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怜思篇
綻びのはじまり
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「ずっと寝てたろ、ユウ」
「しーちゃんもずっとあくびしてたじゃん」
「寝てるお前よりマシだろ!なんで俺ばっか……」
「しーちゃんの背中大きいから隠れるのにちょうどいいんだよ」
「マジ納得いかねェ」
再び迎えた放課後。教室の窓から吹く春風に誘われて、二人とも一日中舟を漕いでいた。体格のいい怜思だけが先生に見つかり、真後ろの雄星はちゃっかり爆睡――いつもの光景だった。
「しかも俺が叱られた直後に目を覚ますからユウは怒られないし」
「まぁまぁ、今日は眠たい日だったってことで」
「どんな日だよ。あーもう、早く帰ろうぜ」
雄星が不機嫌な怜思をなだめながら二人で教室を後にした。雄星が体育委員会の活動がない限り、二人一緒に下校するのがお決まりだった。
「やっと金曜日か~。今週も長く感じたね」
「ん。……マジで怠かった。そういえばユウ、今日バイトは?」
「今日と明日は休みだよ」
「ふーん……」
下駄箱から靴を取り出し、雄星のスニーカーの横に怜思のヒールが並ぶ。その様子を下級生たちが好奇の目で見ていた。
「見世物じゃねェけど」
あまりにもジロジロと見つめられるものだから、怜思が呆れながら呟くと周囲が気まずそうに散っていく中、一人の少女が怜思に声をかけた。
「戸塚先輩、今日は赤ヒールだ!今日も素敵ですね!」
「ん?あぁ、お前か……デカい声で口説くなよ変な目で見られるだろ」
突然現れた派手な見た目の少女は、人懐っこい笑みを浮かべたまま臆することなく怜思に手を振った。怜思も仕方なく小さく手を振り返す。
「今日は?バイトじゃないんですか?」
「今週のシフトはなし。来週から」
「そっかー……ちょっと残念」
「俺の代わりに窓際のコーヒーの木、水やりしとけよ。ちょっとでいいからな。マスターすぐ忘れっから」
「はーい。あ、今度アタシにコーヒー淹れてくださいね!砂糖とミルクマシマシで!」
「コンビニのコーヒー牛乳で我慢してろ」
嵐のような少女が去っていくと、怜思はどっとため息をついてヒールを履いた。雄星にとって、今のような光景は特段珍しいことでもなかった。
「相変わらず人気者だね、しーちゃん」
「何、嫉妬でもしてンの」
雄星を肘で小突きながら、怜思が意地悪く笑う。
「してないよ。……ちなみに、あの子は?」
「気にしてンじゃん!バイト先の店長の姪っ子。何か懐かれたンだよ」
「しーちゃん派手な女の子にモテるから……」
怜思の異常な人気は彼の姉たちに起因している。
「姉貴たちが悪ィんだよな。昔から過保護すぎ」
「だって、はな姉ちゃん元レディースの総長なんでしょ?」
「やめろ、それ言うな。後輩の女どもがまだファンやってンだから」
「なな姉ちゃんがいた手芸部は、まだ衣装作ってくるの?」
「まぁ……な。ななちゃんが俺のこと引っ張りまわしてたから、部員の奴らも優しいとか言ってくンだよ」
雄星は笑った。怜思の人気は、血縁と悪ノリの賜物でもあった。
玄関を出て、外周をしている運動部のクラスメイトに声をかけながら、二人は少し離れたコンビニへ立ち寄った。
「今日、オレんち泊まる?」
新発売のお菓子を手に取り、ぼんやりと眺めていると、ふいに怜思の視線を感じた雄星は声をかけた。
「いいの」
「だって、泊まりたいなぁって顔してるじゃん」
「……まぁ」
滅多に甘えない怜思だが、雄星の家に遊びに行きたい時はそれとなく都合を確認することが多かった。決して、遊びに行っていい?とは言わないが、雄星が尋ねるたびに怜思が少し嬉しそうな顔をするものだから、雄星もその顔見たさに毎度声をかけていた。
