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第一章 運命の人
1-8.命知らずの来訪者Ⅰ
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アイリーンは、サーシャにニコリと笑むと彼女は少し面食らったような顔をして、プイとそっぽを向く。
────私の事はいいから集中しなさいよ。
何となく言わんとしている事が分かってしまい、アイリーンは目深にフードを被り直した矢先──脳裏の奥で何かが光ったかのような感覚がした。
(何かが私の元に来るわ……)
これぞ直感が働いた瞬間だ。
間違いない。必ず来る。しかし何が……。
そう思って間もなく、遠くから地鳴りの如き轟音が響き始めた。
雷か。いや、それにしては長い。薔薇窓に光が差し込む程の晴天だ。むしろこんな快晴が珍しい程だ。騒音は次第に大きくなりこちらに近付いてくる事が分かる。
儀式中だというのに、不審に思った神官たちはピタリと詠唱を止め天井を見上げて、どよめき始めた。
「おまえたちとリーアムは様子を見に行きなさい」
老いぼれた司祭が指示すると神官とリーアムは足早に聖堂を後にする。
「何の騒ぎでしょうね……何かが私の元にやって来る気配がします」
アイリーンが司祭に話しかけると、彼は老齢に見合う嗄れた笑い声を溢す。
「恐らくリグ・ティーナの人間でしょう。あれは鉄の塊が空を走る音ですよ。私も久方ぶりに聞きましたが、何とも耳障りないまいましい音ですな」
「リグ・ティーナの……?」
アイリーンはフードの下で目をしばたたく。自然と浮かぶのはジャスパーの存在だ。彼との文通の中で、リグ・ティーナの人間は鉄の塊が水に浮かせるだけでなく空を飛ばす事もできると聞いた。空を飛ぶと雷に似た音が轟くと……。
この直感はまさか。
まさか本当に。ジャスパーが自分に会いに来たのではないか。
アイリーンは急ぎ聖堂を飛び出そうとするが、すぐにサーシャに腕を掴まれる。
「アイリーン様、何を急いでいるのです」
司祭の前なのでサーシャは馬鹿と丁寧な口調だった。普段と言えばもっと言葉が乱雑だというのに違和が強い。
「だって……侵入者の身が危険でしょう」
人前なので自分も比較的丁寧な口調を努めた。
「だからリーアムや神官たちが様子を見に行ったのでしょう。アイリーン様に何ができるというのです」
──それに、無謀な異国人が命を落とそうが関係ない。自業自得。と、サーシャがきっぱり言い放つが、アイリーンは納得できなかった。その様子をフードから露出した唇だけで読み取ったのか、サーシャは大きなため息を一つ吐く。
「あんた馬鹿なの。空からの侵入者なんて助からないわよ。だからリーアムたちが向かったの。神殿としては、無惨なものをあんたに見せる訳にはいかないのよ。少しは状況を読みなさいよ」
呆れきった小声で言われてアイリーンは僅かにフードを持ち上げ彼女を盗み見る。
ジト……と目を細めた呆れた顔。なんだやはりいつものサーシャだ。
遺体を回収し、墓を掘る為にリーアムや神官が外に出た。彼女の言いたい事は簡単に理解できる。
外からの来訪者なんてこの場にいる誰もが初めて経験だが、こんな事は長い歴史の中で何度かあったらしい。
神殿側の話によると、これまで何人かのリグ・ティーナ人が石英樹海の空路攻略を挑戦しようとしたらしい。結果、全てがこの樹海上空で散っている。
遺体を回収できた者もいればできなかった者もいるが、いくら神秘の加護を持つ神殿関係者だろうが、リグ・ティーナに遺体搬送する術はない。なので回収された遺体は全て石英樹海に眠っているのだ。
────私の事はいいから集中しなさいよ。
何となく言わんとしている事が分かってしまい、アイリーンは目深にフードを被り直した矢先──脳裏の奥で何かが光ったかのような感覚がした。
(何かが私の元に来るわ……)
これぞ直感が働いた瞬間だ。
間違いない。必ず来る。しかし何が……。
そう思って間もなく、遠くから地鳴りの如き轟音が響き始めた。
雷か。いや、それにしては長い。薔薇窓に光が差し込む程の晴天だ。むしろこんな快晴が珍しい程だ。騒音は次第に大きくなりこちらに近付いてくる事が分かる。
儀式中だというのに、不審に思った神官たちはピタリと詠唱を止め天井を見上げて、どよめき始めた。
「おまえたちとリーアムは様子を見に行きなさい」
老いぼれた司祭が指示すると神官とリーアムは足早に聖堂を後にする。
「何の騒ぎでしょうね……何かが私の元にやって来る気配がします」
アイリーンが司祭に話しかけると、彼は老齢に見合う嗄れた笑い声を溢す。
「恐らくリグ・ティーナの人間でしょう。あれは鉄の塊が空を走る音ですよ。私も久方ぶりに聞きましたが、何とも耳障りないまいましい音ですな」
「リグ・ティーナの……?」
アイリーンはフードの下で目をしばたたく。自然と浮かぶのはジャスパーの存在だ。彼との文通の中で、リグ・ティーナの人間は鉄の塊が水に浮かせるだけでなく空を飛ばす事もできると聞いた。空を飛ぶと雷に似た音が轟くと……。
この直感はまさか。
まさか本当に。ジャスパーが自分に会いに来たのではないか。
アイリーンは急ぎ聖堂を飛び出そうとするが、すぐにサーシャに腕を掴まれる。
「アイリーン様、何を急いでいるのです」
司祭の前なのでサーシャは馬鹿と丁寧な口調だった。普段と言えばもっと言葉が乱雑だというのに違和が強い。
「だって……侵入者の身が危険でしょう」
人前なので自分も比較的丁寧な口調を努めた。
「だからリーアムや神官たちが様子を見に行ったのでしょう。アイリーン様に何ができるというのです」
──それに、無謀な異国人が命を落とそうが関係ない。自業自得。と、サーシャがきっぱり言い放つが、アイリーンは納得できなかった。その様子をフードから露出した唇だけで読み取ったのか、サーシャは大きなため息を一つ吐く。
「あんた馬鹿なの。空からの侵入者なんて助からないわよ。だからリーアムたちが向かったの。神殿としては、無惨なものをあんたに見せる訳にはいかないのよ。少しは状況を読みなさいよ」
呆れきった小声で言われてアイリーンは僅かにフードを持ち上げ彼女を盗み見る。
ジト……と目を細めた呆れた顔。なんだやはりいつものサーシャだ。
遺体を回収し、墓を掘る為にリーアムや神官が外に出た。彼女の言いたい事は簡単に理解できる。
外からの来訪者なんてこの場にいる誰もが初めて経験だが、こんな事は長い歴史の中で何度かあったらしい。
神殿側の話によると、これまで何人かのリグ・ティーナ人が石英樹海の空路攻略を挑戦しようとしたらしい。結果、全てがこの樹海上空で散っている。
遺体を回収できた者もいればできなかった者もいるが、いくら神秘の加護を持つ神殿関係者だろうが、リグ・ティーナに遺体搬送する術はない。なので回収された遺体は全て石英樹海に眠っているのだ。
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