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番外編
1 息子の名はキトリー
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お久しぶりです、なんだかんだで戻ってまいりました。
そしてゴールデンウイーク、始まりましたね。お話に全然関係ないけど(笑)
今回はキトリーの父エヴァンスが昔を回想するお話です。そして、ちびキトリーも出てきて暴走……オッホン、活躍します。ぜひ、お楽しみいただければ幸いです。(全四話の短編、毎日一話投稿です)
************************
――――それはとある春の頃。
エヴァンスは王都にある公爵家本邸の書斎で書き物をしていた。
しかし資料が必要になり、引き出しの棚から古い本を取り出したのだが、その時本の傍に置かれている小さな箱型の缶が目に入る。
エヴァンスは何気なくその缶に手を伸ばして蓋を開けて中を取り出すと、そこには折りたたまれた綴り紙があった。それをおもむろに開けば、幼い子供が拙い文字で書いた言葉がある。それを見て、エヴァンスは自然と笑みを零した。
……大事に取ってあまり使わなかったな。
エヴァンスはそう思いつつ優しい目をして、この綴り紙を貰った時の事を思い出した。
それはまだキトリーが三歳の頃のお話――――。
◇◇◇◇
――――エヴァンス・ギル・ポブラット。『王家の盾』とも呼ばれている公爵家当主であり、バルト帝国の若き宰相。物腰は柔らかいが頭の切れる人物と、王城ではもっぱらの評判だった。
そんなエヴァンスだったが、公爵家の本邸に戻ればただの父親で。
その肩には三歳の次男キトリーを乗せていた。
「――――とーしゃまっ! あっちへゴー!!」
ぺちょりっと自分の頭に張り付く小さな人にエヴァンスは「はいはい」と答えつつ、指を差す方向へ歩く。すると肩に乗っているキトリーがキャッキャッと喜ぶ。
……こういう所は年相応なんだがなぁ。
「うひょひょーっ、たかーい! ヒャッハーッ!!」
妙な奇声も聞こえてきて、エヴァンスは自分の息子は大丈夫だろうか、という一抹の不安を感じる。しかしそんな事を考えている内に廊下の先から歩いてくる人物と出会い、その人を見つけるなりキトリーはすぐに声をかけた。
「あーッ、お爺!!」
興奮したキトリーがブンブンと手を振り、背後で大きく揺れる。なので落ちないかヒヤリとするが「とーしゃま、お爺の元へレッツゴー!」と言われ、エヴァンスはキトリーの小さなあんよをしっかりと掴んだまま現執事長の元へと向かった。
「やっほー、お爺~っ!」
「ほっほっほ、坊ちゃん、楽しそうですなぁ。それに旦那様も楽しそうで」
執事長こと爺やはにこにこしながらエヴァンスとキトリーを見た。
「うん、たのしいよぉー! いまね、おやこのふれあいタイムなのぉ!」
動物のふれあいタイムみたいに言われて、エヴァンスはちょっと複雑な気持ちになるが爺やは「それはようございましたね」とにこやかに笑って言った。一方キトリーは嬉しいのかフフンッと荒い鼻息を出した。
「しかし、旦那様がこうして肩車をされているのは初めて見ますな。ロディオン様にはこのようにされる事はなかったのでは?」
「ああ、先程キトリーに捕まってね」
爺やにそう言えばという表情で尋ねられ、エヴァンスは答えながら数十分前の出来事を思い出した。
◇◇
――――それはエヴァンスが書斎で仕事をしている時の事だった。
「とーしゃまッ!」
パァーンッとドアが開いたかと思えば、そこにはキトリーが立っていた。
「おや、キトリー。どうしたんだい?」
エヴァンスが書き物から視線を上げて尋ねれば、幼児らしいむっちりボディを揺らしながらキトリーはとてとてっと部屋の中に入ってきた。そして机の前に立つが……小さくて見えなくなる。
なのでエヴァンスは椅子から立ち上がって、机の前に立つキトリーを見下ろした。
「何をしてるんだい? キトリー」
声をかけるとキトリーはむんっと腰に手を当てて、エヴァンスを見た。そしてきりっとした目で訴える。
「とーしゃま、おしごとししゅぎですッ!」
「……え?」
