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1 出会い
⑴
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⑴ このアパートは風が吹けば揺れるくらいには古い。大学生になったことをきっかけに一人暮らしをしたはいいものの、そんなに高い家賃は払えなかった。敷金礼金なし、月額5万円。それが第一の条件だった。
ようやく大学から電車で30分のところに目当ての物件が見つかった。三階建ての6畳一間、それが彼の寝床になった。物は少ない。テレビも、本棚もなく、大学で使うような教科書は床に平積みにしてある。部屋の中央には足の低いテーブルと座椅子が1つ。
佐倉薫はそのテーブルにノートパソコンを置いて、右手の指にマルボロを挟んで、画面を睨んでいる。明日までに終わらせなければならないレポートがある。大学3年の夏、レポートを提出しないことで単位を落とそうものなら就職にも響いてくる。
煙を吸い込んで、忌々しそうに書きかけの文章に向かってそれを吐き出した。どうにも進まない。誰かに見せてもらおうにも、友人も右に同じだった。こうなるともはや書いた者勝ちだ。根元まで灰となったたばこをもみ消して、もう一本咥えようと箱の中に指を入れる。が、その中はもはや空になっている。灰皿だけがくしゃくしゃになった吸い殻がたまっているだけだ。
(しょうがない、買いに行くか)
ため息とともに立ち上がって、冷蔵庫を見る。エナジードリンクも切れている。ちょうどいいタイミングなのかもしれない。
家を出ると、歩いて3分の所にあるコンビニでたばこと、カップ麺、そしてエナジードリンクを買った。スマホを見ると、もう深夜1時を回ったところだ。早く書いてしまわないと朝になってしまう。
薫は足を速めて、裏道を歩く。あくびをかみ殺して、背伸びをした。髪もそろそろ染め直さないといけない。バイト代が入ってくるまで、なんとか財布の中だけで頑張らないといけない。
――そう思った時、街灯の明かりが、何かを照らした。
はじめは野良猫が何かが寝転がっているのかと思った。次はごみが落とされているのだと思った。
それが倒れている少年であったことに気づいたのは、足元まで来た時だった。
「おい! 大丈夫か?」
膝をついて、うつぶせになっている彼の肩を叩く。それでも反応がなく、体を転がしてあおむけにする。少女のような幼い顔立ちをしていた。暗がりで見えにくいが、髪はブラウンで、大き目な黒いシャツを着ている。年齢はわからない。小学生のようにも、大学生のようにも感じる。胸が上下に動いている。呼吸があるようで、微かにうめき声が上がる。
「ちょっと待ってろ、救急車を――」
そう少年に言ったとき、彼は首を横に振って、薫がスマホを持った腕を握る。その力は弱弱しい。
「大丈夫です……。救急車は、呼ばないでください」
「意識あったのか。どうしたんだ?」
かろうじて絞り出したような声で、彼は薫を止める。それでも電話をかけようとする薫を止めようと、手を地面につけて、上体を起こす。
「体調が悪いなら寝てろ。心配しなくていいから」
「いえ、そうじゃなくて……」
罰の悪そうな顔で、うつむいて、わずかに笑った。
「なにも、食べていないんです……」
「は?」
思わず聞き返す。恥ずかしいのか、頭を掻いて、地面に座りなおす。
「いわゆる、行倒れってやつで。恥ずかしいんですけど」
ため息をつく。こんな時代に、そんな奴がいるのか。左手に握られていたコンビニ袋には、夜食用に買ったカップ麺があった。
ようやく大学から電車で30分のところに目当ての物件が見つかった。三階建ての6畳一間、それが彼の寝床になった。物は少ない。テレビも、本棚もなく、大学で使うような教科書は床に平積みにしてある。部屋の中央には足の低いテーブルと座椅子が1つ。
佐倉薫はそのテーブルにノートパソコンを置いて、右手の指にマルボロを挟んで、画面を睨んでいる。明日までに終わらせなければならないレポートがある。大学3年の夏、レポートを提出しないことで単位を落とそうものなら就職にも響いてくる。
煙を吸い込んで、忌々しそうに書きかけの文章に向かってそれを吐き出した。どうにも進まない。誰かに見せてもらおうにも、友人も右に同じだった。こうなるともはや書いた者勝ちだ。根元まで灰となったたばこをもみ消して、もう一本咥えようと箱の中に指を入れる。が、その中はもはや空になっている。灰皿だけがくしゃくしゃになった吸い殻がたまっているだけだ。
(しょうがない、買いに行くか)
ため息とともに立ち上がって、冷蔵庫を見る。エナジードリンクも切れている。ちょうどいいタイミングなのかもしれない。
家を出ると、歩いて3分の所にあるコンビニでたばこと、カップ麺、そしてエナジードリンクを買った。スマホを見ると、もう深夜1時を回ったところだ。早く書いてしまわないと朝になってしまう。
薫は足を速めて、裏道を歩く。あくびをかみ殺して、背伸びをした。髪もそろそろ染め直さないといけない。バイト代が入ってくるまで、なんとか財布の中だけで頑張らないといけない。
――そう思った時、街灯の明かりが、何かを照らした。
はじめは野良猫が何かが寝転がっているのかと思った。次はごみが落とされているのだと思った。
それが倒れている少年であったことに気づいたのは、足元まで来た時だった。
「おい! 大丈夫か?」
膝をついて、うつぶせになっている彼の肩を叩く。それでも反応がなく、体を転がしてあおむけにする。少女のような幼い顔立ちをしていた。暗がりで見えにくいが、髪はブラウンで、大き目な黒いシャツを着ている。年齢はわからない。小学生のようにも、大学生のようにも感じる。胸が上下に動いている。呼吸があるようで、微かにうめき声が上がる。
「ちょっと待ってろ、救急車を――」
そう少年に言ったとき、彼は首を横に振って、薫がスマホを持った腕を握る。その力は弱弱しい。
「大丈夫です……。救急車は、呼ばないでください」
「意識あったのか。どうしたんだ?」
かろうじて絞り出したような声で、彼は薫を止める。それでも電話をかけようとする薫を止めようと、手を地面につけて、上体を起こす。
「体調が悪いなら寝てろ。心配しなくていいから」
「いえ、そうじゃなくて……」
罰の悪そうな顔で、うつむいて、わずかに笑った。
「なにも、食べていないんです……」
「は?」
思わず聞き返す。恥ずかしいのか、頭を掻いて、地面に座りなおす。
「いわゆる、行倒れってやつで。恥ずかしいんですけど」
ため息をつく。こんな時代に、そんな奴がいるのか。左手に握られていたコンビニ袋には、夜食用に買ったカップ麺があった。
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