24 / 31
第24話 天上界13日目 その2 私の胸の感触を味わっているんじゃないわよね
しおりを挟む
「役所では、新しい奨学金の仕組みを作ろうとしていました」
これは本当だ。作り上げたと言えないのが残念だが。
「それはどういう仕組みなの?」
「奨学金というのは、給付型の奨学金と、貸与型の奨学金があります。ただ、給付型は利用できる人が限られており、多くの方は貸与型の奨学金を利用しています」
「奨学金で学校に通えれば、卒業後に働いて返すことができるってことね」
「それがそんなに簡単なことじゃないんです。卒業しても非正規雇用の職に就かざるを得ない場合があるし、正規雇用の職に就けても、昔みたいに終身雇用が当たり前ではなくなってきています」
「そうすると、返せると思って奨学金を借りても、返済が厳しくなることがあるわね」
「そうなんです。なので、卒業後の経済状況に合わせて返済方法を変更できたり、状況によっては返済が免除されたりするような、柔軟な仕組みを作ろうと思ったんです」
「あなたが過労死してしまったのは、それが原因なの?」
「はい。そうした仕組みを作るには、公金の投入が必要になるので、国民の理解が必要になります」
「それはわかるわ。いくら正しいと思ったことでも、理解を得られないと先には進めないわね」
「そうなんです。なので仕組みを作るだけではなく理解を得るための方策も必要で、寝る時間も惜しんでなんとか案を作り上げたと思ったのですが……」
やっと大臣レクの資料を作るところまで来たのになあ。
「あなたがそういう仕組みを作ろうとしたのはなぜ?」
「俺は大学生のとき、アルバイトで家庭教師や塾の講師をやっていたんです。ところが、そうして教えている子のなかから、家庭の環境の変化などで、進学を断念する子も出てくるんです」
「それは教える側からしたら辛い話ね」
「それで、そうした子たちに何かできないかと思ったのが原点です」
自分はごく当たり前のように進学できたというのに。
「それからどうしたの?」
「それまでは、自分の就職先について、しっかりしたイメージは持っていなかったんです。
それで、子どもたちに何かできないかと考えた結果が官庁でした」
「官庁って、あなたの世界ではいいイメージが持たれていないこともあるようね」
「そうなんです。高級官僚とか言われて、世間から隔絶しているように思われることもあります」
「でも、あなたはそこで頑張ったのよね」
「頑張っても、死んじゃったらなんにもなりませんけどね」
そこまで言ったところで、モニア様が神座を下りて、いつものパイプ椅子に座っている俺の所にやってきた。
何をするんだろうと思ったら、俺の頭が何やら柔らかいものに包まれた。
どうやら俺はモニア様に抱きしめられたらしい。
柔らかいものに包まれたという感触だけでなく、優しいオーラも感じられる。
今まで経験したことのない甘い香りもして、心がとても安らかになる。
モニア様、やっぱり女神様なんだな。
こんなにも、人を癒やす力を持っているのだから。
「有島さん、きっとそういう努力をされてきたことが、転生者に選ばれた理由だと思うわ。あなたには転生する資格が十分にあります。自分なんかが転生させてもらってよいかなんて考えちゃだめよ」
そう言ってもらえて、少し気持ちがほぐれてきた気がする。
「俺は転生させてもらっていいんですね」
「そうよ。だから自信を持っていいのよ」
モニア様、ありがとうございます。
どうして選ばれたかではなく、これからどうするかを考えていこうと、ちょっと前向きになれたかな。
あれ、こいつと少し距離を取ろうと思っていたのに、距離を取るどころかゼロ距離になってしまったわ。
思わず抱きしめてしまったじゃないの。
頑張る人は嫌いじゃないわ。
こいつにはとても及ばないかもしれないけど、私も頑張っているといえば頑張っているのだけど。
私が転生の神務を頑張っているのは、出世のためとこいつに言ったことがあるけど、ただ偉くなりたい訳じゃないの。
出世すれば、転生者選定の神務に就くことができる。
転生担当をやっていると、どうしてこの人が選ばれたのかと思うときがあるの。
また、たまにだけど、どうして自分が選ばれたのかと疑問を口にする人もいるわ。
限られた人数しか転生させられないとしたら、誰が見ても転生に値する人を選んであげたい。もちろん今の上司たちよりうまくできるかはわからないけど。
そうすれば、転生担当も自信をもって転生者を送り出すことができるし、転生者の迷いもなくしてあげられる。
こいつに当たったことで散々面倒をかけられてきたと思っていたけど、そうした思いを新たにすることができたわ。
だから、こいつに当たったことにはある意味感謝……感謝とまではいかないけど、そんなに距離は取らなくてもいいかもしれない。
「もう少しこうしていてあげるわ。頑張ってきたあなたへのご褒美よ」
人間を抱きしめたことなんかなかったから、これがご褒美になるのかは正直言って自信はないわ。
でも、これでも女神だから、人間を癒やす力くらいはあると思うわ。
そうしているうちに、こいつが私にもたれかかって来た。
あ、こいつ、私の胸の感触を味わっているんじゃないわよね。
やっぱりこいつは油断ならないわ。
そう思ったけど、どうやら眠ってしまったらしい。
なんやかんや言っていても、慣れない天上界で疲れていたのでしょうね。
今日もこいつを転生させられなかったけど、こればっかりは仕方ないわ。
また明日ね。
