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第二章「デートはお手柔らかに!」
1 はじまり
しおりを挟む皆さま、遅くなりましたが今日から二章が始まります。
またお付き合いいただけると嬉しいです。('ω')ノ
************
――――ある夜。暗い部屋の中、真っ赤な瞳が自分を見つめる。
『キトリー様、好きです。どうか、私のものになって下さい』
裸のレノが俺に覆いかぶさり、甘い言葉を吐く。おかげで俺の胸はどっきどきわくわくだ。いや嘘だ、わくわくはしてない、恐怖しかない。だってレノのお股にはアナコンダが潜んでるんだから!
『ちょ、レノ、待って』
『もう無理です』
レノはそう言うと俺の首筋に顔を埋めた。そしてその手は俺の体を弄る。
……ヤバい、このままでは色んな意味で俺が殺(ヤ)られる! 逃げなくちゃ!
そう思うのに体が金縛りにあったみたいにひとつも動いてくれない。
『坊ちゃん、好きです』
『ちょ、まっ! レノ、まっ、んっ、あああああ~っ!』
俺は抵抗もできず、その後はめくるめく薔薇色の――――。
「ギャワァッ!」
俺は寝汗を大量にかき、短い叫び声と共に飛び起きた。
だがはぁーはぁーっと息をしながら窓に視線を向ければ、カーテンの隙間からキラキラと朝日が入り込み、外からは爽やかな小鳥達の囀りが聞こえてくる。
そしてすぐに自分の体を確認すれば、きっちり服を着ていた。どうやら悪夢だったようだ。
「はふぅーっ」
……ゆ、夢で良かったぁぁぁ! いや、てかどんな夢見てるんだ俺! しっかりしろッ!!
俺はぺちんっと両頬を叩き、目をぱっちりと覚まさせた。しかしそんな俺の隣から、けだるけな低音ボイスが聞こえてくるではないか。
「ん……坊ちゃん、もう起きたんですか? まだ起きるには早いですよ」
少しまどろんだ声はそこいらの女子をノックアウトさせるぐらいイイ声だ。そしてそんな声で俺に話しかけてきたのは、隣で寝ているレノだった。例の”付き合う宣言”をした日から、図々しくもレノは毎日俺に添い寝するようになっていたのだ。俺は頼んでないのにッ!
……くそぅ、なんで毎日俺のベッドに添い寝しに来るんだよ。俺は一人で寝たいのに、俺のベッドを半分占領しやがって。自分の部屋のベッドで寝なさいよ! しかも無駄にいい体を見せびらかしよってぇっ!
ほぼ全裸と言っても過言ではない下着姿のレノに毎晩逞しい体を見せつけられ、俺はぷくっと頬を膨らませた。しかし一向に横にならない俺に痺れを切らしたのか、レノは俺の腕を引っ張って抱き寄せる。
「ぐわぁ! おい、レノ!」
「悪夢でも見て、眠れないんですか? 大丈夫ですよ。私がいますから」
レノは半分まだ眠りながら、抱き締めた俺の背中をポンポンッと優しく撫でた。しかし宥めるどころか、それは俺の怒りに油を注ぐ。
『悪夢の原因はお前じゃーっ! キシャーッ!!』とレノの逞しい肩に噛みつきたいところだ。だが、噛みついたら噛みついたでその痕を誰かに見られた日には恐ろしい噂を立てられること間違いなし。俺はぐっと歯を食いしばった。
「ぐぅぅぅぅっ」
「ほら、寝てください」
レノはぽんぽんっと俺の背中を優しく撫でる。
……くぅ、誰がほぼ全裸の男に抱き寄せられて、寝られると思ってんだ。俺が背中ぽんぽんで寝られると思ってんのか? ……俺が寝られるわけ……寝られる……わけ……寝ら、れ、る……。
「すぴぃーっ、すぴぃーっ」
――――簡単に寝てしまった俺なのだった。
◇◇◇◇
「――――前回のあらすじ。悪役令息を演じたキトリーは、王子との婚約破棄に成功。王子の婚約者という立場からようやく抜け出し、公爵家の領地にある別邸へと向かう。しかし、ひょんなことからレノとお付き合いする事になり、レノにグイグイ迫られて!? ……キトリーは一体どうなるのか! 頑張れキトリー! 負けるなキトリー!」
「……キトリー様、何をしてるんですか」
俺が執務室で力説していると、お茶のセットとお菓子を乗せたカートを押してレノが入ってきた。
「あ、レノ……いや、前回のあらすじをちょっと。作者の更新遅すぎて、読者のみんなが前の話を忘れたかもしれないから。あと自分を鼓舞する為に」
お前から自分の尻を守る為のなッ!
