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Zessy

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怜思篇

火の手

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 絆侍の眉間の皺が一気に深くなった。

「そんなもの警察に任せておけばいいだろうが」
「あの悪名高い怜思の話を警察が聞くと思うか?」

 一年前の怜思は喧嘩に明け暮れ、周辺の学校の不良たちをすべて返り討ちにしていた。病院送りにはしていないが、近隣住民から通報され警察が駆けつけた事態は数知れない。ただし怜思は襲われた側だ。

「一時期お世話になってたからね……厳しいかも」
「借りを作っておくのも面白いだろ? しばらく使えるぜ」
「むしろそれが目的だろうが。まぁ……でも」

 絆侍と直史の脳裏に怜思との出来事が浮かぶ。家族の目があり優等生として過ごしたい絆侍、部活の活躍で推薦を狙っている直史。それにも関わらず、怜思と一緒にいたというだけで数多の争いごとに巻き込まれ続けていた。幼馴染だから、という理由だけで片付かない文句が山のようにある。

「アリだな」
「そうだね、彼にお灸を据えられるのなら安いかな」
「よし、決まりだな」

 火の無いところに煙は立たない。数年前から非行に走っていた怜思だからこそ巻き込まれた可能性が高い。雄星を除く三人に怜思を同情する気など微塵もなかった。ただ彼に細やかな嫌がらせをしたい。これから始まるのは悪ガキたちの作戦会議だ。
 雄星から提供された情報で、怜思がいる場所は絞られていた。雄星が目撃したあの場所だ。

「駐車場付きの公園だな。新設されたトイレがある運動場方面は人が多いが、古いトイレがある茂みはまず人が立ち入らない。数年前事件も起きている上に、そういう場所として有名だからな。近所の人間は昼間だろうとまず近づかないだろう」

 雄星は不審者注意の張り紙が異様に貼ってあったことを思い出した。確かに、下校時間だったが人の気配がない場所だ。

「それで、どうするの? 作戦は?」
「俺たちはあくまで偶然通りかかった体で行くぞ。午前中の講習終わりに、隣町の図書館で勉強したその帰りだ。公園の横を通ったら目撃した。いいな」

 シナリオを組み立てていく扇に、直史はもはや笑っていた。

「わー、流石扇君慣れてるね」
「動線的にも違和感がないのが腹立つな」

 幼馴染組の野次を放置して扇は淡々と話を進めていく。雄星はこんなことになると思っておらず、混乱する頭で必死に話を整理していた。もう打ち明けてしまった以上、後戻りはできない。

 まず最初に駐車場でワゴン車の有無を確認する。車があった場合は車内を確認し、人がいた場合は絆侍と直史がおびき出して確保する。怜思を救出する際に応援を呼ばれると面倒だからだ。
 一方、雄星と扇は怜思の救出に向かう。証拠用に扇は録画を行い、その後確保へ向かう。万が一、相手が凶器を持ち出した場合は扇が応戦し、それはワゴン側で起きた場合も同様に対処する。この場で一番喧嘩慣れしているのが扇のため、任せるのが安全だ。犯人が走って逃走した場合は、雄星が追跡を担当する。作戦開始前に警察へ通報を行い、サイレンが現場に近づく前に制圧できれば上出来――といった具合だ。

「そんな簡単に上手くいくかよ」

 かなり力任せな作戦に絆侍が悪態をつく。未成年相手に暴力を振るう大人がまともなはずがない。こちらが負傷する可能性だって大いにあり得ることだ。

「最悪、犯人の顔を捉えて怜思を保護できればいい。一年以上犯行が続いているのなら、他の証拠は必ず怜思が持っているはずだ」

 あいつが反撃の機会を逃すはずがない――と扇は付け加えると、伝票を手に取って立ち上がった。

「よし、行くぞ。無駄足にならないことを祈ろうぜ」



 その日の朝、怜思は久しぶりに深い眠りから目を覚ました。口を開けて間抜けな表情を晒したまま眠っている恋人が愛おしくて、起こさぬよう静かに額に唇を落とした。

「……しー、ちゃ……」

 雄星は寝言で名前を嬉しそうに呼びながら、寝返りを打つとタオルケットを抱きかかえて再び寝息を立て始めた。ようやく、自分が待ち望んでいた相手に体を暴かれた。抱えている問題は一つも解決していないが、怜思の胸の中は多幸感で満たされていた。想像していた何倍も激しく求められたが、自分に焦がれてくれたことが堪らない。互いに溶け合って境界すらなくなってしまいそうなほどだった。吐きそうなほどの愛情を注がれ、その中で溺れているのが心地よかった。
 柄にもなく怜思はとても浮かれていた。やっと、長年探し求めていた愛情の形を見つけられた。どこかへ飛んで行ってしまいそうな自分の心をきっと雄星は檻にでも入れて捕らえてくれる。自分を諦めず執着してくれる。歪み切ったパズルのピースが唯一嵌る相手だ。何もかも忘れて、目の前の小さな背中に縋りつきたかった。

「今日講習あるのすっかり忘れてたな……」

 互いに休みの今日は一日中布団で共に過ごしたかったが、受験生だ。姉たちも自分の進学を応援してくれているのだから、期待に応えねばならない。講習終わりにまた会いに来れば良いと思い、仕方なく怜思は身支度を始めた。爆睡の雄星を起こすのも忍びないため、学校に着いたらメッセージでも送っておこう、と玄関を閉めるとポストに鍵を入れた。
 怜思は本当に浮かれていた。こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか。腰の痛みさえ愛おしかった。緩んだ顔で学校に行ったら恰好つかねぇな、なんて思いながら通学路を歩く。土曜日の午前は人通りが少なかった。外を一人で歩く時は、いつも気を張っていたが、この時は背後から近づくエンジン音にすら注意を払っていなかった。
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