魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

文字の大きさ
34 / 86
第五章 ノーヴォヴェルデ ~無権代理人~

プロローグ モリーの献身

しおりを挟む
「さて、研究もひと段落したことだし
 一息入れようか。久しぶりに
 モリーの焼いたパイでも頂こうかな」
 
 リーゼは作業台の器具を片付け、
 後ろで働くモリーに声を掛ける。

「はい、リゼ姉。そろそろ
 そんな感じがしたんで
 もう用意してありますよ」

 ブルーベリーパイと紅茶を、
 木のトレーに乗せて、
 モリーが作業台まで既に来ていた。

「フフ、感心感心……」

 甘く香しい匂いに誘われ、
 リーゼはパイと紅茶に貪り付く。
 頭脳労働で疲れた脳に、
 パイと紅茶の糖分が染みわたり、
 リーゼはホッと脱力して、
 モリーに微笑みかける。

「ふぅ~モリーのおかげで
 いつも助かってるよ」

「なんです?リゼ姉ったら
 いきなり改まって」

「なんだい。
 私が優しい態度でいちゃ
 悪いのかね?」

「いえ、そいうことじゃないですけど。
 う~ん。最近のリゼ姉……
 なんか疲れてません?
 晩酌のお酒の量だって増えてるし。
 何か悩みでも……」

 ここ最近リーゼが徹夜続きである事を、
 モリーは知っている。
 単に研究に没頭しての
 徹夜続きであればこれまでもあった。
 が、錬金術の研究など知識のない
 モリーから見ても最近のリーゼは、
 研究に楽しみ没頭するよりも、
 どこか心ここにあらずの憂いを帯びて
 いる気がした。
 よくよくリーゼの端整な顔を観察すれば、
 クマが出来ており少しやつれた印象を、
 モリーは抱き、
 いつこの話題を振ろうか、
 悩んでいたのであった。

「ふぅ……そんな風に
 思われているとは、
 私もヤキが回ったかな。
 実は、例の発明なんだが、
 ようやく完成してね」

 試行錯誤と徹夜の末、
 一仕事を終え切ったリーゼが、
 疲労をにじませながら、
 満足そうに笑う。

「わぁ、ついに完成したんですね。
 やっぱりリゼ姉って凄い!」

「まぁ、ここからがまた
 大変な仕事になるんだよねぇ」

 素直に喜んで見せるモリーに、
 リーゼは物憂げにため息を吐く。

「どういうことですか?」

「扱いがかなり難しい代物だから、
 どこに売り込んだものかと
 それで少し悩んでいただけさ」

 今のこの工房では、
 発明品の開発のみならず、
 商品としての販路の開拓まで、
 リーゼ一人が担っていた。
 以前はパウルやモニカに頼んで、
 リーゼの発明品をレッジョの
 主だった商会に売り込んで
 くれていたが、
 ヘルマンの秘密遺言の件で、
 両者との関係がこじれてからは、
 研究の傍らリーゼが一から
 販路の開拓をせねば
 ならなかったのだ。

「さて、私はもう寝るよ。
 さすがに疲れたから、
 何日かは……
 起こすんじゃないよ」

 リーゼも今回ばかりは、
 疲れ切った声色を抑えきれず、
 そのままベッドに崩れ倒れ込む。

「リゼ姉。ホントお疲れ様でした」

 空になった食器を片付け、
 すでに泥のように眠っているリーゼに
 モリーは軽く一礼して研究室を去る。
 今はそっとしておいてあげることしか
 自分にはできない。
 そう思いつつ研究室を去りかけて、
 モリーはふとある考えが思い浮かぶ。
 発明品が完成したとは言え、
 まだ仕事は終わっていない。
 少しでも今の疲れ切った
 リーゼの負担を減らせるよう、
 自分にできることがあるのではないかと。
 自分でも頑張れば、
 リーゼの発明品を売り込む先を
 探すことならできるのではないか。
 そう希望を抱き、
 そそくさと小走りになってゆく後ろ姿を、
 邪な思惑を抱き見ている者が
 いることなどモリーは知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...