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終章
終-3.再誕せしエルン・ジーアⅢ
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自分も親だから分かるが、彼らは完全に母親と父親の顔をしており、幸福な空気感から互いを愛し合っていると確かに分かる。
二人が悶着しているので、サーシャの腕の中の子を覗き込む。
目が合った赤子はリーアムと同じ青い瞳。ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべていた。
恐らく女の子だろう。
あまりに可愛らしくて微笑み返せば「堅物は似ないで欲しいけど、目元そっくりでしょ」なんてサーシャは毒づきつつも軽く笑う。
彼女の対応にアイリーンは目を丸くした。
サーシャといえば、つんけんどんな態度が多かった。そもそも基本的には嫌われていたのだし。こんな風に笑う様は新鮮だ。
否、彼女に会ったのはあれ以来なので五年ぶりの再会だ。
外見だって随分変わった。元々は縦に長細かったのに、ほんの少しふっくらとして随分と女性的になった。それに何とも優しい眼差しで思わず見とれてしまう程。
「サーシャ、丸くなったわね……」
思わず口に出すと彼女は呆れたように笑ってアイリーンを一瞥する。
「あんたはさすがにアホっぽくなくなったと思うわよ」
「あ、アホ……って」
「二人も子どもを授かれば当然かもしれないけどね。まぁ、本当に久しぶり」
口調は相変わらずに素っ気ないが、眼差しは以前のように冷たくない。アイリーンは照れつつ頷いた。
その途端だった。外から賑やかな子どもたちの声が響いた──と思えば礼拝堂のドアがよく開き、鳶色の髪の小さな男の子が入って来る。彼はアイリーンの姿を見つけるなり走り寄って抱き付いた。
その顔立ちはつり目気味で、ジャスパーの幼少期はこんなではと想像できそうな程に本当によく似ている。しかし、瞳の色は自分と同じ紫色で。
「あらあら……待っていられなかったの?」
「だって、おれ。父ちゃんよりママの方がいいもん」
「んだとコラァ! 父ちゃんも良いって言ってくれ! 俺の事もいい加減
に〝パパ〟って呼んでくれよ。あと人前でアイリーンにベタベタと抱き付くな」
──俺はお前が羨ましい!
静謐を割くように響き渡る声にリーアムは目を細めて首を振る。
しかし、羨ましいって……。この人は頭が良い癖にたまに阿呆な時がある。子どもが生まれてから尚更だ。嫌な気はしないが照れくさい。
アイリーンは呆れた顔で振り向くとむくれた顔のジャスパーがいた。
彼の片腕には自分と同じ亜麻色髪の幼い女の子。指をしゃぶりつつもぎゅっと彼にしがついて不安そうに周囲を見ていた。
「ご子息はまだ幼いのでよしとしますが、あなたは立派な大人ですからね。ヒューズ公爵殿。ここは聖域ですので静粛に」
「はいはい、リーアム司祭様さーせんした」
棒読みで言うのでリーアムはむっとした顔をするが、すぐに優しい笑みを向けた。
「坊ちゃん、大きくなりましたね。それにお嬢さんも健やかそうで。ジャスパー殿もお元気そうで何よりです」
「ああ。お陰様でな。あんたも元気そうで何より。あとサーシャ、出産お疲れ。おめでとうな」
そんな風にジャスパーが言うと、彼女は少し照れたように頭を下げ、装束のポケットからハンカチーフを取り出した。
「公爵様お久しぶり。それとこれ……ずっと返す機会がなかったから」
サーシャからそれを受け取ってジャスパーが首を捻るが、ややあって思い出したのか「懐かしい」なんて彼は笑み、サーシャの頭を乱雑に撫でた。
しかしどうしたものか。全く接点なんてなさそうだったのに。アイリーンとリーアムが不思議そうに顔を見合わせると、サーシャは居心地悪そうな顔をする。
二人が悶着しているので、サーシャの腕の中の子を覗き込む。
目が合った赤子はリーアムと同じ青い瞳。ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべていた。
恐らく女の子だろう。
あまりに可愛らしくて微笑み返せば「堅物は似ないで欲しいけど、目元そっくりでしょ」なんてサーシャは毒づきつつも軽く笑う。
彼女の対応にアイリーンは目を丸くした。
サーシャといえば、つんけんどんな態度が多かった。そもそも基本的には嫌われていたのだし。こんな風に笑う様は新鮮だ。
否、彼女に会ったのはあれ以来なので五年ぶりの再会だ。
外見だって随分変わった。元々は縦に長細かったのに、ほんの少しふっくらとして随分と女性的になった。それに何とも優しい眼差しで思わず見とれてしまう程。
「サーシャ、丸くなったわね……」
思わず口に出すと彼女は呆れたように笑ってアイリーンを一瞥する。
「あんたはさすがにアホっぽくなくなったと思うわよ」
「あ、アホ……って」
「二人も子どもを授かれば当然かもしれないけどね。まぁ、本当に久しぶり」
口調は相変わらずに素っ気ないが、眼差しは以前のように冷たくない。アイリーンは照れつつ頷いた。
その途端だった。外から賑やかな子どもたちの声が響いた──と思えば礼拝堂のドアがよく開き、鳶色の髪の小さな男の子が入って来る。彼はアイリーンの姿を見つけるなり走り寄って抱き付いた。
その顔立ちはつり目気味で、ジャスパーの幼少期はこんなではと想像できそうな程に本当によく似ている。しかし、瞳の色は自分と同じ紫色で。
「あらあら……待っていられなかったの?」
「だって、おれ。父ちゃんよりママの方がいいもん」
「んだとコラァ! 父ちゃんも良いって言ってくれ! 俺の事もいい加減
に〝パパ〟って呼んでくれよ。あと人前でアイリーンにベタベタと抱き付くな」
──俺はお前が羨ましい!
静謐を割くように響き渡る声にリーアムは目を細めて首を振る。
しかし、羨ましいって……。この人は頭が良い癖にたまに阿呆な時がある。子どもが生まれてから尚更だ。嫌な気はしないが照れくさい。
アイリーンは呆れた顔で振り向くとむくれた顔のジャスパーがいた。
彼の片腕には自分と同じ亜麻色髪の幼い女の子。指をしゃぶりつつもぎゅっと彼にしがついて不安そうに周囲を見ていた。
「ご子息はまだ幼いのでよしとしますが、あなたは立派な大人ですからね。ヒューズ公爵殿。ここは聖域ですので静粛に」
「はいはい、リーアム司祭様さーせんした」
棒読みで言うのでリーアムはむっとした顔をするが、すぐに優しい笑みを向けた。
「坊ちゃん、大きくなりましたね。それにお嬢さんも健やかそうで。ジャスパー殿もお元気そうで何よりです」
「ああ。お陰様でな。あんたも元気そうで何より。あとサーシャ、出産お疲れ。おめでとうな」
そんな風にジャスパーが言うと、彼女は少し照れたように頭を下げ、装束のポケットからハンカチーフを取り出した。
「公爵様お久しぶり。それとこれ……ずっと返す機会がなかったから」
サーシャからそれを受け取ってジャスパーが首を捻るが、ややあって思い出したのか「懐かしい」なんて彼は笑み、サーシャの頭を乱雑に撫でた。
しかしどうしたものか。全く接点なんてなさそうだったのに。アイリーンとリーアムが不思議そうに顔を見合わせると、サーシャは居心地悪そうな顔をする。
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