Don't you see!!

Zessy

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学校祭篇

取り戻した日常

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 松葉杖姿のしーちゃんが教室へ足を踏み入れると、ざわついていた教室が一瞬で静まりかえった。それもそのはずで、あの喧嘩は負け知らずの戸塚怜思が骨折するなんて誰も思わない。オレは仕方ないなぁと思いながらも、いつもと変わらないテンションでしーちゃんを席まで誘導した。

「しーちゃん、大丈夫?疲れてない?」
「そんなヤワな鍛え方してねぇよ、そっちこそ付き合わせて悪ぃ」

 登校中のしーちゃんはとにかくすごかった。歩く速度はオレとほぼ同じ。息もほとんど切らせないまま、学校に到着したと思えば、階段を簡単に上ってしまった。傷を抱えているはずなのに、歩くたびにしーちゃんは前より強く見えた。
 ……オレの手伝いなくても、良かった?と少し思ってしまう。

「荷物持ってくれてすげぇ助かった。しばらく頼んでもいい?」

 そうして、オレの心の中を見透かす。しーちゃんの魅力はきっと、人が欲しい言葉を的確に言えることだろうな。オレがわかりやすいのもあるけれど。

「うん!任せてよ!」

 次第にクラスメイトがしーちゃんに話しかけ始めた。しーちゃんはすごく目立つ。入院が学年内でも大きな話題になっていた。廊下からこちらを覗いている他クラスの生徒もいる。

「あぁ、心配してくれてありがと。俺は大丈夫。まぁ、ちょっと動けねぇけどさ」

 事件以降、しーちゃんは優しくなった。少し語弊がある。しーちゃんは、優しい。でも、身内だけだった。今はクラスメイトに対しても、棘が無くなったように見える。みんな驚きながらも、普通に話せたことが嬉しかったみたいだ。オレも、クラスのみんながしーちゃんを受け入れてくれて嬉しい。
 次第にしーちゃんの机を囲むように人が集まると、一人が声をあげた。

「そろそろ戻れよ、先生来るぞ」

 ゴミを見るような目でしーちゃんを睨むその視線に、周囲の生徒は蜘蛛の子を散らすように去っていった。このクラスにいて、二人の揉め事に巻き込まれたい人はいない。

「すっかり元気になったようで、何より」
「何だ?心配してくれてたのか?お優しいことで」
「しーちゃん、しーちゃん‼」

 いけないと思い、すかさずしーちゃんの肩を叩く。

「何、ユウ」

 前言撤回。幼馴染の絆侍に対しては、棘だらけだ。

「しーちゃんが休んでいた間の板書、全部絆侍がとってくれてたから……その」
「はぁ⁉よりによって、コイツ⁉」

 見たことが無いほど表情を歪めるしーちゃん。一方、隣の席に座る絆侍は、涼しい顔をしている。今回の件は、しーちゃんに貸しを作ることが条件だった。事件が解決した後も、全員余念がない。

「だって、しーちゃんと同じ授業選択してるの絆侍君だけだから……オレ、数学以外わかんないし」
「何でコイツなんだよユウ……最悪だ……」
「一階で売ってるパックジュースな。お前の金で。毎日」
「……いつまでだよ」
「仕方ないから、今月いっぱいで手を打ってやる」
「ちっ……」

 担任が教室を訪れると、機嫌の悪いしーちゃんを見て、すぐに絆侍と喧嘩したことを察していた。オレが取り戻したかった、日常だ。

*

「自分から言ってくるのは珍しいよね。僕はどこかの誰かみたいに要求したりしないよ?」

 午前中の怒涛の授業が終わり、訪れた昼休み。しーちゃんは、教室の一番後ろに座っている直史の席へ足を運んでいた。どこかの誰かみたいに、の部分は聞こえるようにわざと大きな声で話していた。