今日はゆっくりお休みなさいな。
これは本当だ。作り上げたと言えないのが残念だが。
「それはどういう仕組みなの?」
「奨学金というのは、給付型の奨学金と、貸与型の奨学金があります。ただ、給付型は利用できる人が限られており、多くの方は貸与型の奨学金を利用しています」
「奨学金で学校に通えれば、卒業後に働いて返すことができるってことね」
「それがそんなに簡単なことじゃないんです。卒業しても非正規雇用の職に就かざるを得ない場合があるし、正規雇用の職に就けても、昔みたいに終身雇用が当たり前ではなくなってきています」
「そうすると、返せると思って奨学金を借りても、返済が厳しくなることがあるわね」
「そうなんです。なので、卒業後の経済状況に合わせて返済方法を変更できたり、状況によっては返済が免除されたりするような、柔軟な仕組みを作ろうと思ったんです」
「あなたが過労死してしまったのは、それが原因なの?」
「はい。そうした仕組みを作るには、公金の投入が必要になるので、国民の理解が必要になります」
「それはわかるわ。いくら正しいと思ったことでも、理解を得られないと先には進めないわね」
「そうなんです。なので仕組みを作るだけではなく理解を得るための方策も必要で、寝る時間も惜しんでなんとか案を作り上げたと思ったのですが……」
やっと大臣レクの資料を作るところまで来たのになあ。
「あなたがそういう仕組みを作ろうとしたのはなぜ?」
「俺は大学生のとき、アルバイトで家庭教師や塾の講師をやっていたんです。ところが、そうして教えている子のなかから、家庭の環境の変化などで、進学を断念する子も出てくるんです」
「それは教える側からしたら辛い話ね」
「それで、そうした子たちに何かできないかと思ったのが原点です」
自分はごく当たり前のように進学できたというのに。
「それからどうしたの?」
「それまでは、自分の就職先について、しっかりしたイメージは持っていなかったんです。
それで、子どもたちに何かできないかと考えた結果が官庁でした」
「官庁って、あなたの世界ではいいイメージが持たれていないこともあるようね」
「そうなんです。高級官僚とか言われて、世間から隔絶しているように思われることもあります」
「でも、あなたはそこで頑張ったのよね」
「頑張っても、死んじゃったらなんにもなりませんけどね」
そこまで言ったところで、モニア様が神座を下りて、いつものパイプ椅子に座っている俺の所にやってきた。
何をするんだろうと思ったら、俺の頭が何やら柔らかいものに包まれた。
どうやら俺はモニア様に抱きしめられたらしい。
柔らかいものに包まれたという感触だけでなく、優しいオーラも感じられる。
今まで経験したことのない甘い香りもして、心がとても安らかになる。
モニア様、やっぱり女神様なんだな。
こんなにも、人を癒やす力を持っているのだから。
「有島さん、きっとそういう努力をされてきたことが、転生者に選ばれた理由だと思うわ。あなたには転生する資格が十分にあります。自分なんかが転生させてもらってよいかなんて考えちゃだめよ」
そう言ってもらえて、少し気持ちがほぐれてきた気がする。
「俺は転生させてもらっていいんですね」
「そうよ。だから自信を持っていいのよ」
モニア様、ありがとうございます。
どうして選ばれたかではなく、これからどうするかを考えていこうと、ちょっと前向きになれたかな。
あれ、こいつと少し距離を取ろうと思っていたのに、距離を取るどころかゼロ距離になってしまったわ。
思わず抱きしめてしまったじゃないの。
頑張る人は嫌いじゃないわ。
こいつにはとても及ばないかもしれないけど、私も頑張っているといえば頑張っているのだけど。
私が転生の神務を頑張っているのは、出世のためとこいつに言ったことがあるけど、ただ偉くなりたい訳じゃないの。
出世すれば、転生者選定の神務に就くことができる。
転生担当をやっていると、どうしてこの人が選ばれたのかと思うときがあるの。
また、たまにだけど、どうして自分が選ばれたのかと疑問を口にする人もいるわ。
限られた人数しか転生させられないとしたら、誰が見ても転生に値する人を選んであげたい。もちろん今の上司たちよりうまくできるかはわからないけど。
そうすれば、転生担当も自信をもって転生者を送り出すことができるし、転生者の迷いもなくしてあげられる。
こいつに当たったことで散々面倒をかけられてきたと思っていたけど、そうした思いを新たにすることができたわ。
だから、こいつに当たったことにはある意味感謝……感謝とまではいかないけど、そんなに距離は取らなくてもいいかもしれない。
「もう少しこうしていてあげるわ。頑張ってきたあなたへのご褒美よ」
人間を抱きしめたことなんかなかったから、これがご褒美になるのかは正直言って自信はないわ。
でも、これでも女神だから、人間を癒やす力くらいはあると思うわ。
そうしているうちに、こいつが私にもたれかかって来た。
あ、こいつ、私の胸の感触を味わっているんじゃないわよね。
やっぱりこいつは油断ならないわ。
そう思ったけど、どうやら眠ってしまったらしい。
なんやかんや言っていても、慣れない天上界で疲れていたのでしょうね。
今日もこいつを転生させられなかったけど、こればっかりは仕方ないわ。
また明日ね。
今日はゆっくりお休みなさいな。
10
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる