3 / 41
第一章 魔術師との邂逅
第三話 魔卿ジャレン・ラングル
しおりを挟む
少年を追い、大通りに出る。そこでは人々は道の両端に集まり、誰かが真ん中を通っているのを見守っている様子だった。
身長の高さを活かし、大通りの真ん中を眺める。そこには行進していたヘローク教団ネドラ派の教徒達がおり、魔卿である『ジャレン・ラングル』がその先頭を歩いていた。黒と金の豪奢な服に身を包み、手には剣が握られている。
国教であるネドラ派はその教義故に、殆どの帝国の有力者から「国や自分(達)を良くする為の道具」として扱われており、そこに信心は存在していない、という現状がある。しかしジャレンは祈りや天声といった些細な行事を毎日必ず行い、様々な祭事を率先して行う。彼が教団で最も信心深いと評される所以である。
「ジャレンさまー! これ!」
一人の少女がジャレンのもとに駆け寄り、一輪の赤い花を手渡す。彼は少女と同じ目線になるよう屈み、それを手に取る。
「ありがとうございます、優しきお方……『些事にこそ、人の心あり』。始まりの者の天声です。貴方の心、確かに伝わりました」
そう微笑んで言う。
「さて、こちらとしても何かお返しをしないと、ですね……そうだ、子供達にお菓子を配りましょう。アロクさん、準備できますか?」
無言で頷いた部下は、そのまま菓子の準備をしに行った。
「この後礼拝堂でお話をするのですが、その後に配りますので、楽しみにして下さいね」
少女は満面の笑みを浮かべ、人だかりの中へと戻っていった。
「……わたしもあと何歳か若かったらなぁ」
などと大人げないことを思うミーリィであった。
——でも、こんな優しい感じでも、悪い噂もあるんだよね、ジャレンさん。
彼の優しさに感心しつつ、彼女の脳裏にある噂が過る。
ジャレンは確かに信心深い人だが、それは狂信の域に至っている、という噂だ。手段を選ばず、信仰の為なら犯罪や殺しも厭わない。そのことが一つの要因となり、噂を信じている人々から「熱狂のジャレン」と呼ばれている。実は、その噂を受けファレオも密かに彼の動向を注視しているのだ。とはいえ、あくまで確認できた範囲だが、そのような面は未だに見受けられない。
——あの子、どっちの方に行ったかな。
そう思い、歩き出す。その時であった。
「そういや、今日の『お話』って何なんだ? 今までそういった行事は無かったけど」
「んーと、確か人探しとか何とか……だったかな? なんかそんな感じのこと聞いたけど」
『人探し』という言葉に、彼女の体は瞬時に反応した。
「す、すみません! その話、詳細分かりますか!?」
「うおっ! 急に驚かせるなよ……いや、俺達もその『お話』とやらがあるのと、人探しをしていることしか分からないな。すまねぇな、嬢ちゃん」
「そうですか……ありがとうございます」
先程の少年という確証は無いが、彼を探す手がかりになり得る『お話』は、彼女にとって好都合なものであった。
ミーリィは大勢の人々に紛れて礼拝堂の前にある広場に立つ。少しすると礼拝堂の中からジャレンが現れ、台の上に立って言う。
「さて、お集まりいただきありがとうございます。突然ですが、私……いえ、我々ヘローク教団は、ある方を探しております。その方は少年で、右腕には包帯が巻かれており——」
彼の口から淡々と述べられていく特徴は、先程出会った少年の特徴と一致していた。皆で探すなら見つかりやすい、と彼女は思い——
「——数ヶ月に亘って、我々だけでなく何千人もの兵士にも捜査をさせておりますが、未だに見つからず、しかしここにいるらしいという情報は得ており、故に皆様に協力を願いたいのです。勿論、協力された方への見返りもあります」
そこで、何かがおかしいと感じた。捜査をするなら教団の教徒だけで十分であろうに、わざわざ兵士に、しかもソドック王国との戦争中という状況で、捜査の協力をさせるのだろうか。そう考えると、優しかったジャレンの声が、純粋な優しさではなく、己の内側にある『何か』を隠す為の優しさに思えて仕方なかった。
——ジャレンさん、もとい教団は、何かしらの理由でさっきの少年を狙っている……? そうだとしたら、早く助けないと……!
