《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

24 君がいるだけで

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「僕が見せよう。どういう事が起ころうとしたのか……キトリー、僕の手を握って、目を瞑ってごらん?」

 クト様に言われて俺は恐る恐る手を伸ばして、クト様の子供の手を握る。そしてゆっくりと目を瞑ってみると、突然頭の中に酷い映像が流れ込んできた。

 バルト帝国を始め、各諸国は荒廃し、大地には草木が生えず、水も枯れ果てて。
 人や動物は行き場を失って苦しみ、この世はまるで暗黒世界のようになっていた。

 そしてその世界の中で、寂びれた城の中にたった一人の魔王が存在した。
 死人のように白い肌を持ち、腰まで伸びた長い銀髪、血のように赤い瞳は鋭く。壮絶な色香を振りまく、とても美しい魔王。だが、その顔は俺の良く知る者だった。

 ……え、レノッ!?

 魔王だと思ったのは冷徹な、温かみのない、別人のようなレノ。
 だが、驚くのはそれだけじゃない。レノの部下らしき人物には、人相が悪くなったおっちゃん(王様)に、サウザー伯爵やレノを虐げていた悪徳貴族、俺が今まで捕まえた悪い貴族達その他もろもろ。その上、悪女のようになったディエリゴがレノの愛人になっていた。

「なんだこれはッ!」

 あまりの酷い映像に俺は目を開け、思わずクト様の手を振りほどいて叫んだ。そして現実に起こった事じゃないのに、映像が現実味を帯びすぎててすごく気分が悪い。心臓もドキドキと不穏に鳴っている。

「坊ちゃん、大丈夫ですか? 一体なにを」

 レノは俺に問いかけ、俺は深呼吸をしながらレノを見る。そこには(当たり前だが)いつもの優しいレノがいる。おかげで心からホッと安堵する。だが、クト様は信じられないことを口にした。

「これが均衡が崩れた世界だ。恐ろしかっただろう? でも、起こり得た事だよ。君がいなければね」
「俺が、いなければ?」

 ……そう言えばリャーナ様が同じような事を。

「そう。だからこそ、この崩れた世界を回避する為に、バレンは君を遠い場所からこの世界に呼んだんだ」

 クト様の言葉の後、俺はバレンシア様に視線を向けた。そうすれば、バレンシア様は頷く。

「そうだ。私が君を呼んだんだ。強い力を持つ君をね」
「強い力を持つ? 俺が? 俺は何もっ」

 俺が言いかけるとバレンシア様は首を横に振った。

「いいや、君には力がある。誰よりも真っすぐな明るい心。そのおかげで世界は守られた。だから今の平和な世界がある。私がリャーナと和解できたのも、ここに座る我々が笑っていられるのも、また君がいたからだ」

 バレンシア様に微笑んで言われ、俺はテーブルを囲む面々を見る。

 ……魔王にならなかったレノ、息子が魔王にならずに済んだバレンシア様。エンキ様とアントニオを大事に想うクト様。誤解が解けて、恋仲になれたリャーナ様とお爺。……俺がいたから、みんな笑ってる?

 俺は心の中で呟くが、いまいちピンっと来ない。だって、俺はその場にいただけで本当に何もしてないだもの。
 でもそんな俺を見てお爺は朗らかに笑った。

「ほっほっほっ、坊ちゃんはニブちんですからな。自分の存在の大きさというのがわかってないみたいですな」

 ……ここでもニブちんッ!?

 俺はこんなところでもニブちんと言われ、ちょっとショックを受ける。だが、すぐに反論した。

「いや、俺の存在なんて大したことないでしょ! 俺、めちゃくちゃ普通ヨ!?」

 ……そりゃ、ちょっとBとLな話が好きな腐男子ですケド。でも俺の周りの方がすごいじゃん。レノとか半神(ハーフゴット)よ!? それにこの美顔! ハリウッド映画の主役はどっちかっつーとレノでしょ! まあ、ちょっと暗黒世界の魔王役されてましたけど。

 俺はさっきの魔王・レノ様を思い出して、ぷるりと震える。だが、そんな俺にお爺は諭すように告げた。

「坊ちゃん、その人がいるだけで救われる、というのはよくある事ですよ」
「いるだけで?」

 ……そんなお手軽な事が??

「そうですよ。大事なのは何者かという事ではないのです。良き心を持つ人、それが大事なのです。そう言う人は、いるだけで自然と周囲を変えていくものですよ、まるで水面の波紋のように。そしてそれは次第に大きな波になり、世界をも変えるのです」

 お爺が言えば、クト様は何度も深く頷いた。

「うんうん、そうだよ。フィズの言う通りさ。僕達は頭のいい人でも、お金持ちでも、美しい人でもない、なにより望んでいるのは良き人だよ」
「神の教えの一番にも、私達は唱えているはずよ?」

 クト様に続いて、今度はリャーナ様が自身の胸に手を当てて言った。だから、俺は子供の頃に母様からよく聞かされた事を思い出す。

「神様の教え……『汝、良き人であれ』?」

 俺が答えると今度はバレンシア様が頷き、答えた。

「そう。良い人間はいい方向へ導く、逆に悪い人間は何もかも悪い方へと導く。そして、悪い方向へ行けばそれはいずれこの世界の破滅だ。だからこそ、私は君を呼んだんだ」

 バレンシア様がハッキリと告げ、俺はなんだかちょっと照れ臭い気持ちになってくる。だって、君はいい子だって面と向かって言われてるみたいなものだから。

 ……でも、俺ってば本当に何もしてないんだけどなぁ。けど、俺がいた事でいい方に変わったなら、それはそれで嬉しいかも。なにより、あんなレノを見たくないし。

 俺はちらっとレノを見る。そこにはいつものレノがいて、やっぱり俺はこのレノが好きだと心の底から思う。
 あんな寂しくて冷たい、魔王になってしまったレノは悲しすぎるから。

 でもそんな中、バレンシア様は言葉を続けた。

「だが、キトリー君がいてもまた私が関われば、世界の均衡が崩れる事態になるかもしれない。だから、もう今後レノには会わない。……サラにも会いたかったが、やはり決まりは守らねばな」

 バレンシア様は名残惜しそうに言ったが、今回の件でもう二度と関わらないと決めたのだろう。けど、俺はなんとなく納得できない。それに本邸の近くのアパートメントの一室で、一人で暮らしているだろうサラおばちゃんの姿を思い浮かぶ。

 ……サラおばちゃんだってバレンシア様に会いたいはずだ、会えるならきっと。うーーーーーんっ、なにかいい方法ってないのかなぁ。てか、さっきから妙に気になってるけど、なんでレノはバレンシア様の事を父って言ったんだろ?

 俺はちょっとした心に引っかかっていた。なぜなら、この世界では同性でも薬で子供を授かることができるが、一般的に男性同士なら両方父親。女性同士なら両方母親。父、母と分かれて呼ばれるのは、男女の夫婦なのだ。
 つまり、レノの場合はバレンシア様も母親と呼ぶはずだ。だから俺は疑問で……。
 けど、それに答えをくれたのはクト様だった。

「ああ、それは《落日》が関係しているんだよ」

 クト様に教えられ、俺は《落日》が何なのか思い出す。その昔、母様が教えてくれた神様にとって特別なある日のことを。
 そして俺の中でピンッとあるアイディアが閃いた!

「それだぁ――――ッ!!」

 俺は思わず叫び、その叫びにテーブルに座っていた全員が驚いた。
 だが、叫んでしまうのも仕方がないと言うものなのだ。なにせ、俺はバレンシア様がサラおばちゃんに会う方法を見つけてしまったのだから――。

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