魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

文字の大きさ
42 / 86
第五章 ノーヴォヴェルデ ~無権代理人~

聖化する炎

しおりを挟む
「まだ終わらねぇってのか!」

 双剣を振るうギャリックが舌打ちをする。
 戦闘狂のギャリックの剣の太刀筋に、
 勢いがなくなりつつあった。

「ハァハァ、ダメだ
 もう……限界だよ」

 アシュリーの槍捌きも既に鈍い。
 
「ぜぇぜぇ……一旦引きましょう。
 このままでは全滅です」

 ルロイもまた限界に限界を重ねていた。
 全力疾走して逃げる体力が
 残っているかも正直疑わしい。

「リゼ姉。もう逃げて下さい」

「モリー。馬鹿っ……
 なんでここに来た?」

 リーゼが初めて薄ら笑いを引っ込め、
 狼狽えた顔つきになる。
 騒ぎを聞きつけ我慢できずに、
 工房を飛び出して来たのだろう。
 足手まといになる事を承知で、
 どうしてもリーゼに会いに。
 その横にはディエゴの姿もあった。

「ディエゴ、今まで何を……」

 ディエゴは商会を見張る仕事を
 自ら買って出た事を
 ルロイは思い出す。
 逃げしたわけではないようだが、
 一体今の今までどこを
 駆けずり回っていたのか。

「ゾンビと聞いて、
 コッチも死ぬ気で助っ人を
 探して来たんでヤァ」

 ゼェハァと過呼吸になりつつディエゴが、
 舌を出して肩で息をしている。

「助っ人……この状況を
 打破できる人物なんて」

 ルロイが藁にもすがる思いで、
 記憶を巡らせる。

「この者たちを呪わしき術から解放せよ」

 どこかで聞き覚えのある声が、
 ルロイの耳元に響く。
 漆黒のローブに同じく、
 漆黒の長い黒髪、
 ロッドの先には輝く薔薇石ローゼスストーンがあった。

「あなたは、アナさん!」

 ネクロマンサーの少女が気弱そうに笑う。

「ルロイさん。あの時のご恩を、
 そのぉ……返しに来ました」

 アナスタシア・ローゼンスタイン。
 かつて薔薇石ローゼスストーンを巡る事件で、
 悪霊にその身を乗っ取られ、
 ルロイに助けられた経緯を持つ、
 死霊使いの少女である。

聖化する炎フィアンマサンティフィカンテ

 直後、薔薇石ローゼスストーンがいやアナの体全体から、
 輝かしい光が煌きその光が球形に
 膨張してゆく。
 光の球は急速に膨張を続け
 商館周辺に蠢く
 植物ゾンビを純白の炎で焼きながら、
 次々に飲み込んで行く。
 光の過ぎ去った後には、
 聖化の炎に焼き尽くされ灰になった
 植物ゾンビの亡き骸が、
 原形を留めずあっけなくそよ風に溶け
 大気の中へ消えてゆく。
 全ては一瞬の悪夢が
 過ぎた後のようであった。

「一瞬でゾンビだけが……」

「消し炭になった?」

「本当にこれで終わったのかよ」

 植物ゾンビが一瞬で殲滅されたことに、
 レッジョの住民たちは
 未だ信じられずに目を見張っている。

「アナさん。確か故郷へ帰られたのでは?」

 ルロイもまた事態を整理できなかったが、
 なんにせよ絶望的な窮地を救ってくれた
 命の恩人にひとまず声を掛ける。

「そ、それが話すと長くなりまして……」

 アナが気後れしたように
 ここに至るまでの経緯を話す。
 アナのネクロマンサーの一族に伝わりし、
 禁忌の秘伝薬「ゾンビパウダー」が、
 何者かに盗まれ、
 それがレッジョの悪徳商会の手に
 渡ったことを突き止めた一族は
 再び故郷で修行中のアナにその奪還、
 ダメならば下手人の始末を命じて、
 送り出したのだった。
 ドルップが悪用していた
 新生なる緑ノーヴォヴェルデこそは、
 ゾンビパウダーを改良してできた
 悪魔の発明品であった。
 
「強くなられましたね。
 本当に……僕のこの一命いや、
 他のみんなもあなたが、
 間に合わなければ
 どうなっていた事か」

「いえ、そんな……」

「ヒャァ!そんな暗い顔すんなぁ
 もう、いっぱしの冒険者だぜぇ」

 なおも謙遜するアナにギャリックが、
 励ましてみせる。

「そうだね、さっきの力……
 大変興味深かったよ。
 それだけの能力があれば、
 キミは死霊使いとして、
 どこであれ立派にやっていけるさ」

「とにかく間に合って良かっただヤァ
 ネェのちゃんの修行の賜物なんだヤァ」

 リーゼやディエゴもアナの
 活躍を高く評価する。

「それなんですが、
 さっきの秘儀を使って力がその……」

 アナはまたしても割れて使い物に
 ならなくなった薔薇石ローゼスストーンを手に拾い、
 この世の終わりのような顔になっている。

「なんだって」

 アナ自身先ほどの技は、
 修行の末ようやく会得した、
 秘術であったらしい。
 ぶっつけ本番で思いもよらぬほどの
 奇跡の大戦果を上げた。
 しかし、その代償もまた思った以上に
 大きかった。
 アナは薔薇石ローゼスストーンを再び失うだけでなく、
 死霊たちを感知する能力を
 失ってしまった。

「皆さんのお役に立てて嬉しいです。
 でも、これってやっぱり
 死霊使いとして詰んで……」

「なっ、泣かないでほら」

 モリーとアシュリーが
 決壊寸前のアナを慰める。

「でも、こんなんじゃ冒険者として
 ここでやって行くのは無理ですし、
 これじゃ故郷へも帰れませんよ」

 なおも悲嘆にくれるアナに、
 ルロイが妙案を思いついたように
 アナの前に歩み出る。

「それなら、
 アナさん自分の力が戻るまで、
 しばらく僕の事務所の事務員
 として働きませんか?」

「ふぇ?」

「僕一人では書類の整理や雑務に追われ、
 最近はティータイムも、
 おちおち楽しめない感じがしましてね。
 今回の貴女は僕の命の恩人です。
 その恩人が居場所がなくて
 困っているならば、
 ささやかながら手を差し伸べますよ」

 ルロイに続きリーゼも深く頷く。

「うん、今回はモリーの独断専行が
 発端とは言え、私の不手際でもある。
 仕事に困っているならウチに来たまえ。
 雑用係がモリーだけじゃ大変だからね。
 なんなら工房に住み込みでもいいさ」

 リーゼの提案にモリーも
 嬉しそうに強く頷く。

「うんうん!そうだよ。
 料理とかお菓子の作り方とか
 色々教えてあげる」

「みっ、みなさん」

 嘆きのアナの
 悲し泣きが嬉し泣きになってゆく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...