《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

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第二章「デートはお手柔らかに!」

7 なぜここに!?

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「ふぎゃッ!? レノ!」
「キトリー様、ここで何をしてらっしゃるんですかね?」

 レノは腕を組み、ニコニコしながら俺に尋ねた。

 ……ヤバい、あの笑顔はめっちゃ怒ってる時の笑顔だ!

「や、やぁ、レノ。休みなのにどうしてここに?」

 俺は顔をヒクつかせながら片手を上げて挨拶をした。だが、レノは笑顔を崩さずに俺に近寄ってきた。

「本邸に向かえば、キトリー様がお部屋に籠っていると聞いたので。どうせ貴方の事ですから、部屋を抜け出して街をぶらついているんだろうと思いましてここに」

 ……お前は探偵か! いやストーカーかッ!? きょわわぁぁ。

「久しぶりですね、アントニオ君」
「久しぶりです、レノさん。相変わらず大変ですね」

 アントニオが労うように言うと椅子に座る俺の隣に立ち、レノはちらっと俺に視線を向けた。その顔はため息を吐きたそうだ。

「ええ、まあ」

 ……なんだよ大変って、失礼だなぁ。まあ自覚があるから何も言えないですけどぉー。

「ところでキトリー様。嘘を吐いて一人歩きなんて、お仕置きが必要ですね? 別邸に戻ったら一週間、おやつ抜きです」
「お、おやつ抜き!? それだけはぁ~ッ!」

 俺はレノにしがみついて頼んだ、そりゃもう必死に。だって別邸での楽しみって言ったら食べる事ぐらいしかない。まあヒューゴとフェルナンド、ノエルとザックのカップルたちを覗くと言う一番の楽しみもあるけど。甘味は二番目に楽しみにしている事なのに、その楽しみがなくなったら俺は何を励みに仕事をすればいい!?

「レノ、他の事なら何でもするからおやつ抜きは勘弁して!」

 俺がうぐうぐっと泣きそうになりながら縋って頼むと、レノは呆れたため息を吐いた。

「駄目ですよ……と言いたいですが。私も休みですし、今日のところは不問にします」
「レノ!」
「ですが、二度目は許しません。いいですね?」

 レノは真顔でじろっと俺を見た。その睨みの強さはまさに蛇の如し。俺は小動物のようにプルプルと震えながら頷いた。
 そして話が終わったところで、黙っていたアントニオが声を上げる。

「じゃ、迎えもきたところだし。キトリー、お前はレノさんと帰れ」
「ええっ!?」

 帰宅を薦められた俺は声を上げる。

「ええ?! じゃない。それにちょうどいいだろ? さっきの話」

 アントニオは俺に言うとレノにちらりと視線を向けた。するとレノはぽんっと俺の肩に手を置く。

「アントニオ君は仕事中なのですから、あまり邪魔してはいけませんよ。それに私の休日がそんなにお知りになりたいのでしたら、今からデートしましょうか?」
「でぇとッ!」

 まさかレノの口からデートという言葉が出てくると思っていなかった俺は驚く。

 ……レノとデート! なんか変な感じがするけど。でもレノが休日をどういう風に過ごしてるのか気になる。うむむっ。

 俺は顎に手を当てて考える。だがその間にアントニオはさっさと空になった皿とマグカップを片付け始めた。帰れと言わんばかりだ。

「折角だ、レノさんと行ってこい。話はまた後日聞いてやるから」

 アントニオに言われて、俺は仕方なく席を立つ。

 ……ま、明後日まで時間はあるから、もう一度くらいは会えるだろう。

「その時にはローズ・クラウン先生にサイン本書いてもらっておくから」

 アントニオは何気なく言ったが、その言葉を聞いて俺はズズイッと詰め寄った。

「マジ? ローズ・クラウン先生の? 嘘だったら呪いの手紙を毎日書くぞ??」
「こえーし、ちけーよッ! 嘘つくか、ちゃんと貰っといてやるから」

 じぃーっと真顔で尋ねる俺にアントニオは引き気味に言った。しかし了承の言葉を聞くやいなや俺はその場で万歳をする。

「やったぁー! ローズ先生のサイン本! ヒャッホーッ!」

 ローズ・クラウン先生とは、俺の大好きなBL作家さんだ。俺のお気に入り『騎士様と魔法使い』の作者でもある。そしてアントニオはローズ先生の編集もしているのだ。

 ……ローズ先生のサイン本が貰えるなんてサイコー! でもアントニオはローズ先生に会ってるんだよな、羨ましい~! 俺も会えたらなぁ~。

 ローズ先生は読者のイメージを崩したくないという事で表に出ない、俺と同じ覆面作家だ。だからローズ先生の正体を知っているのはアントニオだけ。

 ……ローズ先生の事、聞きたいような聞きたくないような。でもファンとして、先生の気持ちは尊重しなければなッ!

 俺は聞いてしまわないようにぐっと口を閉じた。

「しかしお前、本当にローズ先生が好きだな」
「うん! 俺、ローズ先生になら抱かれてもいい!」

 俺が思わず鼻息を荒くして言う。だが、ぽんっと肩に手を置かれ、振り向けばレノがにこりと笑っていた。ゲゲッ!

「坊ちゃん、私の前で堂々と浮気宣言ですか?」

 問いかけながら俺の肩を掴むレノの手にどんどん力が入っていく。ひえーっ!