まさか息子に仕事のし過ぎと言われるとは思っていなかったエヴァンスは思わず戸惑いの声が出た。
「とーしゃまのおしごとがたいへんなのはわかってましゅ。でも、おしごとのししゅぎです!」
再度キトリーに言われてエヴァンスは『そうだろうか?』とふと考えるが、春の公共事業の打ち合わせや各所から送られてくる書類の確認。他国からの来賓対応に追われ、ここ数週間まともにキトリ―、いや家族とも顔を合わせていなかった事にエヴァンスは気が付いた。
……忙しすぎて日が経つ事を失念していた。そういえばジェットにも『たまには一日オフを取れ』と呆れた顔で言われたな。
エヴァンスは思い出し、ふむっと顎に手を当てる。
「とーしゃま、しごとも大事だけどお休みするのも大事でしゅ! こんなにはたらいていちゃらかろー死しちゃいましゅ! それにお城はお休みもできないブラックきぎょーなんれしゅか!?」
「カロー氏? ブラック……なんだって?」
「とにかく、はたらきすぎれしゅ! おーさまにこうぎれしゅ!!」
「いや、陛下には休めと言われている。だがついつい仕事をしてしまってね」
「とーしゃま、おしごとがたのしーのはわかりましゅが、お休みも大事れしゅよ! そ・れ・に!!」
キトリーはそこまで言うと、エヴァンスを力強く見つめてハキッと告げた。
「こんなにプリチーでチャーミングでラブリぃぃぃっ⤴⤴な息子をほっといていいんでしゅか!? こんなに可愛いのは今だけでしゅよっ!? 今、たんのーしておかないと後悔しましゅよッ!?」
パーンと胸を叩いてキトリーは言い、切々と妙なアピールをされエヴァンスは何とも言えない表情を見せる。
……可愛いのは確かだが。一体何目線でのアピールなんだ。
そう思うがキトリーは目をキラキラさせて自信満々で言うのでツッコむ事もできない。その上、自分の頬を両手で持ち上げて。
「ほらっ、ほっぺもこんなにもっちもち!!」
なんて鼻をふんふんさせながらモチモチアピールまでしてくる。
「ま、まあ、そうだな」
自己主張マシマシ自己肯定感ツヨツヨの、何とも言えない小さな息子のアピールにエヴァンスは戸惑いつつ返事をする。だが、キトリーはとてててっと机を周って椅子に座っているエヴァンスの元に来るとぎゅむっとズボンの裾を掴んできた。
「キトリー?」
「じゃ、わかったのなら、さっしょく行きましゅよっ!」
キトリーはニコッと笑って言い、エヴァンスは「え?」と困惑した声を上げた。
だが、それからキトリーの提案で肩車をして外のお散歩に行くと言う事になり、今に至ると言う訳だーーーー。
……我が息子ながら、妙と言うか、変わり者というか。誰に似たんだろうか? 私? いやローズ? それにしては毛色が違うと言うか。ロディオンは大人しい子だが、キトリーはどうしてこうなったのだろうか? 木に頭をぶつけてから、更に変……いや、元気になったのは確かだが。
「とーしゃまっ、ちゅーぼーに行きましゅよ!!」
爺やと別れ、考えながら歩いているとキトリーに頭をぽんぽんっと優しく叩かれ、エヴァンスは「はいはい」と答えながら厨房へと足を向けた。
……仕事のし過ぎと言われて付き合っているが、これはただキトリーの遊びに付き合わされているだけなのでは? まあキトリーが楽しそうならいいが。爺やにも『楽しんできてください』と言われたしな。
エヴァンスはそう思いつつ厨房に向かった。
そして通りかかる使用人達に『まあ、旦那様と坊ちゃんだわ。仲良しね』みたいな生暖かい目を向けられつつ、エヴァンスは厨房へ顔を出した。
いい香りが漂い、賑やかしい料理人達の声が聞こえる。
しかし公爵家当主であるエヴァンスが厨房に来ることは年一であるかないかという滅多にない事なので、突然先ぶれもなく現れたエヴァンスにシェフ達は当然驚いた。
「だ、旦那様!?」
数名のシェフ達が驚いた顔を見せる。しかしその中で一人、気楽に声をかけてくる者がいた。
「あれ、旦那様じゃないですか」
そう言ったのは騎士から華麗なる転職を果たした料理人見習いのヒューゴだった。
「ヒューゴ」
エヴァンスが声をかけると、ヒューゴはぺこりと頭を下げた。それからその視線はエヴァンスに肩車されているキトリーに向かう。
「坊ちゃん、旦那様も連れてくるなら一言おっしゃってくださいよ、驚きましたよ」
