魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

文字の大きさ
4 / 86
第一章 死霊使いの薔薇石 ~第三者による詐欺行為~

ダンジョン都市の界隈

しおりを挟む
 安価な盾に剣、そして杖。
 それらを引っさげた冒険者たちが、
 レッジョで最も広い
 メインストリートの一つ
 ピカーニ通りにひしめく。
 その顔は悲喜こもごもで、
 ダンジョンで見つけたレアものを
 見つけはしゃいでいる者もいれば、
 中には負傷して仲間に肩を貸してもらい
 やっとのことで歩いている者もいる。
 時間的にも日は沈みつつあり、
 ダンジョンから冒険者が
 引き揚げてくるころ合いだ。

「安いよ、美味いよ~。
 ついさっきダンジョンで
 取れたスライムの酒蒸しだよ」

「ケガ人、病人は居らんかねぇ。
 冒険に魅入られた心の病以外なら
 対応しますぞぉ」

「そこのあんさん。
 仲間の骸があれば引き取りまっせ、
 棺桶も安くしとくで~」

 人混みには冒険者に群がる
 商人どもがかなり混じっている。
 娼婦に医者、葬儀屋。
 冒険者たちに寄って
 生計を立てる者たちも、
 今が書き入れ時とばかりに騒いでいる。
 明日の糧を得る者、今日で命を失う者。
 アイテムを買う者、売る者。
 生還できた喜びを体で表す者。
 厳かな面持ちのまま
 戦友の亡骸を弔う者。
 陽気な笑い顔から
 悲嘆にくれる暗い顔まで、
 喜怒哀楽のすべてが通りを
 一瞥しただけですべて目に入る。
 ルロイはアナから例の
 鑑定士の名前と店の場所を教わり、
 二人はそこへ向かう途上であった。

「あぶねぇな、前見て歩けや!」

「すっ、すみません……」

 二人が中央広場まで通りを
 北上したところで、
 リザードマンがアナの横を
 ものすごいスピードで駆け抜ける。

「あれは冒険者専用の配達人ですね。
 ダンジョンで取れたアイテムを、
 速達で運んで代わりに売却してくれる。
 この街ならではの飛脚制度です」

 中央広場は東西南北に
 レッジョを貫く二本の大通りが、
 交差するレッジョの中心部にあたり、
 当然様々な種族の冒険者たちで
 ごった返していた。
 先ほどと同じような
 風体の行商人たちを避けながら、
 ルロイがもたつくアナの手を
 引っ張り街中をエスコートする。

「この街に来るのは初めてですか?」

「はっはい、ごめんなさい田舎者で。
 右も左もわかんなくて」

「と言うか、冒険者になったのもつい
 最近ってところですかね」

「やっぱり、すぐに分かっちゃいました?」

「色々と力が入りすぎている
 気がしましたから」

 気さくそうにルロイが笑って見せると、
 アナは少し気まずそうに俯く。

「ローゼンスタインさんね……」

 何か思い出したように、
 少しばかり難しくルロイは
 眉間にしわを寄せている。

「あの、何か?」

薔薇石ローゼスストーンの製作者について
 ちょっと思い出しましてね」

 散歩のついでのようにルロイは
 通行人を避けながら語りだす。

「メルヴィル・ローゼンスタイン
 という名前をご存じですか?」

「いいえ」

 アナはフードの端を引っ張って、
 目深に被り口元をきつく閉じた。

「メルヴィル氏はここでは
 有名な魔法具職人でした。
 が、最近はめっきり話を聞きません。
 やかましい冒険者たちが嫌になったとも、
 持病が悪化して人知れず亡くなった
 ともいわれています。
 アナさんがもし縁者の方なら……」

「別人です。父はもう死にましたから」

 アナはきっぱりと断言する。

「これは……失礼しました」

 中央広場をさらに右折し、
 二人は東西に延びる
 マッティ通りを東に進む。
 なおも冒険者たちを
 かき分けながら歩きつつ、
 アナは何か腑に落ちないものを
 感じ取ってか歩みを止める。

「メルヴィルさんってここじゃ、
 有名な方なんですよね?」

「レッジョでは彼の名前くらい
 誰でも知っていますよ。
 僕は会ったことはありませんが
 頑固者の人間嫌いに見える反面、
 本当は心の優しい人であったと聞きます」

 興味を引かれたのか、
 アナは頭をフードから出して
 その話に聞き入っている。

「ま、本人が聞いたら
 頑として否定しそうですがね。
 そう言えば、
 アナさんが冒険者になった理由
 について聞いてもいいですか?」

 一瞬アナは躊躇うように、
 視線を泳がせていたが
 おもむろにに口を開いた。

「外の世界に憧れていつか
 冒険者になりたかったんです。
 でも、それを随分父に咎められ
 勘当されちゃいました。
 今は、他の冒険者の方と
 パーティを組んでクエストの傍ら、
 ダンジョンで命を落とした冒険者の
 無縁の霊を弔ってます」

「それがあなたの今の生き様ですか」

「い、いちおう……
 これでも死霊使いですから」

 マッティ通りの喧噪の中、
 二人は鑑定士の店近くの
 裏路地へと入っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...