「いや、ちょ、そういう訳じゃぁ!」
「ではどういう意味で?」
「ほら、あれだっ。ひゅ、ヒューゴのお菓子が好きだなぁ、って言うのと同じ! だから、なっ?」

 俺が必死に言い訳をするとレノは疑り深い目を向けたが、それ以上は追及せず。俺の肩を掴んでいた手を離した。

「そうですか。そういう事にしておきます」

 手が離れ、俺はほっと息を吐いて額の汗を拭う。

 ……危ない、危ない。フゥーッ。

「ですがもう一度そんなことを言うようでしたら、問答無用で押し倒しますからね?」

 レノはにっこりと笑って言った。その笑顔は誰しもがうっとりするような微笑みだったが、俺にとっては恐怖でしかなかった。そして何より俺は知っている、レノが有言実行をする男だと。

「ひゃぃ」

 俺はお尻の危機を感じながら小さく答えた。そんな俺達にアントニオは呆れた顔を見せる。

「おいおい、俺の目の前でいちゃつくの止めてもらえるか?」

 ……誰がいちゃついてんだ! どーみても、脅されてるだろ!

 そう声を大にして言いたいが、そんなことをすればどうなることやら。俺は黙っているしかできない。

「キトリー様がお邪魔しましたね。アントニオ君」
「あー、まあいいですよ。てか、レノさん。こいつに首輪でもつけておいた方がいいんじゃないですか?」

 ……おいぃぃぃっ、余計な事を言うんじゃないヨッ!

「それはとてもいい案ですね?」

 レノは俺を見て、Sっけたっぷりに笑って言った。

 ……ひょぇぇぇっ! うぅっ、ここに俺の味方はいねーのかっ。

 俺はまたもうぐうぐっと泣きそうになったが、レノはそんな俺の手をぎゅっと握った。

「ですが今はこれだけで我慢しておきましょう」

 俺より少し大きくて硬い、体温低めのレノの手が俺の手を包む。驚いてレノの顔を見れば、くすっと笑っていた。どうやらまたからかわれたらしい。ムゥッ!

「さ、デートに行きますよ。坊ちゃん」

 レノはそう言い、アントニオは笑いをかみ殺した顔で俺を見た。

「まっ、楽しんで来いよ? キトリー」

 フフッと笑うアントニオに俺はギロッと睨みつけた。

 ……覚えてろよぉ! トニ男おおぉっ!

 だがその心の叫びは届かず、俺はレノと共にアントニオに別れを告げ、本屋を後にしたのだった。


 ◇◇◇◇


「さて、キトリー様。どこに行きましょうか?」

 昼の町中、レノは俺の手を繋いだまま尋ねてきた。
 恥ずかしいのでちょっと離したいが、気温が少し高いのでレノの手が冷たくて気持ちいい。まあ、そもそもレノががっちり握っているので離せやしないんだけど。
 デートで強引に手を繋ぐとは。こいつ、やりよる! と思いつつ、俺はレノの質問に答えた。

「レノの行きたいところでいいよ。あ、でも俺。サラおばちゃんの誕プレを買いたい」
「母へのプレゼントですか? キトリー様が来てくれるだけで喜ぶと思いますが」
「そうかもしれないけど、折角節目の年じゃん。それに昔から世話になってるし。という訳で、おばちゃんにハーブの石鹸とかプレゼントしようと思ってんだけど、息子の視点からどう? おばちゃん、香りのする石鹸が好きだったよな?」
「キトリー様からのプレゼントなら何でも喜ぶと思いますが、母は確かに香りのする石鹼が好きですよ。特に柑橘系の匂いが好きみたいです」
「フムフム、なるほど」
「では、バス専門店へ行ってみましょうか」

 レノの提案に俺は素直に「うん」と答えた。

 ……ん? 今の、なんかちょっと恋人っぽいやりとりだったかも?

 そんなことを思いつつ、俺はレノに連れられて帝都でも有名なバス専門店に行くことになった。そこでレノにアドバイスを貰いつつ俺は悩みながらもハーブの石鹸をいくつか選んで、肌触りの良いタオルと一緒に詰め合わせて貰った。勿論可愛くラッピングしてもらうのも忘れずに!
 ついでに別邸のみんなにも手荒れしない石鹸をお土産として買っておいた。腐れないし、石鹸を使わない人もそういないだろう。

 いつの時代でも手洗いうがいは大事だからなッ!!

「では、こちらの分はポブラット公爵家へ運び込んでください」
「畏まりました」

 レノはお店の人に話を付けて俺の元に戻ってきた。
 サラおばちゃんの分以外は全部、家に届くよう手配してもらったのだ。何十個も石鹸を手に持って帰るのも大変だから。

「話をつけてくれてありがと、レノ」
「いいえ、これくらい構いません」

 レノはさらりと答えた。

 ……うーむ、これができる男か。てかレノは休日なのに、これじゃいつもと変わんなくね?

「キトリー様、どうしました?」
「レノ、これだとお前の休日になんないじゃん。休みの日も仕事って、うちはブラック企業じゃないんだぞ!」
「ブラック企業?」
「働きすぎって事だよ! よし、今度はレノの行きたいところにいこう!」

 俺が告げるとレノは少し考えた後、俺の手を再びさりげなく繋いだ。

「ぬっ?!」

 ……なんか手慣れてやしませんか、レノさん!?

 そう思ったが俺の想いを他所にレノは俺の手を引いて歩きだした。

「では私が行きたいところへ行きましょう」
「お、おう。でもそれってどこ?」
「着いたらわかりますよ」

 俺は戸惑いつつもレノに連れられて次の場所へと移動した。
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