「じゃあ、色々お菓子買っていこうよ。しーちゃん、好きなものカゴに入れて。お金はあとでいいから」
「おっけー」
飲み物数本と、普段買わないようなお菓子を次々にカゴへ入れていく。会計の金額に雄星は目を丸くしたが、空になりそうな財布と大きな袋を持って店を後にした。
「貸して」
「ありがと、しーちゃん」
せめて荷物持ちでも、と怜思が買い物袋を持ち、駐車場から出る時だった。
「あの、ちょっと、キミ……」
駐車場の端、大きなワゴン車の陰から、ワゴン車の陰から、帽子を目深にかぶった男が現れ、マスク越しに声をかけてきた。いかにも怪しそうな見た目に雄星が後ずさると、彼を庇うように怜思が前に出た。
「何すか」
身長180超の威圧感に男が怯む。そのまま立ち去るのかと思いきや、男は狼狽えながらポケットを漁り始め、怜思は警戒しながら買い物袋を雄星に持たせた。何が起きても良いように、怜思は自身の胴の前に鞄を構える。
「ひ、人違いだったら、悪いんだけどね。こ、これを見てほしくて……」
「ンだよ、宗教勧誘ならお断りだからな」
取り出されたスマホに、凶器でも取り出すのかと身構えていた怜思は大きなため息を吐く。
男は指を素早く動かし、とある画面に遷移させるとこちらへ見せつけてきた。
「も、もしかしてだけどさぁ……」
画面の上下に、ゲームの広告が映る中、中央で動画が再生されていた。真っ暗な画面が映し出されたまま、ただガサゴソと物音だけがスピーカーから流れる。
「何も映ってねえだろうが──」
――次の瞬間、画面が揺れた。
灰色の壁。茂み。乱れた呼吸。
脱ぎ捨てられた制服。白い肌。
前髪を掴まれ、顔が持ち上がる。
長い睫毛の奥で、翡翠色の瞳が揺れた。左目下、三つの黒子。
不快な水音。
「……これ、キミだよね?」
ヒールが一度だけ、乾いた音を鳴らした。
「しーちゃんもずっとあくびしてたじゃん」
「寝てるお前よりマシだろ!なんで俺ばっか……」
「しーちゃんの背中大きいから隠れるのにちょうどいいんだよ」
「マジ納得いかねェ」
再び迎えた放課後。教室の窓から吹く春風に誘われて、二人とも一日中舟を漕いでいた。体格のいい怜思だけが先生に見つかり、真後ろの雄星はちゃっかり爆睡――いつもの光景だった。
「しかも俺が叱られた直後に目を覚ますからユウは怒られないし」
「まぁまぁ、今日は眠たい日だったってことで」
「どんな日だよ。あーもう、早く帰ろうぜ」
雄星が不機嫌な怜思をなだめながら二人で教室を後にした。雄星が体育委員会の活動がない限り、二人一緒に下校するのがお決まりだった。
「やっと金曜日か~。今週も長く感じたね」
「ん。……マジで怠かった。そういえばユウ、今日バイトは?」
「今日と明日は休みだよ」
「ふーん……」
下駄箱から靴を取り出し、雄星のスニーカーの横に怜思のヒールが並ぶ。その様子を下級生たちが好奇の目で見ていた。
「見世物じゃねェけど」
あまりにもジロジロと見つめられるものだから、怜思が呆れながら呟くと周囲が気まずそうに散っていく中、一人の少女が怜思に声をかけた。
「戸塚先輩、今日は赤ヒールだ!今日も素敵ですね!」
「ん?あぁ、お前か……デカい声で口説くなよ変な目で見られるだろ」
突然現れた派手な見た目の少女は、人懐っこい笑みを浮かべたまま臆することなく怜思に手を振った。怜思も仕方なく小さく手を振り返す。
「今日は?バイトじゃないんですか?」
「今週のシフトはなし。来週から」
「そっかー……ちょっと残念」
「俺の代わりに窓際のコーヒーの木、水やりしとけよ。ちょっとでいいからな。マスターすぐ忘れっから」
