魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

文字の大きさ
5 / 86
第一章 死霊使いの薔薇石 ~第三者による詐欺行為~

鑑定屋ぼろ儲け亭にて

しおりを挟む
[鑑定屋 ぼろ儲け亭」

 裏路地に入りほどなくして、
 この古めかしい看板が目に入った。
 アナが言っていた鑑定屋の
 店内に急いで入るも、
 既に鑑定士はなくもぬけの殻だった。
 ルロイが横長の簡素な
 カウンターまで歩み寄ると、
 果たして高いのか安いのか、
 珍妙な形の壺や像が床に散らかり
 周囲は雑然としていた。
 カウンターに横倒しになった
 木彫りの人形が目に入る。
 ルロイはそれを拾い上げる。
 片腕でもつには重く
 高価そうには見えない。
 運びやすく換金しやすいものだけ、
 選別して逃亡したのだろう。

「相手ものろまじゃないみたいですね」

「ど、どうしましょう。痛っ――――」

「大丈夫ですか!」

 呪いの進行が早まったらしい。
 アナの顔に暗い紫色の痣のようなものが、
 首元からじっとりと侵食してきている。
 時間がないのは明らかだった。

「おお、誰かと思えば、
 ルロイじゃヤァ~か?」

 焦りが募る中カウンター奥から、
 やけに陽気な声がした。
 警戒して部屋の隅の暗がりに目をやると、
 よれたコートをだらしなく
 着込んだ犬頭の亜人が、
 毛むくじゃらの体を揺り動かしながら、
 こちらに歩み寄ってきた。

「なっ、何ですかぁ~この獣人」

 アナがロッドを構えて軽く威嚇する。

「そんな怖い顔しなさんナヤァ~。
 それより、なんか食いモンくれヤァ」

 怪しげな犬頭の獣人は、
 ふてぶてしく笑いながら
 ルロイとアナを交互に見渡し、
 意地汚く鼻先をひくつかせている。

「彼は危ない者じゃありません。
 種族はコボルト、
 この界隈の情報屋で通っています。
 名前は――――」

「ディエゴだヤァ」

 ルロイが言うより先に、
 怪しげなコボルトはディエゴと名乗った。

「仕事柄、色々情報を
 仕入れなければなりませんので、
 よく取引させてもらってます。
 おかげで僕も助かってます」

「んだ。人も亜人も見てくれで
 判断してもらっちゃ困るヤァ~」

「ヤァ……ですかぁ」

 ルロイの言葉にディエゴは
 腕組みして重々しく頷いて見せる。
 なまりの酷い怪しげなこのコボルト
 をどこまで信用してよいものか、
 アナは訝りながら二、三歩後ずさる。

「怪しくはありますが気のいい奴ですよ」

「そーそー、オイラ、
 晩飯を見繕いに来ただけヤァ」

 ディエゴがここにいる理由は、
 純粋に金になりそうな情報を
 求める情報屋の嗅覚と、
 残飯でも残っていれば頂こうという
 意地汚い魂胆からだった。
 ルロイはアナを宥めるように
 あれこれとディエゴを擁護しつつ、
 ディエゴに自分たちの事情を手短に話す。

「なるほどぉ~オメェも大変だなヤァ~」

 ディエゴは間延びした口調で
 事態を理解すると、
 今度は何か企むように
 白い犬歯を出してニヤリと笑って見せる。

「つまり、ここの店主を
 踏ん捕まえたいってことだヤァ?
 それなら先回りして
 墓場で待ち伏せすりゃいいだヤァ。
 良からぬ事して逃げ出す奴が
 必ず通るルートだしヤァ」

「す、すでに逃げられちゃった後
 なんですけどぉ……
 今からで間に合うんですかぁ?」

「死霊使いのネェちゃん
 分かってねぇだヤァ。
 オイラを侮ってもらっちゃ
 困るんでヤァ」

 ディエゴは、人差し指をチッチと
 左右に振ると今度は、
 これまでのおしゃべりが嘘のように、
 今度は意味深に口をつぐんでしまった。

「あ、あの~」

 アナがディエゴに問いかけようとするや、
 ルロイがため息を吐いてそれを遮る。

「まったく、
 こないだ謝礼を渡したばかりなのに。
 本当にがめついですね」

 ルロイは腰にひっさげた革袋から、
 固く干からびた黄白色の物体を取り出す。
 それを受け取ったディエゴの目は、
 それはそれは輝かんばかりだった。

「んヤァ!これは……」

「オークの大腿骨を、
 細かく砕き蜂蜜に漬け込み
 弱火でじっくり煮込んだものです。
 たしか、あなたの好物でしたよね?」

「おおっ!これは実にいい
 仕事された豚骨だヤァ」

 舌なめずりして我慢できんとばかりに、
 骨にがぶりつくディエゴは
 ひとしきり骨と戯れた後、
 ルロイの肩を引っつかみ
 嬉しそうに耳打ちした。

「代わりに良いこと教えてやるんだヤァ~」

 ディエゴの誘いに吸い寄せられ、
 ルロイはカウンターの奥へと
 消えていった。
 その暗がりで何やら二人は
 話し込んでいるようだった。
 しばらく待ってもディエゴと
 ルロイのやり取りが見えないアナは、
 不安げにカウンターから
 身を乗り出して来た。

「あ、あの~」

「お待たせしてすみません」

 話しがようやくまとまったのか、
 ルロイが笑顔で
 アナの元へ戻って来た。

「おっし、善は急げ!
 ネェちゃんもこっち来いヤァ」

 ディエゴはルロイとアナを引き連れ、
 店の裏側に位置する路地の寂れた
 行き止まりへとやってきた。
 ディエゴは行き止まりの
 大きな石畳を引きはがすと、
 カビ臭いにおいとともに石畳の下に
 薄暗い空間が露わになった。

「今は使われなくなった地下道でヤァ。
 換気口の光を頼りに真っ直ぐ行って、
 行き止まりで天井をどければ、
 レッジョ霊園のすぐ近くに
 出れるはずだでヤァ」

「やはりあなたに相談して正解でしたね」

 まさにダンジョン都市。
 そんな表情で唖然とするアナに
 ルロイが微笑んで見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...