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20.取り残された者達は 3(レイナルド)
しおりを挟む魔双石が一定間隔で点滅を繰り返し、日を跨ぎ、空が白み始めた頃ようやく石は反応を止めた。
魔双石の対を持つ者の近くで若しくは本人に魔法が使われた時にこのように点滅で反応するのだが、これだけで済んでいるということは取り敢えずは危険な状態には無いだろう。
「おい、石の反応が無くなったぞ?大丈夫なのか?」
「転移魔法を繰り返し、目的の場所に着いたのかもしれません」
「なぜ使われたのが転移魔法だと言い切れる?」
「光の反応が比較的強く出ていましたからね、日常使うような魔法ではもっと微弱か反応すら出ない時もあるんですよ。それに測ったように一定間隔での魔術行使を見ると、一定の距離を繰り返し、少しずつ遠くに運んでいるのではと。勿論、可能性の域を出ませんが」
「一度に遠くに飛ぶんじゃ駄目なのか?」
「よほど魔力が多ければ可能かもしれませんが、他人も同時に運ぶとなると転移の途中で魔力切れを起こして目的とは違う全く別の場所に飛ばされるか、最悪の場合は術者本人が命を落としかねないのですよ」
「なるほどなぁ…。じゃあ今反応が無いのは移動が終わったということか?」
「目的地に着いて転移の必要が無くなったか、または転移を繰り返し魔力が底をついての休息か。後者であっても、通常魔力量の回復には一日はかかるでしょうね」
先程までの魔双石の反応からしても、カズハ自身に命の危険に迫るような事態には無いのだろう。もしそうでなければ、魔双石自体発熱し、ひびが入るなり弾け飛ぶなりするはずだか。
ただ、懸念は魔力酔い。恐らく彼女に魔力耐性は備わっていない。耐性ゼロの者がもろに魔力に当てられたら体調不良等何かしらの変化が伴うのだが、それが一日で回復するか、後遺症という形で一生付き合っていくことになるか、どちらに転ぶか全く見当がつかない。
とにかく居場所を突き止めることを優先したいが、今ここで動いて無事カズハの元に辿り着いたとしても、そこがねぐらで無かった場合、殲滅は叶わない。つまり、今後も被害が拡がり続けることを意味する。
一か八かに賭けて今カズハを取り戻しに行くのか、確実な殲滅を目標にカズハを犠牲にするのか、考えるまでもなく後者だ。個人の益より公の益が優先される。そもそも当然ながら仕事に私情を挟むことは許されないわけで、それはここにいる皆も理解しているはずなのだ。一人の犠牲で後の多くの犠牲を防せげるにこしたことはない。
「つまりは、レイはカズハを切り捨てるということだね?」
「…」
「…ヨアン、それくらいにしとけ。お前だってわかってるだろ?俺達の…騎士の仕事は領民もしくは国を優先しなきゃなんねぇ。カズハは経緯はともかく、ここの領民ですらないんだ。それを優先させて敵を野放しにしたとあってはただのお咎めで済まない」
「わかってるいるよ、ルドルフ。それで?あと三日くらいは泳がせておくつもりかい?なぜなら確実な方法をどるんだろうからね」
…ヨアンの嫌味が止まらない。
「ルドルフ、見張りからの報告だ」
バサバサと翼を羽ばたかせ、トリスタンの左肘に着地したのは、ヴェネクト領騎士団で飼っている鳥獣で、主に連絡手段の一つとして訓練を受けている。今も見張りをしている騎士からの手紙をくわえ我々の所まで飛んできたようだ。鳥獣がトリスタンの掌にポトリと筒状に巻かれた紙を落とすと、それを広げ無言で読み進めていくうちに徐々に眉間に皺が寄っていく。
「…どうやら逃げられたようだな」
「と、いうと?」
「昼間の疑わしい人物に見張りを置いたのは四ヶ所。自宅や職場と思われる建物だな。だが、日が完全に落ちた後も灯りは無く、人影や物音一つ無い状態が今も続いている。職場に行った奴らも結局は今の時点で外に出て来ていない。最後に出てきた従業員と思われる人物が戸締まりをしているのを見張りも確認しているが、人の気配が残っているようには思えない…と」
「…彼らもその人拐い集団の餌食になった可能性はないのかい?」
「限りなくゼロに近いだろうな。さして狙われる特徴は持ち合わせているとは思えない」
「ルドルフの判断は?」
「…責任者の俺が言っていい言葉では無いが、俺は鼻が利く。まぁ、勘、だな。証拠なんてものは無いが、奴等は加害者側だ、必ずこの件に関わっている」
「勘…なのかい?危険な賭けだねぇ」
ルドルフは『踏み込め』と一言書くと、くるくるとその紙を丸め、鳥獣の嘴にくわえさせ見張りの騎士達に向け飛ばしたようだ。
いつもなら裏を取り言い逃れの出来ない証拠を持って確実に潰すルドルフであるから、勘で、しかもまだねぐらの場所も特定しない状態で行動を開始するとは意外だな、と 思わずまじまじと見つめてしまった。
男に見つめられても嬉しくないと半目になっていたが。
「さてと、んじゃ、レイナルド行くか。魔双石でカズハの居場所くらいはわかるんだろ?」
「ええ。対の魔双石の魔力を伝って導いてくれるはずです」
「ならいい。トリスタン、異論はないか?」
「この事件の責任者はお前だ。指示に従う」
どうやらルドルフまでも乗るらしい。その横でニマニマと笑みを浮かべるヨアンの気持ちの悪いことといったら…。
「どうやら同じ団長様でも、ルドルフの方が頭がやわらかいらしいね」
「・・・」
「いや、俺が言い出さなくてもレイナルドはすぐにでも行くつもりだったんだろう?」
「・・・」
「おや?そうなのかい?」
「どうせ、自分一人に責がくるようにでもするつもりだったんだろうよ」
「…ルドルフ、これであなたも責任を負うことになりますよ?」
「はっ!もとより責任者だっつーの!」
「まぁそれもそうですね」
とはいえ、取り逃がすつもりもありませんがね。
一人でも捕獲してしまえば、あとはどんな手段を使ってでも吐かせる。『手段』に使える物を準備しなくては、とカズハ救出に向けて動き始めた。
「うわぁ…レオナルドが悪い顔してるよ」
ヨアンにそう言われて、お前にだけは言われたくないと心から思う。
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