この恋は、誰にも言えない

香取鞠里

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この恋は、誰にも言えない

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 この恋は、誰にも言えない。
 言葉にしてしまった瞬間、壊れてしまう気がして。

 彼とは、約束があるわけでも、未来があるわけでもない。
 名前のつかない関係で、ただ同じ時間を共有しているだけだ。

 それでも、彼の声を聞くたび、
 私の心は確実にそちらへ引き寄せられていく。

「無理しなくていいよ」
 その一言が、どれほど残酷か、彼は知らない。

 優しさにすがるたび、
 自分が惨めになっていくのに、
 それでも離れられなかった。

 友達に話せば、きっと止められる。
 家族に話せば、きっと悲しませる。
 だから私は、この気持ちを笑顔の奥に隠した。

 一番苦しいのは、
 誰にも言えないまま、
 この恋が少しずつ深くなっていくこと。

 期待してはいけない。
 望んではいけない。
 それなのに、彼が名前を呼ぶだけで、
 胸が熱くなる。

 夜、ひとりでいるときだけ、
 私は正直になる。

「会いたい」
「声が聞きたい」
「そばにいたい」

 全部、言えない言葉だ。

 彼の隣には、私の居場所はない。
 それでも、心だけは何度も彼の元へ帰ってしまう。

 この恋は、誰にも言えない。
 でも、なかったことにもできない。

 だから私は、
 今日も何事もなかったふりをして、
 彼と同じ世界で息をしている。

 誰にも知られないまま、
 それでも確かに、ここにある恋を抱えて。

(終わり)

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