「だって。巻き込んじまったからさ」
「そうだね。昔から、悪い事したり一人で抱え込むのは悪いところだよね」
「うっ……」

 直史は、穏やかな口調で淡々としーちゃんに対して説教を始めた。絆侍と直史の二人は小学校からの幼馴染だ。オレと違って、昔のしーちゃんのことを知っている。オレはそれがちょっと羨ましくて悔しい。

「それに、あんまり雄星君を困らせたらダメだよ」
「はい……」
「もう知ってると思うけど、今回の件、雄星君が助けてくれなかったら……わかってるよね?」
「すみませんでした……」

 しーちゃんが小さく見えた。直史が怒るところは一度も見たことないが、どうやら本当に怒っているらしい。

「僕と絆侍はさ、付き合いこそ怜思君と長いけど、僕達は部活で一緒にいないことが多くて。だから、二人が仲良くしてるのは僕も嬉しいんだ。怜思は一人でどっか行っちゃうからさ」

 直史に小突かれて、気まずそうに視線を落とすしーちゃん。直史がオレとしーちゃんの関係を話してくれたのは初めてで、オレも面食らってしまった。

「ありがとう、雄星君。怜思君のことを大切にしてくれて」
「わっ……何か、恥ずかしいな」

 直史に背中を叩かれて顔に熱が集まっていく。その様子をしーちゃんも、はにかみながら見ていた。
 しかし、そんな空気も一瞬で壊されてしまう。

「全く、呑気だな。死んでもおかしくなかったのに」

 扉の向こうに立っていたのは、生徒会の扇だった。事件の夜、俺たちの動きを裏でまとめてくれた張本人だ。
 その体躯は、教室のドアをくぐると壁のようにオレたちの前にそびえた。怯んだオレをつまらなさそうに見下ろすと、その視線はしーちゃんに向けられていた。

「お陰様で」
「露骨だな。これでも心配して来たんだぜ?」
「心配?いつからそんなに優しくなったよ」
「元からお優しいぜ?何もわかってない、そこの子ウサギの尻を叩いてやるくらいにはな」
「……」

 しーちゃんと扇は、複雑な関係だ。去年まではイケない関係を続けていたから、しーちゃんを殴り飛ばしてやめさせたこともあった。しーちゃんは扇君のことが苦手で、扇はしーちゃんを気に入ってるらしい。ちなみにオレは怖いから大嫌いだ。
 あの時は、手段を選んでいられなかったし、扇に頼むのが一番早かった。でも、きっとしーちゃんは嫌だろうな……と思っていた。案の定、頭を抱えている。

「お前は、何」

 しーちゃんの喉から苦しそうな声が漏れる。見返りを求められないはずがない。それはオレも同じ考えだ。

「オイオイ、まだ何も言ってないだろ。だが、そうだなぁ……その身体じゃ、楽しめないから……あ?」

 気づけば、扇の学ランを強く掴んでいた。恐怖よりも先に、しーちゃんを守らなきゃという衝動が動いた。

「そういうのはやめてって、前にも言ったよオレ」
「冗談だろ、真に受けるなよ。そんな人を殺しそうな目を向けるなって、怖いぞ」

 扇は服に着いた埃を払うようにオレの手を振り払った。手がぶつかって大きな音が鳴ったが、誤る素振りも見せなかった。

「別に何も求めちゃいないさ。生憎、生徒会の仕事が忙しくてな。お前らを構う時間もない。ここに立ち寄ったのも、申込用紙を渡しに来ただけだ」

 扇は直史に紙を手渡すと、しーちゃんはそこに書かれている内容に目を丸くした。

「はぁ⁉メイド喫茶やンの⁉しかも、女装って……」

 聞いてないぞ、としーちゃんが睨むがクラスメイトから口止めをされていたため、オレは目を逸らした。扇はニヤニヤ笑うと、その広い背中を向けて教室の外へ歩いて行った。

「……上等だ、最高に綺麗な俺を見せてやンよ」

 しーちゃんは、手の骨をバキバキと鳴らすと、悪い笑みを浮かべたのだった。
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