102 / 180
第五章「告白は二人っきりで!」
6 姉の涙には弱いのです
しおりを挟む『――りっちゃん、この神聖国で問題が起きてることは知ってる?』
『跡継ぎ問題ってやつ? エンキ様に枢機卿のどっちの娘を嫁がせるかってことで揉めてるっていう。アシュカから聞いたけど』
俺はそう言った後、アシュカが続けて言っていたことを思い出した。その娘の後ろ盾に聖人を立てようとしているという事を。
……アシュカもってことは姉ちゃんもってことか。
『そう、エンキ様に二人の枢機卿が言い寄っていてね。でもエンキ様には結婚する気はないし。けど枢機卿達は後継者を作ろうと躍起になっていて……今、この大神殿内は二つの派閥に分かれてるのよ~。それで私やアシュカに後ろ盾になって欲しいって毎日のようにお願いされてねー。もう面倒ったらないの』
姉ちゃんはフゥっとため息を吐いた。これは本当に面倒くさいことになっているのだろう。
『そもそもエンキ様、その気もないのに無理やり結婚させるのは違うと思うし。でも、枢機卿達を私は止められないし』
『つまりエンキ様の結婚を止めて、後継者問題をどうにかしろと?』
尋ねると姉ちゃんは迷うことなく『うん』と答えた。なので、俺は足早にドアに向かう。
『やっぱ、帰らさせて頂きます』
『ちょっとちょっとぉー!』
姉ちゃんは後ろから俺に抱き着いて慌てて引き留めた。けれど、他国出身の俺がどーにかできる案件じゃないことは明白だ。
『そんなの俺にどーしろってゆーの!』
『りっちゃんなら何とかしてくれるでしょー!?』
出て行こうとする俺を姉ちゃんは必死に引き留める。だが、俺は『無茶言うな!』と構わずドアへ向かおうとした。でもやっぱり姉ちゃんは離してくれない。
『大丈夫よー、りっちゃんならぁー!』
『どこにそんな根拠が! そもそも、そんなの聖人様が一言言って止めた方が早いんじゃないの!?』
『私達、聖人はそーいう政治的な事には介入はできないの!』
『だからって、俺にも無理に決まってんでしょー!』
俺はそう言ってウギギギと姉ちゃんから離れようとした。すると姉ちゃんはパッと俺から離れ、俺はその反動でドアに思いっきりぶつかりそうになる。
幸い、なんとかドアにぶつかる前に踏みとどまれたが。
『じゃ、俺は帰、ぃっ!!』
俺は振り返って途中まで言ったが、佇む姉ちゃんを見て言葉に詰まった。だって、目の縁にいっぱいの涙を溜めて立ってるんだもん。
『お姉ちゃんが困ってるのに、りっちゃんは助けてくれないの?』
うるうると潤んだ瞳で見詰められ、尋ねられれば俺は『うっ』と身を固くする。
『りっちゃんだけが頼りなのに。……でも、そうよね。りっちゃんに無理言っちゃダメよね。もう正真正銘赤の他人だもんね』
姉ちゃんはグサグサッと俺の胸に言葉の矢を飛ばしてくる。
……もー、そんないい方されたら断れないじゃん!!
『あー、もうっ、わかったよ! やるから! それでいいんだろ?!』
俺が頭をくしゃくしゃっと掻いて言えば、姉ちゃんはすぐに笑顔を取り戻した。さっきまであった涙はもう消えている。はやっ!
『さっすが、りっちゃん! 頼りになるわ~』
姉ちゃんはニコニコしながら言い、嵌められた感が否めないが仕方がない。
……姉ちゃんの頼みだからな。
『早速、明日にはエンキ様に会えるようにこっちで調整しておくわね! あと、大神殿の中はウロウロしていいから。何かあったら私の名前を出して』
『わかったわかった。でも、どうにかなるかは保証しないからな?!』
俺はそう言ったが、姉ちゃんは『はいはーい』と聞いていなかったのだった。
……全く~っ!
「――まぁ、そんなわけでランネット様が俺に頼んできたんだよ。この神聖国のゴタゴタをどうにかしてって」
俺は隣に座るレノに軽く説明する。
「なるほど、そのような話を。……ですが、どうしてそんな大事な事をキトリー様にお願いされたんですか? 会ったのは今日が初めてでしょう」
痛いところを突かれ、俺は目を彷徨わせる。まさか前世の姉だからとはいえまい。
「あ、そ、それはっ……えーっと。俺の手腕を買ってじゃないかなー? ランネット様、顔が広いみたいで色々と知ってたし、アシュカから聞いたんじゃない? 俺の事」
俺はなんとか誤魔化してみる。するとレノは疑いの目を俺に向けたが、それ以上は尋ねてこなかった。
「そうですか。……しかし面倒な事になりましたね、どうなさるおつもりですか」
「どーも、こーもないよ。ランネット様に頼まれた以上はなんとかしなくちゃだろ。まあ、明日にはエンキ様に会えるよう手配してくれるみたいだから、まずは渦中の人物であるエンキ様に話を聞いてからだな」
「……はぁ、本当に貴方は何かと巻き込まれるのがお上手ですね」
レノは呆れた顔で言うから、俺はちょっとムッとする。
……俺だって好き好んで巻き込まれとるんじゃないわい! みんなが俺を巻き込むんだ!
俺は心の中で呟くが、レノはくすっと笑った。
「まあ、だからこそキトリー様、なのかもしれませんが」
「どーゆう意味よ、それ」
「そのままの意味ですよ。それより、こちらに滞在するならその事も含めて別邸に手紙を出さなければいけませんね」
レノは小さくため息を吐きながら言った。
「そうねー。みんな、俺達の帰りを待ってるだろうからな」
俺は出てきた時のことを思い出す。みんなには『心配しなくても、すぐ帰ってくるよ』と言ったが、この状況ではすぐには帰れないだろう。
……俺ののんびり転生ライフは一体いつになったら送れるのやら。
しかしそんな事を思っているとドアがノックされた。
47
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。
性表現は一切出てきません。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
腐男子♥異世界転生
よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる