となるカードを使ってゲートをくぐる。エントランスは誰でも立ち入ることが出来るが、編集部へは通行証を持っていないと入り込めない。
雑誌編集部はいつの時代も雑然として、編集部員の机には様々な資料や、書きかけの活字原稿、カットの切れ端、取材の写真素材が溢れるばかりに積み上がって何がどうなっているか、さっぱり判らなくなっている。雑誌の主体が紙から、電子書籍に移りつつある今でも、雑誌編集の仕事は基本的に紙媒体が主力になっている。壁には「ガンガガン」のポスターが所狭しと貼られていた。
時間的に昼前ともあって、編集部は閑散としていた。
身長十メートルほどもある学生服を身に着けたロボットの像で、頭部は恐ろし気な顔つきの操縦席になっていた。
「銀河番長ガンガガン」のロボット像だ。
集談館の誇る人気コミックに登場する有人操縦ロボットで、主人公の巌我岩はバンチョウ型ロボットを操縦して、銀河系の様々な星の番長を倒し、自らの番長連合を統率するという内容だ。
コミックだけでなく、アニメ、ゲームのほか、スピン・アウトで小説や実写映画などにもなってありとあらゆるメディアで人気になっていた。もはや日本国内で「銀河番長ガンガガン」の名前を知らない少年少女は誰一人いなかった。
ロボット像のまわりには、髪の毛をパンチ・パーマにし、裾を長くしたり、極端に短くしたりした改造学生服を身に着けた男たちが集まっていた。「銀河番長ガンガガン」は主人公が宇宙で一番の番長を目指す物語なので、ロボット像がある集談館ビル前の広場は、ツッパリや不良の〝聖地〟と化していた。学生たちはいかにも不良っぽく、ヤンキー座りをして何かダラダラと会話を続け、美登里が通り過ぎるとジロジロ眺めてきた。特に美登里の胸に当てる視線は、ねちっこく執拗だった。
美登里は足を速めた。
だからこの出版社に出向くのは気が重い。
美登里はツッパリ、ヤンキーとかいう人種が好きではない。できれば一生、関わりたくはない。しかし表現の狭まった今、マンガ家が題材とできるのは、ツッパリ、ヤンキーなどの読者が喜ぶ格闘ものや、拳でしか会話を成り立たせられない、不良たちを主人公にしたストーリーだ。
ロボット像を横目に見て、美登里は集談館のビルに入った。ロボット像を横切るとき、美登里は(心の中で)中指を立てたポーズで、通り過ぎた。中指を立てる、とは挑発を行うときのポーズで「いつかガンガンガンの人気を超えて見せる!」という美登里の無言の挑戦だった。
「銀河番長ガンガガン」の作者はペンネームで「紅蓮」とのみ表記し、正体は不明だった。男女の別すら、明らかにされず、集談館の最高機密となっている。美登里は何度か担当の編集者に、作者の「紅蓮」と会わせてくれるよう頼んだが、未だに面会の約束は叶えられていない。
集談館ビルのエントランスを通り過ぎ、美登里は「少年マックス」の編集部へと移動した。編集部へはエントランスから通行証となるカードを使ってゲートをくぐる。エントランスは誰でも立ち入ることが出来るが、編集部へは通行証を持っていないと入り込めない。
雑誌編集部はいつの時代も雑然として、編集部員の机には様々な資料や、書きかけの活字原稿、カットの切れ端、取材の写真素材が溢れるばかりに積み上がって何がどうなっているか、さっぱり判らなくなっている。雑誌の主体が紙から、電子書籍に移りつつある今でも、雑誌編集の仕事は基本的に紙媒体が主力になっている。壁には「ガンガガン」のポスターが所狭しと貼られていた。
時間的に昼前ともあって、編集部は閑散としていた。
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