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終章
終-4.再誕せしエルン・ジーアⅣ
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「……五年前に借りたのよ」
「そう。特にリーアムは想像できないかもしれねーけど、サーシャ、アイリーンにボロボロに泣かされていたからな。まぁアイリーンも号泣だったけど」
その言葉でアイリーンは昔の出来事がいくらか過った、いつの事かは定かでない。
「え……いつ?」
思わず訊くが、サーシャは気まずいのか照れているのか顔を赤く染めて──「詮索しないで!」と話を折った。
「で……そっちの話は纏まったのか?」
ジャスパーが訊くとリーアムは曖昧に頷く。
「ですが本当にそれで良いのか……」
「もう腹を括りなさい。私はいくらでも支えてあげるから。それにアイリーン。あんたから見ても意義はないのよね?」
アイリーンはサーシャに頷くとリーアムを真っ直ぐに見つめる。
「どうかリーアムが教皇として……新たなエルン・ジーアを納めて頂けませんか。二国の心の拠り所として架け橋として。美しいこの地を治めて頂きたいです」
アイリーンが真っ直ぐに彼を見つめて言うと、彼はようやく腹を括ったのか、深く頷いた。
*
その日の帰り道。子どもたちは散々はしゃいで疲れ切ってしまったのか馬車に乗るなり眠りに落ちて車内は静かだった。
響くのは心地良い蹄の音。アイリーンは車窓から見える夕暮れ迫る景色をぼんやりと眺めていた。
来た時も思ったが、もはや〝石英〟樹海の面影はない。ただ肥沃な自然が広がるだけで、風の精霊たちが気持ち良さそうに茜射す空を飛んでいる。
湖畔の並木道を走り抜け、見えてくるのはヒースが咲き乱れる小高い丘。ジア・ル・トーが遠目に映る。その頂点には廃墟の塔。
丁度落陽の刻。頂点に鮮やかな橙の太陽が煌めき、息を飲む程に美しかった。
「エルン・ジーアは本当に綺麗な地だったんだな」
同じ景色を見つめていたジャスパーは感心したように言うが、その瞳はどこか感慨深そうだった。
「そうね……とても美しい場所だった。私が昔見たシャーロットの記憶のままに蘇っているわ」
アイリーンの脳裏にはいつだか、シャーロットの心から見た景色が浮かぶ。照らし合わせても殆ど変わらない程、そのまま復元されたのだ。
何だかこんな景色を眺め続けていると、なぜか感極まり自然と涙が滲んでくる。
自分の心の中にいるであろう三人の少女の顔を久しく思い出して、アイリーンの瞳にはツゥ……と一筋の涙が伝う。しかし、それはすぐに無骨な指に拭われた。
「俺たちはあの日、赦されたんだ。アイリーンの中の女神たちの為も、きっとこの景色を今見ているさ」
優しい笑みを浮かべて真っ直ぐ言われたので、少しだけ恥ずかしく思った。
「ごめんなさい。どうしても色々と思い出しちゃって……」
慌てて涙を拭って笑むと彼は優しくアイリーンの頬を撫でた。
「色々あったが、全てひっくるめて俺は俺として生まれた事が幸せだ。アイリーンは俺に最高の人生を与えてくれた。名付けの由来になった菫青石の意味通り〝人生の羅針盤〟だ。俺はアイリーンを愛せた事が幸せだ」
真摯に告げられた言葉に新たな涙が滲んだ。
「本当にありがとう。私も同じ気持ちなの。私は世界で一番幸せ女神だった。そして今は誰よりも幸せな女だと思う。あなたと生きられる事が本当に幸せよ。ジャスパー、愛してるわ」
アイリーンは涙ながらに笑むと、彼はアイリーンの頤を摘まみ、やんわりと唇を重ねた。
「そう。特にリーアムは想像できないかもしれねーけど、サーシャ、アイリーンにボロボロに泣かされていたからな。まぁアイリーンも号泣だったけど」
その言葉でアイリーンは昔の出来事がいくらか過った、いつの事かは定かでない。
「え……いつ?」
思わず訊くが、サーシャは気まずいのか照れているのか顔を赤く染めて──「詮索しないで!」と話を折った。
「で……そっちの話は纏まったのか?」
ジャスパーが訊くとリーアムは曖昧に頷く。
「ですが本当にそれで良いのか……」
「もう腹を括りなさい。私はいくらでも支えてあげるから。それにアイリーン。あんたから見ても意義はないのよね?」
アイリーンはサーシャに頷くとリーアムを真っ直ぐに見つめる。
「どうかリーアムが教皇として……新たなエルン・ジーアを納めて頂けませんか。二国の心の拠り所として架け橋として。美しいこの地を治めて頂きたいです」
アイリーンが真っ直ぐに彼を見つめて言うと、彼はようやく腹を括ったのか、深く頷いた。
*
その日の帰り道。子どもたちは散々はしゃいで疲れ切ってしまったのか馬車に乗るなり眠りに落ちて車内は静かだった。
響くのは心地良い蹄の音。アイリーンは車窓から見える夕暮れ迫る景色をぼんやりと眺めていた。
来た時も思ったが、もはや〝石英〟樹海の面影はない。ただ肥沃な自然が広がるだけで、風の精霊たちが気持ち良さそうに茜射す空を飛んでいる。
湖畔の並木道を走り抜け、見えてくるのはヒースが咲き乱れる小高い丘。ジア・ル・トーが遠目に映る。その頂点には廃墟の塔。
丁度落陽の刻。頂点に鮮やかな橙の太陽が煌めき、息を飲む程に美しかった。
「エルン・ジーアは本当に綺麗な地だったんだな」
同じ景色を見つめていたジャスパーは感心したように言うが、その瞳はどこか感慨深そうだった。
「そうね……とても美しい場所だった。私が昔見たシャーロットの記憶のままに蘇っているわ」
アイリーンの脳裏にはいつだか、シャーロットの心から見た景色が浮かぶ。照らし合わせても殆ど変わらない程、そのまま復元されたのだ。
何だかこんな景色を眺め続けていると、なぜか感極まり自然と涙が滲んでくる。
自分の心の中にいるであろう三人の少女の顔を久しく思い出して、アイリーンの瞳にはツゥ……と一筋の涙が伝う。しかし、それはすぐに無骨な指に拭われた。
「俺たちはあの日、赦されたんだ。アイリーンの中の女神たちの為も、きっとこの景色を今見ているさ」
優しい笑みを浮かべて真っ直ぐ言われたので、少しだけ恥ずかしく思った。
「ごめんなさい。どうしても色々と思い出しちゃって……」
慌てて涙を拭って笑むと彼は優しくアイリーンの頬を撫でた。
「色々あったが、全てひっくるめて俺は俺として生まれた事が幸せだ。アイリーンは俺に最高の人生を与えてくれた。名付けの由来になった菫青石の意味通り〝人生の羅針盤〟だ。俺はアイリーンを愛せた事が幸せだ」
真摯に告げられた言葉に新たな涙が滲んだ。
「本当にありがとう。私も同じ気持ちなの。私は世界で一番幸せ女神だった。そして今は誰よりも幸せな女だと思う。あなたと生きられる事が本当に幸せよ。ジャスパー、愛してるわ」
アイリーンは涙ながらに笑むと、彼はアイリーンの頤を摘まみ、やんわりと唇を重ねた。
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