魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

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第一章 死霊使いの薔薇石 ~第三者による詐欺行為~

鑑定屋ぼろ儲け亭にて

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[鑑定屋 ぼろ儲け亭」

 裏路地に入りほどなくして、
 この古めかしい看板が目に入った。
 アナが言っていた鑑定屋の
 店内に急いで入るも、
 既に鑑定士はなくもぬけの殻だった。
 ルロイが横長の簡素な
 カウンターまで歩み寄ると、
 果たして高いのか安いのか、
 珍妙な形の壺や像が床に散らかり
 周囲は雑然としていた。
 カウンターに横倒しになった
 木彫りの人形が目に入る。
 ルロイはそれを拾い上げる。
 片腕でもつには重く
 高価そうには見えない。
 運びやすく換金しやすいものだけ、
 選別して逃亡したのだろう。

「相手ものろまじゃないみたいですね」

「ど、どうしましょう。痛っ――――」

「大丈夫ですか!」

 呪いの進行が早まったらしい。
 アナの顔に暗い紫色の痣のようなものが、
 首元からじっとりと侵食してきている。
 時間がないのは明らかだった。

「おお、誰かと思えば、
 ルロイじゃヤァ~か?」

 焦りが募る中カウンター奥から、
 やけに陽気な声がした。
 警戒して部屋の隅の暗がりに目をやると、
 よれたコートをだらしなく
 着込んだ犬頭の亜人が、
 毛むくじゃらの体を揺り動かしながら、
 こちらに歩み寄ってきた。

「なっ、何ですかぁ~この獣人」

 アナがロッドを構えて軽く威嚇する。

「そんな怖い顔しなさんナヤァ~。
 それより、なんか食いモンくれヤァ」

 怪しげな犬頭の獣人は、
 ふてぶてしく笑いながら
 ルロイとアナを交互に見渡し、
 意地汚く鼻先をひくつかせている。

「彼は危ない者じゃありません。
 種族はコボルト、
 この界隈の情報屋で通っています。
 名前は――――」

「ディエゴだヤァ」

 ルロイが言うより先に、
 怪しげなコボルトはディエゴと名乗った。

「仕事柄、色々情報を
 仕入れなければなりませんので、
 よく取引させてもらってます。
 おかげで僕も助かってます」

「んだ。人も亜人も見てくれで
 判断してもらっちゃ困るヤァ~」

「ヤァ……ですかぁ」

 ルロイの言葉にディエゴは
 腕組みして重々しく頷いて見せる。
 なまりの酷い怪しげなこのコボルト
 をどこまで信用してよいものか、
 アナは訝りながら二、三歩後ずさる。

「怪しくはありますが気のいい奴ですよ」

「そーそー、オイラ、
 晩飯を見繕いに来ただけヤァ」

 ディエゴがここにいる理由は、
 純粋に金になりそうな情報を
 求める情報屋の嗅覚と、
 残飯でも残っていれば頂こうという
 意地汚い魂胆からだった。
 ルロイはアナを宥めるように
 あれこれとディエゴを擁護しつつ、
 ディエゴに自分たちの事情を手短に話す。

「なるほどぉ~オメェも大変だなヤァ~」

 ディエゴは間延びした口調で
 事態を理解すると、
 今度は何か企むように
 白い犬歯を出してニヤリと笑って見せる。

「つまり、ここの店主を
 踏ん捕まえたいってことだヤァ?
 それなら先回りして
 墓場で待ち伏せすりゃいいだヤァ。
 良からぬ事して逃げ出す奴が
 必ず通るルートだしヤァ」

「す、すでに逃げられちゃった後
 なんですけどぉ……
 今からで間に合うんですかぁ?」

「死霊使いのネェちゃん
 分かってねぇだヤァ。
 オイラを侮ってもらっちゃ
 困るんでヤァ」

 ディエゴは、人差し指をチッチと
 左右に振ると今度は、
 これまでのおしゃべりが嘘のように、
 今度は意味深に口をつぐんでしまった。

「あ、あの~」

 アナがディエゴに問いかけようとするや、
 ルロイがため息を吐いてそれを遮る。

「まったく、
 こないだ謝礼を渡したばかりなのに。
 本当にがめついですね」

 ルロイは腰にひっさげた革袋から、
 固く干からびた黄白色の物体を取り出す。
 それを受け取ったディエゴの目は、
 それはそれは輝かんばかりだった。

「んヤァ!これは……」

「オークの大腿骨を、
 細かく砕き蜂蜜に漬け込み
 弱火でじっくり煮込んだものです。
 たしか、あなたの好物でしたよね?」

「おおっ!これは実にいい
 仕事された豚骨だヤァ」

 舌なめずりして我慢できんとばかりに、
 骨にがぶりつくディエゴは
 ひとしきり骨と戯れた後、
 ルロイの肩を引っつかみ
 嬉しそうに耳打ちした。

「代わりに良いこと教えてやるんだヤァ~」

 ディエゴの誘いに吸い寄せられ、
 ルロイはカウンターの奥へと
 消えていった。
 その暗がりで何やら二人は
 話し込んでいるようだった。
 しばらく待ってもディエゴと
 ルロイのやり取りが見えないアナは、
 不安げにカウンターから
 身を乗り出して来た。

「あ、あの~」

「お待たせしてすみません」

 話しがようやくまとまったのか、
 ルロイが笑顔で
 アナの元へ戻って来た。

「おっし、善は急げ!
 ネェちゃんもこっち来いヤァ」

 ディエゴはルロイとアナを引き連れ、
 店の裏側に位置する路地の寂れた
 行き止まりへとやってきた。
 ディエゴは行き止まりの
 大きな石畳を引きはがすと、
 カビ臭いにおいとともに石畳の下に
 薄暗い空間が露わになった。

「今は使われなくなった地下道でヤァ。
 換気口の光を頼りに真っ直ぐ行って、
 行き止まりで天井をどければ、
 レッジョ霊園のすぐ近くに
 出れるはずだでヤァ」

「やはりあなたに相談して正解でしたね」

 まさにダンジョン都市。
 そんな表情で唖然とするアナに
 ルロイが微笑んで見せた。
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