魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

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第七章 竜使いの問題 ~停止条件~

気配

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「あっ可愛い」
 
 アナが思わず指を差して、
 ときめく。
 樹木型のダンジョンを登って行き、
 まず目についたのは、
 羽の生えた蟹が宙を舞う光景だった。
 フェアリークラブと言う、
 妖精タイプのあまり害のない
 タイプのモンスターであった。
 一行は木漏れ日の指す中を
 歩きつつも警戒は怠らない。

「アタシら以外に冒険者は
 いねぇみたいだな」

 アシュリーが周囲を見回すも、
 自分たち以外に人気はない。

「みたいですねぇ」

 アナはホッとした様子で呟く。

「なんでぇつまらん。
 お宝巡って、一戦交える
 つもりだったのによぉ……」

 ギャリックは気だるそうにぼやく。

「それにしてもここは、
 風光明媚ですね。
 もし僕がダンジョン主だったら、
 ここを観光資源や別荘地として
 活用するのもアリかもしれません」

 木の葉のそよぐ音、
 柔らかく温かな木漏れ日、
 鮮やかな花の数々。
 思わずルロイは心地よい思いに駆られ、
 そんな空想を口にする。

「だったら、誰かがそれを狙う前に
 さっさとアタシらで攻略してやるっ!」

 両の拳をバチっとかち合わせ
 アシュリーが決意を新たにする。
 その隣でアナが落ち着かない様子で、
 キョロキョロと視線を泳がせる。

「どうかしましたかアナ?」

「誰かに見られて
 いるようなぁ……」

 アナの死霊使いとしての力が
 戻り始めると共に、
 死者の念を感じ取る力も敏感に、
 研ぎ澄まされそこらの霊の思念に
 反応したのかもしれない。 

「ヒャァ、どんだけ穏やかそう
 だろうがここはダンジョン。
 何があるか分かんねぇぜ」

 ギャリックがぎらついた眼で、
 辺りを睨み一行に注意を促す。
 
「よしっ、気を引き締めて行くぜ」

 アシュリーが一歩先を踏みしめ、
 パーティのリーダーとして
 一行を先導する。



「あれっ、ま~た迷っちまった」

 それから小一時間ほど、
 ルロイたちは螺旋階段上に絡まった
 巨大な蔓状の植物を通路として登って
 大樹の幹の中間地点まで、
 やってきたのはいいのだが、
 いかんせん蔓の通路は色々な植物が、
 幾重にも絡まりカオス状態なのだった。
 
「おかしいなぁ、ちゃんと
 マッピングしてんのに」

 アシュリーがダンジョン地図を睨み、
 苦々しく呟く。
 何度か同じところを
 グルグル回っている気がする。
 のみならず前に取った場所には
 なかったような行き止まりを見て、
 アシュリーが悩ましく唸る。

「ここにこんな樹皮の
 行き止まりなんてあったか?」

「わかりません。
 ここの霊たちが騒めいている。
 また視線を感じるのは、
 やっぱりここの霊たち……?」

 ロッドを掲げアナが呟く。
 その横では、
 ギャリックが嘴が異様にとがった
 鳥型のモンスターを数体、
 剣ではたき斬り苛立つ。

「シャァ、同じ風景ばっかで分かんね」

 ルロイも幹を伝い襲って来た
 リス型のモンスターを斬り捨て、
 複雑な地形の周囲を警戒する。
 
「確かにこの空間は感覚が酔いますね」

 襲ってくるモンスターの危険度は増し、
 眼下にはレッジョの街が一望できる。
 ダンジョンの中層くらいまでは
 登りつめたはずだ。

「ひゃ……また」

「ど~したアナ、大丈夫か?」

 アシュリーが頭をボリボリかきつつ、
 アナに振り返る。 

「もしかして、私たち付けられてる?
 それに今度はもっと大きい……」

 アナが目をつむりロッドに
 意識を集中する。
 先ほどの違和感よりも、
 更に決定的な何かがごっそり動き出した
 かのような何かを感じ取ったようだ。

「このダンジョンに死霊使いが感応できる。
 死霊系のモンスターが潜んでいたとか?」

 ルロイが自信なさげにアナに問う。

「う~ん、死霊と言えばそうですけど、
 ここで枯死した無数の植物の霊が
 慌ただしく動いている感じです。
 でも……怨霊のような悪意は
 感じられません。
 ただ動きが自然じゃないような」

「ダンジョン自体が変化しているのか、
 それとも高等な精霊魔法を操る
 モンスターいや術者?」

「分かりません。
 霊を使う媒体が途中で途切れて」

 ルロイの上げた仮説に、
 アナは首を横に振る。
 疑問は残るまま、
 一行は先を急ぐ。



 高層階の林冠まで来る一行。
 登り歩くに従って、
 枝葉の数もまばらになってゆく。
 差し込む光も木漏れ日と言うよりも、
 直射日光に近くなりルロイは思わず、
 眩しさに一瞬顔をしかめる。

「少し開けたところに出ましたが、
 ここからは一本道のようですね」

 高度が高くなり、
 冷えた大気が肺を満たし、
 同時に遮るもののない、
 強い日差しが肌を刺す。

「ヒャーそろそろ
 頂上が見えそうだぜ」

 ギャリックが手をかざしながら、
 朽木の園の頂を仰ぎ見る。

「ん、こっちは」

 アナが訝し気に明後日の方角の、
 虚空を見上げる。

「っと、アブねぇぜそっちは断崖だ」

 アシュリーがアナの肩をつかみ、
 引き止める。

「でも……一瞬あっちに
 何かが霞んで見えたような」

 アナが断崖の先にある上空を
 なおも指し示す。
 アシュリーが手をかがして、
 目を細めるもそこには、
 雲一つない快晴の青空が
 広がるのみだった。

「う~ん……何も見えねぇけど」

「勘違いでしたかごめんなさい」

 アナがぺこりと頭を下げる。

「いーよいーよ。
 こう枝たら葉やら多くっちゃ、
 見間違いも起きるだろ」
 
「クヒャーとっと行こうぜ」

 ギャリックに急かされ、
 一行は更にダンジョン上部の
 林冠部分を進んで行く。

「あっ、先ほどからの違和感が消えました」

 しばらく落ち着かない様子であったアナだが、
 少し安心した風に顔を上げた。

「植物の霊の気配ですか」

「はい不自然にとどめていたエネルギーが、
 元の場所に戻って行くような」

 アシュリーはそれよりも、
 眼前迫った天泣グリードチェレステ
 血眼になって探している。
 
「おっし、遂にお目当てのお宝お宝~」

「それらしきものは……
 どこにもありませんね」

「別の場所じゃねぇのか?」

「いや、確かにグラモフさんは
 てっぺんのと言っていました。となると」

 ルロイはグラモフへの疑念がよぎる。
 もともと天泣グリードチェレステなどないと
 分かっていてアシュリーに、
 履行不能な条件を吹っ掛けた。
 つまり初めからダンジョンを
 明け渡すすつもりなどなく、
 おちょくられたのではないか。
 だとしたらそもそも法律行為としては、
 初めから無効である。

「もういっぺん見落としがねぇか探すぜ」

「わ、分かった」

 ルロイの推測を尻目に、
 アシュリーとアナはそんなはずないと、
 行き止まりの林冠の枝葉の隅々まで、
 顔を近づけて小さな昆虫でも、
 探すように血眼になっている。
 ギャリックはと言うと、
 何故か所在なさげに遠くを眺めている。

「おい、ロイも考え込んでないで、
 リックのおっさんもサボんなよ」

 アシュリーが苛立ちからか
 ただ突っ立っている二人を急かす。

「ヒヒャ、つかよぉさっきまで
 あんなのあったか?」

 ギャリックが指さすと、
 ルロイたちがたどり着いた。
 場所よりもさらに
 高い場所に延びている太い枝があった。
 
「えっ、そんなここが
 てっぺんじゃなかった」

 アシュリーが呆然と身を見開く。
 ギャリックが指さす方角はちょうど、
 林冠の開けた部分でアナが違和感から
 指を差した方角と一緒だった。

「もしや、一度戻りましょう!」

 ルロイは何かの罠に気付き、
 もと来た道へ急いで引き返す。
 ちょうどアナが不自然さを感じ取った
 開けた場所でまで戻る。

「あれっ?」

 アナが素っ頓狂な声を上げる。

「こっちに更に上に続く道が」

 ルロイも信じがたいと目を見張る。
 断崖になっていた場所に、
 あるはずのない道が続いており、
 先ほどルロイたちがてっぺんと誤認した、
 頂きの隣により高い樹の頂が続いていた。
 一行が先ほどいた頂きから
 確認した場所で間違いなかった。
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