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第五章 ノーヴォヴェルデ ~無権代理人~
無権代理人の責任
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「話しは分かりました。
モリーさん」
ルロイがガックシ肩を落として
うなだれるモリーにうなずく。
あの日、
モリーがリーゼの研究室を
出てからの経緯はこうである。
モリーの前にドルップと名乗る
商人が現れ、破格の高値で
その発明品を買い取りたいと申し出た。
リーゼは連日の徹夜でしばらく
起きそうもない。
そもそも、しばらく起こすなと、
言われていたことをモリー思い出し、
勝手に自分がリーゼの代理として、
契約書にサインをしてしまったのだ。
翌日、リーゼが目を覚ましその
あらましの説明を受けるや、
にべもなくその取引は追認できない。
と、突っぱねてしまい。
モリーが仕方なしに、
取引の不成立をドルップに伝えるや、
激怒したドルップは多額の損害賠償を
モリーに吹っ掛けてきたと言うのだ。
「それでリゼ姉は、
やっぱりあたしの勝手にやった
事なんて知らないし許可できないって。
賠償責任も自分でなんとかしろって」
「それは随分と冷たいですね」
元はモリーの失態とは言え、
リーゼの冷たい対応に
ルロイが苦々しくため息を漏らす。
「いいんです。
あたしがそそっかしく
突っ走ったせいでリゼ姉や、
工房のみんなに迷惑は
かけられませんから」
モリーはどうにか笑って
気丈に振舞って見せるも、
ドルップが要求する賠償金を
払えるほどの余裕もツテも全くない。
結局途方に暮れて、
ルロイの元にやってきたのだった。
「法律上今回のモリーさんの行為は、
無権代理行為に当たります。
リーゼさんが追認を拒否した以上、
確かにその責任は無権代理人の
モリーさんに向かいます。
ですが、モリーさんが責任を
負わずに済むケースは
もちろんあります」
「ホントですか?」
モリーがようやく希望を見出し、
目を輝かせる。
「相手方のドルップ氏が
モリーさんに代理権がない
ことを知っていたか、過失により
知らなかった場合、
無権代理人であるモリーさんは
賠償責任を負いません」
ルロイはモリーの助かる筋道を
説明しきると、
ドルップ商会の名前が出た事に
別の懸念を抱く。
「ドルップ商会か……あの商会は
黒い噂が絶えませんからねぇ、
調べれば色々と余罪も出てくる
ことでしょう」
ドルップ商会はレッジョでも
最近設立された商会であるが、
飛ぶ鳥を落とす勢いで
成長している薬品を扱う商会である。
その輝かしい成長の裏で、
強引な商法での詐欺行為だけでなく、
違法な人身売買、果ては黒魔術を使った
怪しげな儀式を行っているなど、
黒い噂が絶えないところであった。
「よく僕に相談してくれました。
モリーさんはもう工房に戻って
後は僕に任せて下さい」
「あっ、ありがとうございます!」
元気を取り戻したモリーが、
快活にお辞儀をして事務所を後にする。
ルロイはモリーの後姿を見送った後、
自分も外出の準備を整える。
まずはドルップ商会の商館を当たる。
ケープに羽ペンと証書が入った革袋。
そして、
「使わないことを願っていますが
念には念を」
護身用のチンクエデアを携える。
ことによるとモリーやリーゼだけの
問題にとどまらず思わぬ藪蛇が
出てくるかもしれない。
そんな予感が
まとわりつくのであった。
モリーさん」
ルロイがガックシ肩を落として
うなだれるモリーにうなずく。
あの日、
モリーがリーゼの研究室を
出てからの経緯はこうである。
モリーの前にドルップと名乗る
商人が現れ、破格の高値で
その発明品を買い取りたいと申し出た。
リーゼは連日の徹夜でしばらく
起きそうもない。
そもそも、しばらく起こすなと、
言われていたことをモリー思い出し、
勝手に自分がリーゼの代理として、
契約書にサインをしてしまったのだ。
翌日、リーゼが目を覚ましその
あらましの説明を受けるや、
にべもなくその取引は追認できない。
と、突っぱねてしまい。
モリーが仕方なしに、
取引の不成立をドルップに伝えるや、
激怒したドルップは多額の損害賠償を
モリーに吹っ掛けてきたと言うのだ。
「それでリゼ姉は、
やっぱりあたしの勝手にやった
事なんて知らないし許可できないって。
賠償責任も自分でなんとかしろって」
「それは随分と冷たいですね」
元はモリーの失態とは言え、
リーゼの冷たい対応に
ルロイが苦々しくため息を漏らす。
「いいんです。
あたしがそそっかしく
突っ走ったせいでリゼ姉や、
工房のみんなに迷惑は
かけられませんから」
モリーはどうにか笑って
気丈に振舞って見せるも、
ドルップが要求する賠償金を
払えるほどの余裕もツテも全くない。
結局途方に暮れて、
ルロイの元にやってきたのだった。
「法律上今回のモリーさんの行為は、
無権代理行為に当たります。
リーゼさんが追認を拒否した以上、
確かにその責任は無権代理人の
モリーさんに向かいます。
ですが、モリーさんが責任を
負わずに済むケースは
もちろんあります」
「ホントですか?」
モリーがようやく希望を見出し、
目を輝かせる。
「相手方のドルップ氏が
モリーさんに代理権がない
ことを知っていたか、過失により
知らなかった場合、
無権代理人であるモリーさんは
賠償責任を負いません」
ルロイはモリーの助かる筋道を
説明しきると、
ドルップ商会の名前が出た事に
別の懸念を抱く。
「ドルップ商会か……あの商会は
黒い噂が絶えませんからねぇ、
調べれば色々と余罪も出てくる
ことでしょう」
ドルップ商会はレッジョでも
最近設立された商会であるが、
飛ぶ鳥を落とす勢いで
成長している薬品を扱う商会である。
その輝かしい成長の裏で、
強引な商法での詐欺行為だけでなく、
違法な人身売買、果ては黒魔術を使った
怪しげな儀式を行っているなど、
黒い噂が絶えないところであった。
「よく僕に相談してくれました。
モリーさんはもう工房に戻って
後は僕に任せて下さい」
「あっ、ありがとうございます!」
元気を取り戻したモリーが、
快活にお辞儀をして事務所を後にする。
ルロイはモリーの後姿を見送った後、
自分も外出の準備を整える。
まずはドルップ商会の商館を当たる。
ケープに羽ペンと証書が入った革袋。
そして、
「使わないことを願っていますが
念には念を」
護身用のチンクエデアを携える。
ことによるとモリーやリーゼだけの
問題にとどまらず思わぬ藪蛇が
出てくるかもしれない。
そんな予感が
まとわりつくのであった。
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