一獣一妻 ~異世界へ嫁候補として連れてこられたけど、どうやら人間は憎悪の対象のようです

珠羅

文字の大きさ
26 / 41

   見落とした違和感②

しおりを挟む



 何時もより早く屋敷に戻り、彼女の部屋に向かう。
 薄暗い部屋は、いつもと同じで明かりが付いていない。
 もはや彼女の部屋に明かりをつけるのは、マティアスの仕事になっていた。
 静かな部屋に一歩足を踏み入れて、明かりを灯すと、ソファーに座っている彼女が立ち上がった。

 昨日は裸のまま逃げるように、バスルームを出たのだ。恥ずかしいやら、情けないやら。そんな感情を認めたくなくて、押し殺して、なるべく、昨日の事を気取られないように、緩む口元を引き締める。

「ただいま」
 愛想無いのはいつもの事だ。
 彼女は一瞬驚き、眉を寄せたが、その後ニコリと微笑んだ。
 昨日の失態に触れられずに、マティアスはホッとした。

 世奈の顔色が悪いことが気になったが、彼女はいつも通り、笑顔で返事をすると、台所に向かう。気のせいか、口数も少ない。

 心配で、彼女の背中に張り付く。
 相変わらず、彼女からはいい香りがして、玉ねぎ攻撃にもめげずに、背中を陣取った。
 彼女の作る料理は美味しい。
 初めて出される料理に、涎も出そうだが、目が輝く。
 昨日のトマトを使った料理もさっぱりして、とても美味しかった。
 今日の料理も、米によく合う。あれと一緒なら、この米というのが何杯でもいけそうだ。その米も穀物だと、知り、入手できるかとあれこれ算段する。

 穀物類は害蟲の被害にあいやすく、量産されていないので、あまり流通していない。
 けれど、世奈がアウロから持ってきたのなら、アウロから輸入と言う手もある。
「穀物はあまり出回っていないからな・・・。心当たりを当ってみよう」
 マティアスの言葉に世奈は嬉しそうに笑った。

 それよりも、彼女の前に並んだ皿の料理が減っていない事が気になる。
 明らかに顔色が悪いのに、無理に笑っている感じがして、落ち着かない。
 もしかして、体調が悪いのか?触れて確認したいが、やはり、戸惑う。気にかかるが、気の利いたことも言えない。
 何度も何度も、彼女の顔と、一向に減らない皿を見つめた。
 何と言って、声を掛ければいいのか、解らずに、思案していると、彼女が立ち上がり、声を掛けてきた。
「―――ごめんなさい、今日は調子が悪くて・・・・部屋に戻って寝ます」
 うじうじと悩んでいる間に、彼女は部屋を出て行ってしまい、残されたマティアスは、彼女を追うべきか、どうすればいいのか、解らずに、部屋に取り残された。



 調子が悪いとは、どんな感じなんだ?どの程度の不調なのだ?
 獣人は体力が命だ。ちょっとしたことで、寝込むことなんてほとんどない。
 寧ろ年中元気だ。
 一日ゆっくり休んだら、元気になるだろう。

 何時もなら、世奈と一緒に台所も片付けるのだが、後で本館に運んで片付けてもらおうと思い、乱雑にカートに皿や残った料理を乗せた。

 ここ数日、彼女と一緒に入っていた風呂に、一人で入るのは久しぶりだった。
 バスタブに湯を張るのは、世奈だけで、マティアスはいつだってシャワーのみだ。
 浮かんでくる煩悩を散らすために、冷たいシャワーを浴びて、身体と頭を洗う。
 ふと、手が自分の耳に触れる。

 彼女は、自分の耳に触れるときどんな顔をしていただろうか。
 嬉しそうに、顔をほころばせて、わしゃわしゃと撫でたり摩ったりしていた。不思議と嫌な気持ちにはならず、寧ろもっと触ってほしいとすら思っていたことに、気が付き、唖然とする。

 世奈の手を、指先を思い出すと、居てもたってもいられなくなり、慌ててシャワーを終えると、身体を拭き服を着こんだ。
 用事もないのに彼女の部屋に行くのはためらわれ、具合が悪そうだった彼女を思い出し、水の入ったポットと、切った果物を持ち、彼女の部屋に急いだ。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

処理中です...