「はーい。あ、今度アタシにコーヒー淹れてくださいね!砂糖とミルクマシマシで!」
「コンビニのコーヒー牛乳で我慢してろ」
嵐のような少女が去っていくと、怜思はどっとため息をついてヒールを履いた。雄星にとって、今のような光景は特段珍しいことでもなかった。
「相変わらず人気者だね、しーちゃん」
「何、嫉妬でもしてンの」
雄星を肘で小突きながら、怜思が意地悪く笑う。
「してないよ。……ちなみに、あの子は?」
「気にしてンじゃん!バイト先の店長の姪っ子。何か懐かれたンだよ」
「しーちゃん派手な女の子にモテるから……」
怜思の異常な人気は彼の姉たちに起因している。
「姉貴たちが悪ィんだよな。昔から過保護すぎ」
「だって、はな姉ちゃん元レディースの総長なんでしょ?」
「やめろ、それ言うな。後輩の女どもがまだファンやってンだから」
「なな姉ちゃんがいた手芸部は、まだ衣装作ってくるの?」
「まぁ……な。ななちゃんが俺のこと引っ張りまわしてたから、部員の奴らも優しいとか言ってくンだよ」
雄星は笑った。怜思の人気は、血縁と悪ノリの賜物でもあった。
玄関を出て、外周をしている運動部のクラスメイトに声をかけながら、二人は少し離れたコンビニへ立ち寄った。
「今日、オレんち泊まる?」
新発売のお菓子を手に取り、ぼんやりと眺めていると、ふいに怜思の視線を感じた雄星は声をかけた。
「いいの」
「だって、泊まりたいなぁって顔してるじゃん」
「……まぁ」
滅多に甘えない怜思だが、雄星の家に遊びに行きたい時はそれとなく都合を確認することが多かった。決して、遊びに行っていい?とは言わないが、雄星が尋ねるたびに怜思が少し嬉しそうな顔をするものだから、雄星もその顔見たさに毎度声をかけていた。
「じゃあ、色々お菓子買っていこうよ。しーちゃん、好きなものカゴに入れて。お金はあとでいいから」
「おっけー」
飲み物数本と、普段買わないようなお菓子を次々にカゴへ入れていく。会計の金額に雄星は目を丸くしたが、空になりそうな財布と大きな袋を持って店を後にした。
「貸して」
「ありがと、しーちゃん」
せめて荷物持ちでも、と怜思が買い物袋を持ち、駐車場から出る時だった。
「あの、ちょっと、キミ……」
駐車場の端、大きなワゴン車の陰から、ワゴン車の陰から、帽子を目深にかぶった男が現れ、マスク越しに声をかけてきた。いかにも怪しそうな見た目に雄星が後ずさると、彼を庇うように怜思が前に出た。
「何すか」
身長180超の威圧感に男が怯む。そのまま立ち去るのかと思いきや、男は狼狽えながらポケットを漁り始め、怜思は警戒しながら買い物袋を雄星に持たせた。何が起きても良いように、怜思は自身の胴の前に鞄を構える。
「ひ、人違いだったら、悪いんだけどね。こ、これを見てほしくて……」
「ンだよ、宗教勧誘ならお断りだからな」
取り出されたスマホに、凶器でも取り出すのかと身構えていた怜思は大きなため息を吐く。
男は指を素早く動かし、とある画面に遷移させるとこちらへ見せつけてきた。
「も、もしかしてだけどさぁ……」
画面の上下に、ゲームの広告が映る中、中央で動画が再生されていた。真っ暗な画面が映し出されたまま、ただガサゴソと物音だけがスピーカーから流れる。
「何も映ってねえだろうが──」
――次の瞬間、画面が揺れた。
灰色の壁。茂み。乱れた呼吸。
脱ぎ捨てられた制服。白い肌。
前髪を掴まれ、顔が持ち上がる。
長い睫毛の奥で、翡翠色の瞳が揺れた。左目下、三つの黒子。
不快な水音。
「……これ、キミだよね?」
ヒールが一度だけ、乾いた音を鳴らした。
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