魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

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第五章 ノーヴォヴェルデ ~無権代理人~

聖化する炎

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「まだ終わらねぇってのか!」

 双剣を振るうギャリックが舌打ちをする。
 戦闘狂のギャリックの剣の太刀筋に、
 勢いがなくなりつつあった。

「ハァハァ、ダメだ
 もう……限界だよ」

 アシュリーの槍捌きも既に鈍い。
 
「ぜぇぜぇ……一旦引きましょう。
 このままでは全滅です」

 ルロイもまた限界に限界を重ねていた。
 全力疾走して逃げる体力が
 残っているかも正直疑わしい。

「リゼ姉。もう逃げて下さい」

「モリー。馬鹿っ……
 なんでここに来た?」

 リーゼが初めて薄ら笑いを引っ込め、
 狼狽えた顔つきになる。
 騒ぎを聞きつけ我慢できずに、
 工房を飛び出して来たのだろう。
 足手まといになる事を承知で、
 どうしてもリーゼに会いに。
 その横にはディエゴの姿もあった。

「ディエゴ、今まで何を……」

 ディエゴは商会を見張る仕事を
 自ら買って出た事を
 ルロイは思い出す。
 逃げしたわけではないようだが、
 一体今の今までどこを
 駆けずり回っていたのか。

「ゾンビと聞いて、
 コッチも死ぬ気で助っ人を
 探して来たんでヤァ」

 ゼェハァと過呼吸になりつつディエゴが、
 舌を出して肩で息をしている。

「助っ人……この状況を
 打破できる人物なんて」

 ルロイが藁にもすがる思いで、
 記憶を巡らせる。

「この者たちを呪わしき術から解放せよ」

 どこかで聞き覚えのある声が、
 ルロイの耳元に響く。
 漆黒のローブに同じく、
 漆黒の長い黒髪、
 ロッドの先には輝く薔薇石ローゼスストーンがあった。

「あなたは、アナさん!」

 ネクロマンサーの少女が気弱そうに笑う。

「ルロイさん。あの時のご恩を、
 そのぉ……返しに来ました」

 アナスタシア・ローゼンスタイン。
 かつて薔薇石ローゼスストーンを巡る事件で、
 悪霊にその身を乗っ取られ、
 ルロイに助けられた経緯を持つ、
 死霊使いの少女である。

聖化する炎フィアンマサンティフィカンテ

 直後、薔薇石ローゼスストーンがいやアナの体全体から、
 輝かしい光が煌きその光が球形に
 膨張してゆく。
 光の球は急速に膨張を続け
 商館周辺に蠢く
 植物ゾンビを純白の炎で焼きながら、
 次々に飲み込んで行く。
 光の過ぎ去った後には、
 聖化の炎に焼き尽くされ灰になった
 植物ゾンビの亡き骸が、
 原形を留めずあっけなくそよ風に溶け
 大気の中へ消えてゆく。
 全ては一瞬の悪夢が
 過ぎた後のようであった。

「一瞬でゾンビだけが……」

「消し炭になった?」

「本当にこれで終わったのかよ」

 植物ゾンビが一瞬で殲滅されたことに、
 レッジョの住民たちは
 未だ信じられずに目を見張っている。

「アナさん。確か故郷へ帰られたのでは?」

 ルロイもまた事態を整理できなかったが、
 なんにせよ絶望的な窮地を救ってくれた
 命の恩人にひとまず声を掛ける。

「そ、それが話すと長くなりまして……」

 アナが気後れしたように
 ここに至るまでの経緯を話す。
 アナのネクロマンサーの一族に伝わりし、
 禁忌の秘伝薬「ゾンビパウダー」が、
 何者かに盗まれ、
 それがレッジョの悪徳商会の手に
 渡ったことを突き止めた一族は
 再び故郷で修行中のアナにその奪還、
 ダメならば下手人の始末を命じて、
 送り出したのだった。
 ドルップが悪用していた
 新生なる緑ノーヴォヴェルデこそは、
 ゾンビパウダーを改良してできた
 悪魔の発明品であった。
 
「強くなられましたね。
 本当に……僕のこの一命いや、
 他のみんなもあなたが、
 間に合わなければ
 どうなっていた事か」

「いえ、そんな……」

「ヒャァ!そんな暗い顔すんなぁ
 もう、いっぱしの冒険者だぜぇ」

 なおも謙遜するアナにギャリックが、
 励ましてみせる。

「そうだね、さっきの力……
 大変興味深かったよ。
 それだけの能力があれば、
 キミは死霊使いとして、
 どこであれ立派にやっていけるさ」

「とにかく間に合って良かっただヤァ
 ネェのちゃんの修行の賜物なんだヤァ」

 リーゼやディエゴもアナの
 活躍を高く評価する。

「それなんですが、
 さっきの秘儀を使って力がその……」

 アナはまたしても割れて使い物に
 ならなくなった薔薇石ローゼスストーンを手に拾い、
 この世の終わりのような顔になっている。

「なんだって」

 アナ自身先ほどの技は、
 修行の末ようやく会得した、
 秘術であったらしい。
 ぶっつけ本番で思いもよらぬほどの
 奇跡の大戦果を上げた。
 しかし、その代償もまた思った以上に
 大きかった。
 アナは薔薇石ローゼスストーンを再び失うだけでなく、
 死霊たちを感知する能力を
 失ってしまった。

「皆さんのお役に立てて嬉しいです。
 でも、これってやっぱり
 死霊使いとして詰んで……」

「なっ、泣かないでほら」

 モリーとアシュリーが
 決壊寸前のアナを慰める。

「でも、こんなんじゃ冒険者として
 ここでやって行くのは無理ですし、
 これじゃ故郷へも帰れませんよ」

 なおも悲嘆にくれるアナに、
 ルロイが妙案を思いついたように
 アナの前に歩み出る。

「それなら、
 アナさん自分の力が戻るまで、
 しばらく僕の事務所の事務員
 として働きませんか?」

「ふぇ?」

「僕一人では書類の整理や雑務に追われ、
 最近はティータイムも、
 おちおち楽しめない感じがしましてね。
 今回の貴女は僕の命の恩人です。
 その恩人が居場所がなくて
 困っているならば、
 ささやかながら手を差し伸べますよ」

 ルロイに続きリーゼも深く頷く。

「うん、今回はモリーの独断専行が
 発端とは言え、私の不手際でもある。
 仕事に困っているならウチに来たまえ。
 雑用係がモリーだけじゃ大変だからね。
 なんなら工房に住み込みでもいいさ」

 リーゼの提案にモリーも
 嬉しそうに強く頷く。

「うんうん!そうだよ。
 料理とかお菓子の作り方とか
 色々教えてあげる」

「みっ、みなさん」

 嘆きのアナの
 悲し泣きが嬉し泣きになってゆく。
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