「てへへ、ごめーん、ひゅーご」
そうキトリーは謝った。しかし親し気な二人の雰囲気にエヴァンスは少し驚く。
……レノが来るまでヒューゴにはキトリーのお守り兼護衛をさせいていたが、こんなに親し気とは。爺やの推薦があってヒューゴは料理人に転職したが、その願いの元はキトリーだという話だったな。
少し前に爺やに言われた事をエヴァンスは思い出す。しかし、どうやらキトリーが厨房に来るのは二人の会話で予約済みの事だったのだとエヴァンスも気が付く。
そしてヒューゴは大きめのバスケットを手に取った。
「それはそうと、坊ちゃんに頼まれていたものを用意しておきましたよ」
「わー、ありがとっ、ひゅーごっ。それにりょーりちょーさん、イソップしゃん、オーマしゃん、カイリーしゃんもありがとーごじゃいましゅっ!」
キトリーが一人ずつの名前を呼んでお礼を言うと、料理人達は嬉しそうな顔を見せた。
「そんな、坊ちゃんの為ならこのくらいお安い御用ですよ!」
料理長が言うと他の料理人達も「そうですよ」と口々に答えた。
「でも、急なおねがいだったから、やっぱりありがとうございましゅ! それにいっつもおいしいごはんをつくってくれて、とってもかんしゃしてましゅ! ね、とーしゃまっ。ごはん、いっつもおいしーよねっ!」
キトリーに聞かれて、エヴァンスは「ああ」と答えたが、それだけで料理人達の嬉しそうな雰囲気が伝わり、再度きちんとお礼を告げた。
「キトリーの言う通り、いつもおいしい料理を出してくれている事に感謝しているよ。これからもよろしく頼む」
エヴァンスがしっかと告げると、料理長はうれし泣きしそうな表情で笑顔を見せた。
「旦那様にそう言っていただけるだけでっ。これからも精一杯作らさせていただきますので! な、お前ら!」
料理長が声をかけると他の料理人も「はい!」と嬉しそうに声をかけた。
「じゃ、これいじょーいたらお邪魔になるから、とーしゃま、バスケット持ってお庭に行きましょーっ」
キトリーの声掛けでエヴァンスはヒューゴからバスケットを受け取り、「じゃあ、失礼したな」と言って厨房を出た。
しかしヒューゴを含めた料理人達に「楽しんでくださいね!」と言われた。
……このバスケットの中を、という意味だろうか? それにしても他の意味があるような?
そう思いつつ厨房を出たエヴァンスはキトリーに問いかけた。
「キトリー、随分と料理人達と……いや、使用人達と仲がいいんだな」
「んへ? ふちゅーでしゅよ。声かけてたらみんなしんせちゅにしてくれて仲良くなったの」
キトリーはそう言いつつも、早速廊下ですれ違う使用人達に手を振っている。そして使用人達もそれに手を振り返している。しかしそれは公爵家の息子だからではなく、キトリーだからだと使用人達のはにかむ表情を見てエヴァンスはわかった。
……私の息子は人気があるようだな。しかし一体、どこで仲良くなったのやら。ヒューゴとも随分と親し気だったし。だが三歳の子が厨房に出入りする理由はなんだろうか? お菓子でも貰いに行っているとか? ……いや、ロディオンの時はこんな事はなかったような。
なまじ大人しく出来のいい長男がいるので、どうしても奇妙……いや珍妙奇天烈な次男と比較してしまう。
……個性的すぎる息子に人たらしの才能があったとはな。
「しかし、キトリー。このバスケットは何なんだ? 何を頼んでおいたんだ?」
エヴァンスは言いながら蓋がされているバスケットの中を見ようとしたが、その前にキトリーに「だめー!」と叫ばれながら髪をぎゅっと引っ張られてしまった。
「いっ! キトリー、いたいからっ!」
エヴァンスが言えばキトリーは「あ、ごめぇん」と素直に謝った。つい咄嗟に引っ張ってしまったらしい。だがエヴァンスにとっては勘弁してほしいところだ、髪の毛をそろそろ気にするお年頃なのだから。
「もう二度と引っ張っちゃダメだぞ。……で、蓋は開けないから、中を教えてくれないか?」
「だぁーめっ。おたのしみなの!」
「お楽しみ、ねぇ?」
エヴァンスは答えつつ、バスケットを見つめた。少しだがなにやら香ばしい、美味しそうな匂いがする。だが、それが何かわからない。
……一体何だろうか?
