氷と兎と非日常

かになべ

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[四話目]凍える身体、醒めぬ夢

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「ん…、ここは…?」
くらい。いしきがおぼつかない。かおをつねって、おきようとしても、ゆびがかおにあたらない。
「縺雁燕縺ョ蜉帙?霍ウ縺ァ縺ッ縺ェ縺」
声がする。辺りは真っ暗だ。何一つ見えやしない。自分の体さえも。
「蜃阪∴縺ャ諢丞袖繧貞ソ倥l繧九↑」
遠くから聞こえる声がはっきりとしてくる。自分の心臓の音は聞こえないのに。
「閾ェ繧峨r菫。縺倥m」
歩けども、歩けども、足が沈んで動けない。それでも…
「すーずーしーねー?」
「はっ!」
―目を開ける。光が差す。安心する声が聞こえる。あとごふん。そう断末魔を残して、再び深い眠りへ―
「ご飯先食べるよ?」
―前言撤回。さようなら我が故郷。

朝食と弁当はひなが毎日当番している。というのも、私は布団にモテモテで、なかなか出してもらえないからだ。その分、夕食や他の家事は私が少し多くやっている。
「朝くらい起きてよね。」
「いやぁ、私の寝室にはブラックホールでもあるみたいでさ。」
談笑しながら支度を済ませる。もしかしたら今日が命日になるかもしれない。ここまで死が日常に寄るとは思わなかったが、実際そうなっているのなら仕方ない。
「さあ、登校だ。」
「どうした、そんな気合い入って。」

「朝、アイス食べた?」
ある程度歩いた頃、ふとひなに聞かれる。大事な事は、いつも言われて初めて気づく。こんな風に。
「やっば、忘れてた!えーっと…」
 私の能力にはもう一つ欠点がある。「熱くなる」事だ。跳ねた分だけ体が熱くなる。より強く、より多く跳ねれば更に熱くなる。こんな弱い能力に代償なんてどう考えても過剰だ。それでも、いつ体が焼けてもいいように普段は体温をなるべく低く抑えている。約5℃。能力を得た時の副産物として、体はいくら冷えても問題ないようだ。おかげで風呂も冷たいし、温かい食べ物は食べ過ぎれない。そして、常に冷やさないといけない。百害あって2,3利しかないのであれば、割に会うはずがない。
「お、あった!」
鞄のクーラーボックスからソーダ味の棒アイスを取り出して、そのまま口に放り投げる。ソーダのテーマは「瞬間冷却」。温まった体を冷やすにはこいつだ。
「忘れるな。今は特に。死ぬぞ。」
「ほんとすみませんでした~」
こんな話をしていたら、校門が前に見える。道中では結局、何にも会う事は無かった。不安だけが募ったまま、学校へ入る。

帰り。また何かあってもいいように、手持ちの硬い鞄を近くの店で買った。跳ぶ時の足場にも、守る時の壁にもなる。便利だね。るんるんで歩いていると、前に人影がふたつ。
「やあ涼音ちゃん、また会いに来たよー!」
「姉さん、とりあえず落ち着いて。」
胡桃姉妹の二人。まさかセットで来るとは。いや、今まで来なかった方がおかしいのか。
「涼音…」
ひなが小さな声で囁く。いつもの合図だ。
〈涼音、聞こえる?〉〈大丈夫だ、問題ない〉
もう一度相手を見ると、もう既に準備は終わっているようだ
「じゃあ、やっちゃおうか!」
「望む所だよ、命のためにね。」
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