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愛されなかった彼女の世界 改稿版
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時折、風が髪の毛を掻き乱してゆく。
ただひたすらに目的地に向かって歩きながら、チラリと後ろを振り返る。
あの人は、別にここに来たことをなんとも思ってはいないのだろうと・・・
この海の近くの崖は、夕日や星空が綺麗に見えるからと時々来た場所だった。
今までのことが少しずつ頭の中で流れていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私の家は、古い歴史を持つ伯爵の家柄ではあったが父や母は贅沢好きであったために、だんだんとお金にも困るようになっていった。
私には姉が1人いる。姉は私とは似ても似付かない輝かしいばかりの美貌の持ち主だった…父や母は、姉にばかり期待をしていて私のことなど見てはくれなかった。
多分…姉のように美しい容姿を持っていたならお金持ちで家柄の良い方と結ばれることに期待されていたのだろうけど。
煌めく陽の光を閉じ込めたかのような金色の髪。エメラルドのようだと羨ましがられる翠の瞳。美しく整った顔立ちと合わさって女神のようだと貴族の間で讃えられる姉。その瞳に映ることを貴族令息の間で競争が起こるほど。
・・反対に珍しくもないありふれた茶色の巻き毛の髪の毛に地味な顔立ちをした私は、両親の気を引くような存在ではなかった。唯一私が自分の中で気に入っているところといえば、親友の彼女がほめてくれた淡いすみれ色の瞳くらいだ。
そして姉は公爵家の見目麗しい方の元に嫁いでいった。
「まったく、お前は不良品だな。エリーゼのように美しければ役にもたったものを。」
「こんなのが私の娘だなんて…貴方なんて見初められるわけもないのだから外に出て恥をかかせないでちょうだい!」
「本当に惨めね…フフッ、貴方みたいなのを愛する人なんていないものね!」
家族として扱われたことなどない。使用人は優しく接してくれたが、仲良くしていると父や母ににらまれるのでバレることがないように時々話す程度だった。
学園内では親友と呼べる子爵家の令嬢でもあるレイチェルや友達も数人出来て楽しかった。親友の彼女はずいぶんと男前な性格の人で、私が男だったら貰ってあげるなんて学園でよく言ってくれた。彼女が婚約者だったらよかったのにと思えるほどに格好良かった。凛々しい美人のレイチェルは下級生の令嬢に憧れられていたし、令嬢には珍しくショートにした藍色の髪に緑の瞳は切れ長で女の私でも見つめられるとドキリとさせられた。
体を動かすのが好きで、次女だったこともあり、彼女は学園卒業後は貴族令嬢の護衛をする女性で構成された王国の白薔薇騎士団に入団していった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、学園を卒業してすぐに、浪費が激しく金が尽きかけてきた時だったので、父は私に侯爵家に嫁ぐようにいった。多額の持参金を向こうが負担するという条件で。
迷惑なものだと思われているのか、初夜も放置、いつも家には遅く帰ってきて、気まぐれに抱かれるだけ。お飾りの妻だ。
・・・思い返してみると、本当にロクでもない人生のようだ。他にも不幸な人は沢山いるのだろうけど・・
自嘲を含んだ笑みがクスリと溢れた。
目的地に到着し、軽く後ろを振り返る。
こちらのことには注目もしていないらしい。
ふっと目を閉じる。優しくしてくれた親友でもある彼女の顔をふと思い出した。
彼女なら・・会いにも行かないこんな私にひたすら手紙を頻繁に送ってくれて心配してくれた彼女なら、おそらくこれからすることを知ったらとんでもなく怒ったんだろうなと思う・・・
死後の世界で会ったら叱られるだろうな・・・はたかれるかしらね。
少しだけ息を長く吐き出すと、一歩足を前にある崖へと踏み出した。
体に浮遊感を感じ、体がどんどんと傾いていくのが分かる。
全てが、ゆっくりに見える気がした・・
視界の片隅で彼が目を見開いてこちらに向かって慌てて手を伸ばしたのが見えた。
伸ばされたその手を私はーーー掴むことなく思い切り振り払った。
「リディアナ!!」
・・・ああ、私の名前はリディアナだったのよね。レイの呼び方はリディだったっけ。もう長いこと呼ばれていないから、自分でも曖昧になってたわ・・・
せめて優しくしてくれたら良かったのに。愛し合っていなくても穏やかに暮らしていけたのなら・・そしたらもう少し頑張れたのに・・・
だ、い、き、ら、い・・!!
