善とか悪とか、魔法少女とか

結 励琉

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第32話 ヒバリ先輩、これっておかしくないですか

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 それから毎日、ヒバリ先輩と私は農園の仕事に励んだ。
 いくつかのお店から商品を地下の倉庫に瞬間移動させたり、子どもたちと一緒に農作業に精を出したりした。

 作物は出荷するだけでなく、直売所でも売っている。直売所に置いた野菜がすぐに売れると、とても嬉しくなる。
 仲間がやっているあちこちの農園を訪れて、交流することもあった。

 他の農園のイメージができるようになると、買い入れた農機具の入った木箱や麻袋を、他の農園に瞬間移動させることも行うようになった。

 これ、本当に便利だ。この国ではウィースを禁じられているのでこっそりやっているのはもったいない。魔人マガッシュに偏見を持たずに、ティーツィアにはウィースの行使を認めればいいのに。

 早く日本に、うちに帰りたいという気持ちには変わりはない。
 ただ、もう少しここのお役に立ちたいという気持ちもあり、「そろそろ帰して」と言い出せなかった。

 そのうちに、大切な仕事も任せられるようになった。
 鍵のかかったずっしりと重い小箱を、他の農園に瞬間移動させる仕事だ。
「これ、何が入っているんですか?」

「お金だよ。うちの農園が一番売り上げが大きいから、他の農園の援助もしてるんだ。ただ、直売所の売り上げだと小銭が多くてね。両替すると手数料がかかるから、小銭のまま送っているんだ。僕らが汗水たらして働いて稼いだお金だ。間違いなく送ってくれよ」
 ガシンさんがそう答えた。

 ある夜、いつもは扉がしっかり閉められている部屋の前を通りかかったところ、閉め方が甘かったのか、ほんの少しだけ扉に隙間ができていた。
 お金や土地建物の権利書など大切なものが入っているので、入らないようにと言われている部屋だ。

 光や話し声が漏れてくる。
 聞いてはいけないと思い立ち去ろうとしたときに、こんな言葉が聞こえてきた。
「新しい魔法少女が……」

 魔法少女?
 思わず立ち止まり、息を潜めて聞き耳を立てた。
 ガシンさんたちの話し声が聞こえる

「ニホンから通信があった。今回それで銀行の任務に失敗したそうだ」
 今、ニホンって言った? 銀行って言った?
「魔法少女ってことは、ココロの後釜か」

「そしたら、またしばらくニホンからきんが来なくなるな」
「現金をきんに替えてこっちに送ってこないと、支払いができなくなるぞ」
「ほかのアジトにもきんを送れなくなる」

「組織作りが遅れてしまう。早くなんとかしないと」
「やっぱり増援した方がいいのでは」
「いや、そんな余裕はない。向こうは向こうで頑張ってもらうしかない」

「じゃあ、ココロのコスチュームの布の解析を急ごう」
「『気』とやらの研究もな」
「おい、扉がきちんと締まっていないぞ」

 私は慌ててその場を離れた。
 え、これ、どういうこと?
 日本? 魔法少女の後任? 銀行? 現金? 

 そして、現金をきんに替えてこちらに送っている?
 これではまるでマールムの会話だ。
 まさか、ここのメンバーはマールム? ティーツィアじゃないの?

 みんないい人で、子どもたちも懐いている。悪人のはずはない。
 私は慌ててヒバリ先輩の部屋に向かい、扉をノックした。
「ヒバリ先輩、ちょっといいですか?」

「どうしたの?」
「ご相談があります」
「何? 切羽詰まった顔をしているわよ。とにかく入って」

 ベッドに並んで、さっき聞いたことをヒバリ先輩に話した。
「ヒバリ先輩、これっておかしくないですか。どう聞いても、マールムの会話ですよね。ここの人たち、ティーツィアじゃなくて、マールムじゃないんですか。私たち、騙されているんじゃないですか?」

 私がまくし立てるのを真剣な表情で聞いていたヒバリ先輩が答えた。
「ココロ、これ、私に任せてくれないかな。あなたたちはマールムですかって聞いても、はい、そうですって答えるかな。何かの聞き間違いと言われてそれでおしまいかも」

「いえ、確かに聞いたんです。聞き間違いじゃないんです」
「それなら一層慎重にいかないといけないわ。下手をしたら殺されてしまうかもしれない。とにかくココロは絶対に誰にも言ってはダメよ」

「わかりました」
 大変なことになってしまった。
 ティーツィアだと信じていた人たちがマールムだったということだけでなく、自分はマールムのために働いてしまったのかもしれないのだ。

 ココロが自室に戻ったのを確かめてから、ヒバリはさっきココロが「立ち聞き」をした部屋の扉の前に立ち、ノックをした。
「詠唱を」

「同胞のために」
 扉が開き、ガシンが顔を出した。
「ヒバリ君、どうした」

「ココロが私たちの正体に気付きました」
「そうか、入ってくれ」
 狭い部屋の中のテーブルに、数名の男女が座っていた。

「ここでの話を聞かれたようです」
「そうか、さっき廊下に誰かいたような気がしたのは、ココロ君だったのか」
「はい。お願いですから、手荒なことはしないでください」

「そんなことはしないさ。かえって手間が省けたな」
 ガシンがニタッと笑ってそう言った。
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