そう思うエヴァンスの頭をキトリーが小さな手でぽんぽんヨシヨシしてきた。
「とーしゃまのもーこん、ごめんねぇ」
……どこに謝ってるんだ。どこに。
そう思いつつもエヴァンスは真面目に謝る小さな息子にちょっと笑いがこみ上げてくる。
「ふふっ」
「とーしゃま?」
「いや……それよりこの後はどうするんだ?」
「次はお庭にいきましゅっ!」
「はいはい」
エヴァンスは返事をして今度は庭へと向かった。
そして広い庭園を歩いていると一人の庭師が花壇に咲き誇るチューリップの花を手入れしていた。
「あ、ふぇる~!」
************************
╰(´∀´ )╯三 < ヒーハー!
( ˘•ω•˘ ))))))…トコトコトコ… < ヤッパリ,ウチノコダイジョウブカナ。
心配なエヴァンスパパなのでした。
そしてゴールデンウイーク、始まりましたね。お話に全然関係ないけど(笑)
今回はキトリーの父エヴァンスが昔を回想するお話です。そして、ちびキトリーも出てきて暴走……オッホン、活躍します。ぜひ、お楽しみいただければ幸いです。(全四話の短編、毎日一話投稿です)
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――――それはとある春の頃。
エヴァンスは王都にある公爵家本邸の書斎で書き物をしていた。
しかし資料が必要になり、引き出しの棚から古い本を取り出したのだが、その時本の傍に置かれている小さな箱型の缶が目に入る。
エヴァンスは何気なくその缶に手を伸ばして蓋を開けて中を取り出すと、そこには折りたたまれた綴り紙があった。それをおもむろに開けば、幼い子供が拙い文字で書いた言葉がある。それを見て、エヴァンスは自然と笑みを零した。
……大事に取ってあまり使わなかったな。
エヴァンスはそう思いつつ優しい目をして、この綴り紙を貰った時の事を思い出した。
それはまだキトリーが三歳の頃のお話――――。
◇◇◇◇
――――エヴァンス・ギル・ポブラット。『王家の盾』とも呼ばれている公爵家当主であり、バルト帝国の若き宰相。物腰は柔らかいが頭の切れる人物と、王城ではもっぱらの評判だった。
そんなエヴァンスだったが、公爵家の本邸に戻ればただの父親で。
その肩には三歳の次男キトリーを乗せていた。
「――――とーしゃまっ! あっちへゴー!!」
ぺちょりっと自分の頭に張り付く小さな人にエヴァンスは「はいはい」と答えつつ、指を差す方向へ歩く。すると肩に乗っているキトリーがキャッキャッと喜ぶ。
……こういう所は年相応なんだがなぁ。
「うひょひょーっ、たかーい! ヒャッハーッ!!」
妙な奇声も聞こえてきて、エヴァンスは自分の息子は大丈夫だろうか、という一抹の不安を感じる。しかしそんな事を考えている内に廊下の先から歩いてくる人物と出会い、その人を見つけるなりキトリーはすぐに声をかけた。
「あーッ、お爺!!」
興奮したキトリーがブンブンと手を振り、背後で大きく揺れる。なので落ちないかヒヤリとするが「とーしゃま、お爺の元へレッツゴー!」と言われ、エヴァンスはキトリーの小さなあんよをしっかりと掴んだまま現執事長の元へと向かった。
「やっほー、お爺~っ!」
「ほっほっほ、坊ちゃん、楽しそうですなぁ。それに旦那様も楽しそうで」
執事長こと爺やはにこにこしながらエヴァンスとキトリーを見た。
「うん、たのしいよぉー! いまね、おやこのふれあいタイムなのぉ!」
動物のふれあいタイムみたいに言われて、エヴァンスはちょっと複雑な気持ちになるが爺やは「それはようございましたね」とにこやかに笑って言った。一方キトリーは嬉しいのかフフンッと荒い鼻息を出した。
「しかし、旦那様がこうして肩車をされているのは初めて見ますな。ロディオン様にはこのようにされる事はなかったのでは?」
「ああ、先程キトリーに捕まってね」
爺やにそう言えばという表情で尋ねられ、エヴァンスは答えながら数十分前の出来事を思い出した。
◇◇
――――それはエヴァンスが書斎で仕事をしている時の事だった。
「とーしゃまッ!」
パァーンッとドアが開いたかと思えば、そこにはキトリーが立っていた。