声は出さず、口だけを動かす。歪む彼の顔を見て、逆にこちらのことなど何も見ていなかった両親達の顔をふと思い出した。
その次に思い浮かんだのは、優しい親友の顔。親友の泣き顔なんて一度も見たことがないのに、なぜか思い浮かんだーー涙が流れる気がしたがきっと親友であった彼女を思い出したからだ。一応家族で会った人たちに未練なんてそもそも存在しない。
私はきっと疫病神なんだろう。願わくば・・・親友が自分を責めませんように・・後は・・『あの人』が幸せな人生を送れるように・・
これでようやく鎖から自由になれると思うとやっと本当に笑える気がしたーー
・・・親友の彼女とその家族、友人たちがいてくれなかったら、私はきっともっと早くに生を手放していたのだろう。だって・・・結婚した彼が私のことを好きでも何でもないことは結婚する前から知っていたんだから・・・私だって愛してはいなかった。でも信頼しあえるようにはなりたいとは願っていた。
・・・私だって願い事の一つや二つくらいあったのだ。両親は聞くどころかいないもの扱いだったけれど。どうせならレイチェルと一緒にいたかった。好きな人と結ばれることなんて男性に好意を持たれたこともなく勇気のない私には無理な話だったけれど・・・『あの人』ともう一度会話くらいしてみたかったなぁ・・・
遠のく意識のなか、胸元にあるペンダントを握りしめる。レイと『あの人』と街へ出た時の思い出を振り返りながら霞む眼を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リディアナ(愛称リディ)20歳
・伯爵家令嬢で次女。家族からは興味を持たれず冷遇されて育ったため、自己評価が低い。
・おしゃべりはあまり得意ではないが手先は意外と器用。
・茶色の巻き毛の髪の毛に淡いすみれ色の瞳。可愛らしいが地味な印象を与える顔立ち。
エリーゼ 23歳
・リディの姉で家族に愛されて育った人。
・金色の波打つ髪の毛にエメラルドのような翠の瞳の美女だがレイ曰く恐ろしい人。
レイチェル(レイ)20歳
・子爵家令嬢で男前な性格。身体能力は高く騎士団に学園を卒業した後は所属。
・藍色のショートカットに切れ長の緑の瞳。背が高く凛々しい印象の強い美人。
ただひたすらに目的地に向かって歩きながら、チラリと後ろを振り返る。
あの人は、別にここに来たことをなんとも思ってはいないのだろうと・・・
この海の近くの崖は、夕日や星空が綺麗に見えるからと時々来た場所だった。
今までのことが少しずつ頭の中で流れていった。
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私の家は、古い歴史を持つ伯爵の家柄ではあったが父や母は贅沢好きであったために、だんだんとお金にも困るようになっていった。
私には姉が1人いる。姉は私とは似ても似付かない輝かしいばかりの美貌の持ち主だった…父や母は、姉にばかり期待をしていて私のことなど見てはくれなかった。
多分…姉のように美しい容姿を持っていたならお金持ちで家柄の良い方と結ばれることに期待されていたのだろうけど。
煌めく陽の光を閉じ込めたかのような金色の髪。エメラルドのようだと羨ましがられる翠の瞳。美しく整った顔立ちと合わさって女神のようだと貴族の間で讃えられる姉。その瞳に映ることを貴族令息の間で競争が起こるほど。
・・反対に珍しくもないありふれた茶色の巻き毛の髪の毛に地味な顔立ちをした私は、両親の気を引くような存在ではなかった。唯一私が自分の中で気に入っているところといえば、親友の彼女がほめてくれた淡いすみれ色の瞳くらいだ。
そして姉は公爵家の見目麗しい方の元に嫁いでいった。
「まったく、お前は不良品だな。エリーゼのように美しければ役にもたったものを。」
「こんなのが私の娘だなんて…貴方なんて見初められるわけもないのだから外に出て恥をかかせないでちょうだい!」
「本当に惨めね…フフッ、貴方みたいなのを愛する人なんていないものね!」
家族として扱われたことなどない。使用人は優しく接してくれたが、仲良くしていると父や母ににらまれるのでバレることがないように時々話す程度だった。
学園内では親友と呼べる子爵家の令嬢でもあるレイチェルや友達も数人出来て楽しかった。親友の彼女はずいぶんと男前な性格の人で、私が男だったら貰ってあげるなんて学園でよく言ってくれた。彼女が婚約者だったらよかったのにと思えるほどに格好良かった。凛々しい美人のレイチェルは下級生の令嬢に憧れられていたし、令嬢には珍しくショートにした藍色の髪に緑の瞳は切れ長で女の私でも見つめられるとドキリとさせられた。