「……読者? コブ?」
レノは首を傾げたが、俺は早々に話題を変えた。
「んにゃ、こっちの話。ところで今日のお菓子は何?」
「今日はチョコチップクッキーですよ」
「わーい! 俺、クッキーも大好き!」
「キトリー様は甘い物なら、なんでも好きでしょう」
レノは呆れたため息を吐きつつ、俺の為にお茶を淹れ始めた。俺はその流れるような所作を見ながら両手で頬杖をつく。
「なんでもって訳でもないぞ。俺だって選り好みぐらいする」
「ホントですかね? あんまり甘いものを食べていると太りますよ?」
レノに言われ、脳裏にレノの美しいシックスパックが思い浮かぶ。一方、俺の腹は見事なワンパックで……。
「うるさいなぁ。今どきの流行はぽっちゃり体型だぞ!」
俺が苦しい言い訳をするとレノは顎に手を当てて考えた後、にこりと笑った。
「そう言われてみればそうですね。キトリー様は抱き心地がいいですし」
「な、何言ってんだ! てか、いい加減自分のベッドで寝ろ! 毎晩俺のところに夜這いに来るな!」
「キトリー様が付き合ってくださると言ったんじゃないですか。恋人なんですから、添い寝ぐらいいいでしょう? それとも添い寝ではない、他の事をご希望ですか?」
笑顔で言うレノに、俺は貞操の危機を感じる。
……他の事ってなんだよ。何をする気だよ! 怖すぎるヨッ!
「添い寝でいいです」
「そうですか、それは残念です」
レノはそう言いながら、俺にお茶とクッキーの乗った小皿を差し出した。なので、俺はレノとの会話で溜まったイライラを解消すべくお茶を一口、クッキーをぱくり。
……んんーっ、さすがヒューゴの手作り! うまぁぁっ。
ザクザク硬めのチョコチップクッキーは甘さもほどほどで、紅茶とよく合って美味しい。もじゅっもじゅっと食べて、至福のひと時に俺は暫し酔いしれる。
だが、そんな俺のひと時に水を差す奴がここに。
「ところでキトリー様」
「なんだよ。人が美味しく、楽しく、ヒューゴの作ったクッキーを食べてる時に。今は休憩中だぞっ、仕事はしないぞっ! あとセクハラもダメだかんなッ!」
「セク? 違います。帝都に戻る件で」
「ん? サラおばちゃんの誕生日の件か?」
俺は仕事の話じゃないとわかり、少し声のボリュームを落とす。来週レノの母親であるサラおばちゃんの五十歳の誕生日がくるのだ。そして、レノは休暇申請を出していた。
「キトリー様も私と共に行くという事で、本当によろしいのですね?」
レノは再度確認する様に俺に尋ねてきた。
「ああ、俺も帰る予定でいいよ。父様がレノが帰ってくるなら一緒に帰ってこいって言ってるし」
……レノだけ帰るって手紙を出したら、一緒に帰ってこいって手紙を送り返されてきたんだよなぁ。
「誘拐された際に一度帝都に顔を出しましたが、本邸には寄りませんでしたからね」
「報告の為に帝都には寄ったけど、そのまま帰っちゃったからなぁ~」
「では、キトリー様。私と一緒に行くという事で準備を整えさせて頂きますね?」
レノに尋ねられ、俺は「お~、そーしてー」と軽く返事をした。
そしてその後、レノはお爺と予定や準備の話をするとかで部屋を出て行き、俺は一人クッキーを齧りながら、お茶を啜る。
「しっかし、この前帰ってきたのにまた帝都かぁ」
……まあ、今回はただ帰るだけだから何も起こらないだろうけど。一週間の帰省か~。とはいっても行き帰りで四日は潰れるから、正味二泊三日の滞在。
俺はふむっと顎に手を当てて考える。
……家族やサラおばちゃんと会うのは勿論決定事項だけど、その他の時間はまあまあ余りそうだなぁ。一日中家にいるのもかえって退屈だし。どーしよかな?
うーんと首を捻るがすぐに名案が浮かんだ。
「あ、アイツに会いに行こっ。ちょうど土産もあるし!」
俺はぽんっと手を叩く。
……ついでにレノの事を相談してみよう。アイツなら何かいい助言くれそうだし。そうしよーっと。と、いう訳で……今はゆっくりティータイムを楽しもう~っ。
俺はクッキーをもう一枚ぱくっと食べ、そしてティーカップを片手に窓の外を見た。猛暑は過ぎたが、まだ暑そうな日差しが降り注いでいる。
「向こうに行く時も晴れるといいな~」
俺は晴れた天気を見ながら紅茶を啜ったのだった。
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