婚約破棄されるはずが溺愛されてしまいました。

香取鞠里

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 翌日、突如私の目の前に再びパトリックが現れた。

「シェリー、俺と一緒に来い」

 はい??

「父上から許可が降りたが、結婚の条件としてシェリーにも俺を好きになってもらう必要があるんだ」

「で、でも、私何も準備できてません!」

「荷物なら俺が新調させた」

「えええ??」

 そんな無茶苦茶な……っ!

 こうして唐突にシェリーはパトリックに連れ去られることになったのだった。


 うう、落ち着かない……。

 シェリーはパトリックに連れて来られた部屋を見回す。

 部屋はあろうことかパトリックと同室だ。

 近くにパトリックが居ると思うと落ち着かないのも当然だろう。

 
「シェリー、少しはこっちは向いたらどうだ?」

 どういうわけかベッドまで一緒だなんて……。

 シェリーは寝たふりをした。

 出会ってすぐのパトリックとすぐに親密になんてなれないからだ。

 その後何日もシェリーは頑なにパトリックとの距離を保った。

 パトリックもまたシェリーとの距離を保ってくれていた。

 けれどそれも一ヶ月が過ぎる頃には少しずつではあったが、シェリーとパトリックの距離は自然と近づいていた。


「シェリー、大丈夫か」

 この日、屋敷から出ようとしたところでつまずいたシェリーを、パトリックが抱き留める。


「ええ、ありがとう」

 ふれ合う体温が熱かった。

 瞬間、パトリックに抱きしめられていた。

「あ、あの……っ」

「すまない」

 シェリーが戸惑うような声をあげると、パトリックは少し申し訳なさそうに離れていった。

 このときシェリーは思った。

 何だかんだでパトリックはシェリーと距離を保ってくれているけれど、本当は我慢させているのではないかって。

 何となく悶々とした気持ちのままシェリーはパトリックの白馬に一緒に乗って外に出た。

 外に出ると、悶々とした気持ちも忘れて市場で買い物を楽しんだ。

 そのとき、シェリーの旧友に会った。


「シェリー? え? 伯爵のご子息と一緒なの? あんた、伯爵に婚約破棄されたんじゃなかったの!?」

 どこで婚約破棄の話を聞いたのか、驚いたようにシェリーとパトリックを見る旧友。

 確かに一度は婚約破棄を告げられたが、パトリックの強い引き留めによって婚約は実質破棄されていない。
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