体を動かすのが好きで、次女だったこともあり、彼女は学園卒業後は貴族令嬢の護衛をする女性で構成された王国の白薔薇騎士団に入団していった。
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そして、学園を卒業してすぐに、浪費が激しく金が尽きかけてきた時だったので、父は私に侯爵家に嫁ぐようにいった。多額の持参金を向こうが負担するという条件で。
迷惑なものだと思われているのか、初夜も放置、いつも家には遅く帰ってきて、気まぐれに抱かれるだけ。お飾りの妻だ。
・・・思い返してみると、本当にロクでもない人生のようだ。他にも不幸な人は沢山いるのだろうけど・・
自嘲を含んだ笑みがクスリと溢れた。
目的地に到着し、軽く後ろを振り返る。
こちらのことには注目もしていないらしい。
ふっと目を閉じる。優しくしてくれた親友でもある彼女の顔をふと思い出した。
彼女なら・・会いにも行かないこんな私にひたすら手紙を頻繁に送ってくれて心配してくれた彼女なら、おそらくこれからすることを知ったらとんでもなく怒ったんだろうなと思う・・・
死後の世界で会ったら叱られるだろうな・・・はたかれるかしらね。
少しだけ息を長く吐き出すと、一歩足を前にある崖へと踏み出した。
体に浮遊感を感じ、体がどんどんと傾いていくのが分かる。
全てが、ゆっくりに見える気がした・・
視界の片隅で彼が目を見開いてこちらに向かって慌てて手を伸ばしたのが見えた。
伸ばされたその手を私はーーー掴むことなく思い切り振り払った。
「リディアナ!!」
・・・ああ、私の名前はリディアナだったのよね。レイの呼び方はリディだったっけ。もう長いこと呼ばれていないから、自分でも曖昧になってたわ・・・
せめて優しくしてくれたら良かったのに。愛し合っていなくても穏やかに暮らしていけたのなら・・そしたらもう少し頑張れたのに・・・
だ、い、き、ら、い・・!!
声は出さず、口だけを動かす。歪む彼の顔を見て、逆にこちらのことなど何も見ていなかった両親達の顔をふと思い出した。
その次に思い浮かんだのは、優しい親友の顔。親友の泣き顔なんて一度も見たことがないのに、なぜか思い浮かんだーー涙が流れる気がしたがきっと親友であった彼女を思い出したからだ。一応家族で会った人たちに未練なんてそもそも存在しない。
私はきっと疫病神なんだろう。願わくば・・・親友が自分を責めませんように・・後は・・『あの人』が幸せな人生を送れるように・・
これでようやく鎖から自由になれると思うとやっと本当に笑える気がしたーー
・・・親友の彼女とその家族、友人たちがいてくれなかったら、私はきっともっと早くに生を手放していたのだろう。だって・・・結婚した彼が私のことを好きでも何でもないことは結婚する前から知っていたんだから・・・私だって愛してはいなかった。でも信頼しあえるようにはなりたいとは願っていた。
・・・私だって願い事の一つや二つくらいあったのだ。両親は聞くどころかいないもの扱いだったけれど。どうせならレイチェルと一緒にいたかった。好きな人と結ばれることなんて男性に好意を持たれたこともなく勇気のない私には無理な話だったけれど・・・『あの人』ともう一度会話くらいしてみたかったなぁ・・・
遠のく意識のなか、胸元にあるペンダントを握りしめる。レイと『あの人』と街へ出た時の思い出を振り返りながら霞む眼を閉じた。
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リディアナ(愛称リディ)20歳
・伯爵家令嬢で次女。家族からは興味を持たれず冷遇されて育ったため、自己評価が低い。
・おしゃべりはあまり得意ではないが手先は意外と器用。
・茶色の巻き毛の髪の毛に淡いすみれ色の瞳。可愛らしいが地味な印象を与える顔立ち。
エリーゼ 23歳
・リディの姉で家族に愛されて育った人。
・金色の波打つ髪の毛にエメラルドのような翠の瞳の美女だがレイ曰く恐ろしい人。
レイチェル(レイ)20歳
・子爵家令嬢で男前な性格。身体能力は高く騎士団に学園を卒業した後は所属。
・藍色のショートカットに切れ長の緑の瞳。背が高く凛々しい印象の強い美人。
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