「おや、キトリー。どうしたんだい?」
エヴァンスが書き物から視線を上げて尋ねれば、幼児らしいむっちりボディを揺らしながらキトリーはとてとてっと部屋の中に入ってきた。そして机の前に立つが……小さくて見えなくなる。
なのでエヴァンスは椅子から立ち上がって、机の前に立つキトリーを見下ろした。
「何をしてるんだい? キトリー」
声をかけるとキトリーはむんっと腰に手を当てて、エヴァンスを見た。そしてきりっとした目で訴える。
「とーしゃま、おしごとししゅぎですッ!」
「……え?」
まさか息子に仕事のし過ぎと言われるとは思っていなかったエヴァンスは思わず戸惑いの声が出た。
「とーしゃまのおしごとがたいへんなのはわかってましゅ。でも、おしごとのししゅぎです!」
再度キトリーに言われてエヴァンスは『そうだろうか?』とふと考えるが、春の公共事業の打ち合わせや各所から送られてくる書類の確認。他国からの来賓対応に追われ、ここ数週間まともにキトリ―、いや家族とも顔を合わせていなかった事にエヴァンスは気が付いた。
……忙しすぎて日が経つ事を失念していた。そういえばジェットにも『たまには一日オフを取れ』と呆れた顔で言われたな。
エヴァンスは思い出し、ふむっと顎に手を当てる。
「とーしゃま、しごとも大事だけどお休みするのも大事でしゅ! こんなにはたらいていちゃらかろー死しちゃいましゅ! それにお城はお休みもできないブラックきぎょーなんれしゅか!?」
「カロー氏? ブラック……なんだって?」
「とにかく、はたらきすぎれしゅ! おーさまにこうぎれしゅ!!」
「いや、陛下には休めと言われている。だがついつい仕事をしてしまってね」
「とーしゃま、おしごとがたのしーのはわかりましゅが、お休みも大事れしゅよ! そ・れ・に!!」
キトリーはそこまで言うと、エヴァンスを力強く見つめてハキッと告げた。
「こんなにプリチーでチャーミングでラブリぃぃぃっ⤴⤴な息子をほっといていいんでしゅか!? こんなに可愛いのは今だけでしゅよっ!? 今、たんのーしておかないと後悔しましゅよッ!?」
パーンと胸を叩いてキトリーは言い、切々と妙なアピールをされエヴァンスは何とも言えない表情を見せる。
……可愛いのは確かだが。一体何目線でのアピールなんだ。
そう思うがキトリーは目をキラキラさせて自信満々で言うのでツッコむ事もできない。その上、自分の頬を両手で持ち上げて。
「ほらっ、ほっぺもこんなにもっちもち!!」
なんて鼻をふんふんさせながらモチモチアピールまでしてくる。
「ま、まあ、そうだな」
自己主張マシマシ自己肯定感ツヨツヨの、何とも言えない小さな息子のアピールにエヴァンスは戸惑いつつ返事をする。だが、キトリーはとてててっと机を周って椅子に座っているエヴァンスの元に来るとぎゅむっとズボンの裾を掴んできた。
「キトリー?」
「じゃ、わかったのなら、さっしょく行きましゅよっ!」
キトリーはニコッと笑って言い、エヴァンスは「え?」と困惑した声を上げた。
だが、それからキトリーの提案で肩車をして外のお散歩に行くと言う事になり、今に至ると言う訳だーーーー。
……我が息子ながら、妙と言うか、変わり者というか。誰に似たんだろうか? 私? いやローズ? それにしては毛色が違うと言うか。ロディオンは大人しい子だが、キトリーはどうしてこうなったのだろうか? 木に頭をぶつけてから、更に変……いや、元気になったのは確かだが。
「とーしゃまっ、ちゅーぼーに行きましゅよ!!」
爺やと別れ、考えながら歩いているとキトリーに頭をぽんぽんっと優しく叩かれ、エヴァンスは「はいはい」と答えながら厨房へと足を向けた。
……仕事のし過ぎと言われて付き合っているが、これはただキトリーの遊びに付き合わされているだけなのでは? まあキトリーが楽しそうならいいが。爺やにも『楽しんできてください』と言われたしな。
エヴァンスはそう思いつつ厨房に向かった。
そして通りかかる使用人達に『まあ、旦那様と坊ちゃんだわ。仲良しね』みたいな生暖かい目を向けられつつ、エヴァンスは厨房へ顔を出した。
いい香りが漂い、賑やかしい料理人達の声が聞こえる。
