勇者だって魔王だってホームに入るモン

第一章 勇者も魔王も老人ホーム

No.5

奥様「あら、おかえりなさい。」
ヴァルグリム「もどった。」
シアン「戻りました奥様。ヴァルグリムさん施設内一周したんですよ!凄いですよね!」
奥様「それは凄いわね!車椅子で戻ってくるかと思ってたわ。ふふ。」
ヴァルグリム「そんなにヤワではない。」
奥様「そうですね。荷物はしまっておきました。確認しといてくださいね。あと、必要なものがあればあとで使いの者を寄越します。」
ヴァルグリム「⋯帰るのか」
奥様「私はまだやらなくてはならないですから。新しい王⋯私達の息子が王として立派に勤め上げる為にもう少し私は側にいます。」
ヴァルグリム「そうだな。頼んだぞ。」
奥様「はい。⋯また来ますね。」

今日から奥様とは離れ離れなのだ。
魔族にも寿命はある。数百年と人間よりは長いが魔族は自分の死が近づくとわかるらしくヴァルグリムももう数年の命だと悟った。
その事を奥様に伝え、息子に後を継がせて自分は余生を過ごす事を決めたのだった。
そしてヴァルグリムより数十年年下の奥様は新しい魔王の側近として魔王国に残る事を決めたのだった。

寂しそうに見送るヴァルグリムさんの背中は儚く寂しさに溢れていた。
シアン「⋯ヴァルグリムさん。少しお部屋でお休みください。歩いてお疲れたと思いますし。もうすぐ夕刻ですのでお食事前にお声かけに来ますね。何かあれは壁にあるスイッチを押したら私達が来ますから。」
ヴァルグリム「わかった。⋯シアンといったな。そなたには礼を言う。」
シアン「!!!そ、そんな気にしないでくださ!」
ヴァルグリム「我は横になる。戻るといい。」
シアン「はい。失礼しますね。」

人間とは違う肌の色、頭から生えた角。
もちろん最初は少しの恐怖で警戒していた自分がいた。
でも、最後は少し寄り添えた気がして嬉しさが込み上げたシアンだった。


サイラス「シアン、案内終わったか？」
シアン「⋯はい。先輩⋯」
サイラス「ん？」
シアン「私ここに来てよかったです。」
サイラス「ははっ、それは良かったよ。」
そう頭を撫でてくれる。シアンの目は少し目頭が熱くなるのをこらえた。

サイラス「さぁ、まだまだ仕事あるよ。」
シアン「はい!」

満面の笑顔でシアンは仕事に戻った。
遠目に見ていたセドリックがそんなシアンをみて微笑んでいた。