そう思うや否や、彼女は礼拝堂の広場を後にし、少年を探す為に駆け出した。
身長の高さを活かし、大通りの真ん中を眺める。そこには行進していたヘローク教団ネドラ派の教徒達がおり、魔卿である『ジャレン・ラングル』がその先頭を歩いていた。黒と金の豪奢な服に身を包み、手には剣が握られている。
国教であるネドラ派はその教義故に、殆どの帝国の有力者から「国や自分(達)を良くする為の道具」として扱われており、そこに信心は存在していない、という現状がある。しかしジャレンは祈りや天声といった些細な行事を毎日必ず行い、様々な祭事を率先して行う。彼が教団で最も信心深いと評される所以である。
「ジャレンさまー! これ!」
一人の少女がジャレンのもとに駆け寄り、一輪の赤い花を手渡す。彼は少女と同じ目線になるよう屈み、それを手に取る。
「ありがとうございます、優しきお方……『些事にこそ、人の心あり』。始まりの者の天声です。貴方の心、確かに伝わりました」
そう微笑んで言う。
「さて、こちらとしても何かお返しをしないと、ですね……そうだ、子供達にお菓子を配りましょう。アロクさん、準備できますか?」
無言で頷いた部下は、そのまま菓子の準備をしに行った。
「この後礼拝堂でお話をするのですが、その後に配りますので、楽しみにして下さいね」
少女は満面の笑みを浮かべ、人だかりの中へと戻っていった。
「……わたしもあと何歳か若かったらなぁ」
などと大人げないことを思うミーリィであった。
——でも、こんな優しい感じでも、悪い噂もあるんだよね、ジャレンさん。
彼の優しさに感心しつつ、彼女の脳裏にある噂が過る。
ジャレンは確かに信心深い人だが、それは狂信の域に至っている、という噂だ。手段を選ばず、信仰の為なら犯罪や殺しも厭わない。そのことが一つの要因となり、噂を信じている人々から「熱狂のジャレン」と呼ばれている。実は、その噂を受けファレオも密かに彼の動向を注視しているのだ。とはいえ、あくまで確認できた範囲だが、そのような面は未だに見受けられない。
——あの子、どっちの方に行ったかな。
そう思い、歩き出す。その時であった。
「そういや、今日の『お話』って何なんだ? 今までそういった行事は無かったけど」
「んーと、確か人探しとか何とか……だったかな? なんかそんな感じのこと聞いたけど」
『人探し』という言葉に、彼女の体は瞬時に反応した。
「す、すみません! その話、詳細分かりますか!?」
「うおっ! 急に驚かせるなよ……いや、俺達もその『お話』とやらがあるのと、人探しをしていることしか分からないな。すまねぇな、嬢ちゃん」
「そうですか……ありがとうございます」
先程の少年という確証は無いが、彼を探す手がかりになり得る『お話』は、彼女にとって好都合なものであった。
ミーリィは大勢の人々に紛れて礼拝堂の前にある広場に立つ。少しすると礼拝堂の中からジャレンが現れ、台の上に立って言う。
「さて、お集まりいただきありがとうございます。突然ですが、私……いえ、我々ヘローク教団は、ある方を探しております。その方は少年で、右腕には包帯が巻かれており——」
彼の口から淡々と述べられていく特徴は、先程出会った少年の特徴と一致していた。皆で探すなら見つかりやすい、と彼女は思い——
「——数ヶ月に亘って、我々だけでなく何千人もの兵士にも捜査をさせておりますが、未だに見つからず、しかしここにいるらしいという情報は得ており、故に皆様に協力を願いたいのです。勿論、協力された方への見返りもあります」
そこで、何かがおかしいと感じた。捜査をするなら教団の教徒だけで十分であろうに、わざわざ兵士に、しかもソドック王国との戦争中という状況で、捜査の協力をさせるのだろうか。そう考えると、優しかったジャレンの声が、純粋な優しさではなく、己の内側にある『何か』を隠す為の優しさに思えて仕方なかった。
——ジャレンさん、もとい教団は、何かしらの理由でさっきの少年を狙っている……? そうだとしたら、早く助けないと……!
そう思うや否や、彼女は礼拝堂の広場を後にし、少年を探す為に駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる