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花の名を君に
28 光の思惑
しおりを挟む「ローアンッ!」
僕は悲鳴を上げたが、光の精霊はローアンの体から刃を引き抜いた。同時にローアンはその場に崩れた。僕はすぐにローアンに駆け寄り、抱き支える。
一瞬、苦手な血の匂いに顔を顰めるけど、今はそんな事、気にならなかった。
「ローアン! ローアンッ!」
「ぐぅっ……レスカ」
ローアンは顔を歪めて、声を上げた。額には油汗が浮かび始めている。突き刺された腹部からは血がドクドクと流れ、月光に血が照らされてる。
これではまるでロベルトと同じだ。血と共に命が流れている。
そして流れる血は、僕の脳裏にロベルトを失くした時の感情を鮮明に思い出させた。孤独で悲しくて、生きている意味を失った恐ろしいほどの暗闇。
僕は恐怖に身を震わせた。
「ローアン、やだ、やだぁっ、僕を一人にしないでっ!!」
僕はローアンを抱き締めて叫んだ。でも、ローアンは痛みに声さえもあげられない。
けれどそんなローアンに光の精霊は血に濡れた刃を持ったまま、冷たく告げた。
「どうです? 死んで罪を償えそうですか?」
光の精霊はローアンに尋ねたが、ローアンは光の精霊を見つめるだけで答えられなかった。代わりに僕は声を上げていた。
「光! どうしてこんなことを!」
僕は光の精霊を睨んで言ったが、光の精霊は僕を見ていなかった。ただ、真っすぐとローアンを見ていた。
「いい様に言ったものですね。死んで罪を償う? 違うでしょう、お前は逃れたいだけだ。辛い記憶から、自分のした行いからも。それは償うとは言わない」
光の精霊が告げるとローアンの瞳が揺れた。まるで図星を刺されたように。
「それに以前、お前に言いましたね? お前が八歳の頃、精霊王様の傍にいれば、お前は必ず精霊王様を苦しめると。そんな事にならないとあの時は叫んだのに、今はどうです? 精霊王様を苦しめているのはお前ではないですか」
次々と吐かれる言葉に怒りもせずローアンは息を乱しながら、ただ聞き入った。
「国を救えても、たった一人大事な人も救えないなんて、何とも皮肉ですね。それでも、お前は死を選ぶと言った。ええ……死んで、この方を永遠に苦しめたらいい。精霊王様がどれだけお前に心を砕き、身を裂いてきたか知りもせずに」
光の精霊が言い放つと、ローアンは僕に視線を向けた。
「レスカ……私はッ」
「ローアン、何も言うなっ! 血が流れてしまうっ!」
僕は叫んだが、ローアンの瞳は僕をじっと見つめた。でもそんな僕らを見て、光の精霊は大きなため息を吐いた。呆れたようなため息。
そのため息を聞いて僕は光の精霊に叫んだ。
「光! なんでこんなこと!」
僕が言うと、ようやく光の精霊は僕を見た。
「言ったはずですよ、精霊王様。貴方の力になると」
「これの一体どこが、僕の力になると言うんだ! ローアンを殺して欲しいなんて僕は頼んでなんかいない。僕はローアンに生きて欲しいんだッ!」
「精霊王様、わかっています。だが、愚か者にはこれぐらいしないとわからないものです」
光の精霊はそう言うと、微笑んで持っていた刃で自分の手の平を薄く切った。そこから血が溢れ出す。
「一体、何をッ!?」
光の精霊に僕は声を上げたけれど、彼は僕を見ていなかった。
「ローアン、罪を償い、この方の為に在りたいと願うなら、生きろ。お前にできるのはそれだけだ」
そう言うと光の精霊は手から零れ続ける血をローアンの切り開かれた腹部にぽたぽたっと垂らした。するとローアンの血の香りが変わった。人の生臭い、血の匂いじゃない。精霊の持つこの世にはない匂いに。
でも驚く僕に光の精霊はくすっと笑った。
「精霊王様、この者を精霊にしてしまいなさい」
「光……君は」
「今なら止めませんよ」
以前、光の精霊は僕がローアンを精霊にすることにいい顔をしなかった。なのに、今は止めないと言う。一体、何を考えている?
だが僕はわからなかったけれど、この機を逃したらローアンを精霊にすることはできないだろう。僕は深く考えずにローアンの胸に手を添えた。
深く考えていても、僕にはもう選択肢などない。ローアンはこのままいたら死んでしまうのだから。
僕はローアンに微笑んだ。
「ローアン……愛してるよ」
「レス、カ……ッ!」
僕はローアンに力を流した。
今度こそ、君を助けたい。その想いだけを胸に。
けれど、そんな僕らの傍で光の精霊は刃を放り捨て、ローアンと僕に近寄ると、血の流れる手を僕の手の甲の上に重ねた。
「この時を待っていました」
光の精霊はそう呟くと、驚く僕の手を握るように強く重ねた。
生暖かい血が流れるのが僕の手の甲を通して感じる。だが、流れてきたのは血だけじゃない。光の力も流れてきた、それは僕の力を超える量で。
「ッ!」
僕は光の精霊を見たが、彼は一言こういうだけだった。
「力になると言ったでしょう?」
光の精霊は優しく笑った。
辺りは眩しいほどの光に包まれた。その光に僕は目を瞑った。
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