しかし公爵家当主であるエヴァンスが厨房に来ることは年一であるかないかという滅多にない事なので、突然先ぶれもなく現れたエヴァンスにシェフ達は当然驚いた。
「だ、旦那様!?」
数名のシェフ達が驚いた顔を見せる。しかしその中で一人、気楽に声をかけてくる者がいた。
「あれ、旦那様じゃないですか」
そう言ったのは騎士から華麗なる転職を果たした料理人見習いのヒューゴだった。
「ヒューゴ」
エヴァンスが声をかけると、ヒューゴはぺこりと頭を下げた。それからその視線はエヴァンスに肩車されているキトリーに向かう。
「坊ちゃん、旦那様も連れてくるなら一言おっしゃってくださいよ、驚きましたよ」
「てへへ、ごめーん、ひゅーご」
そうキトリーは謝った。しかし親し気な二人の雰囲気にエヴァンスは少し驚く。
……レノが来るまでヒューゴにはキトリーのお守り兼護衛をさせいていたが、こんなに親し気とは。爺やの推薦があってヒューゴは料理人に転職したが、その願いの元はキトリーだという話だったな。
少し前に爺やに言われた事をエヴァンスは思い出す。しかし、どうやらキトリーが厨房に来るのは二人の会話で予約済みの事だったのだとエヴァンスも気が付く。
そしてヒューゴは大きめのバスケットを手に取った。
「それはそうと、坊ちゃんに頼まれていたものを用意しておきましたよ」
「わー、ありがとっ、ひゅーごっ。それにりょーりちょーさん、イソップしゃん、オーマしゃん、カイリーしゃんもありがとーごじゃいましゅっ!」
キトリーが一人ずつの名前を呼んでお礼を言うと、料理人達は嬉しそうな顔を見せた。
「そんな、坊ちゃんの為ならこのくらいお安い御用ですよ!」
料理長が言うと他の料理人達も「そうですよ」と口々に答えた。
「でも、急なおねがいだったから、やっぱりありがとうございましゅ! それにいっつもおいしいごはんをつくってくれて、とってもかんしゃしてましゅ! ね、とーしゃまっ。ごはん、いっつもおいしーよねっ!」
キトリーに聞かれて、エヴァンスは「ああ」と答えたが、それだけで料理人達の嬉しそうな雰囲気が伝わり、再度きちんとお礼を告げた。
「キトリーの言う通り、いつもおいしい料理を出してくれている事に感謝しているよ。これからもよろしく頼む」
エヴァンスがしっかと告げると、料理長はうれし泣きしそうな表情で笑顔を見せた。
「旦那様にそう言っていただけるだけでっ。これからも精一杯作らさせていただきますので! な、お前ら!」
料理長が声をかけると他の料理人も「はい!」と嬉しそうに声をかけた。
「じゃ、これいじょーいたらお邪魔になるから、とーしゃま、バスケット持ってお庭に行きましょーっ」
キトリーの声掛けでエヴァンスはヒューゴからバスケットを受け取り、「じゃあ、失礼したな」と言って厨房を出た。
しかしヒューゴを含めた料理人達に「楽しんでくださいね!」と言われた。
……このバスケットの中を、という意味だろうか? それにしても他の意味があるような?
そう思いつつ厨房を出たエヴァンスはキトリーに問いかけた。
「キトリー、随分と料理人達と……いや、使用人達と仲がいいんだな」
「んへ? ふちゅーでしゅよ。声かけてたらみんなしんせちゅにしてくれて仲良くなったの」
キトリーはそう言いつつも、早速廊下ですれ違う使用人達に手を振っている。そして使用人達もそれに手を振り返している。しかしそれは公爵家の息子だからではなく、キトリーだからだと使用人達のはにかむ表情を見てエヴァンスはわかった。
……私の息子は人気があるようだな。しかし一体、どこで仲良くなったのやら。ヒューゴとも随分と親し気だったし。だが三歳の子が厨房に出入りする理由はなんだろうか? お菓子でも貰いに行っているとか? ……いや、ロディオンの時はこんな事はなかったような。
なまじ大人しく出来のいい長男がいるので、どうしても奇妙……いや珍妙奇天烈な次男と比較してしまう。
……個性的すぎる息子に人たらしの才能があったとはな。
「しかし、キトリー。このバスケットは何なんだ? 何を頼んでおいたんだ?」
エヴァンスは言いながら蓋がされているバスケットの中を見ようとしたが、その前にキトリーに「だめー!」と叫ばれながら髪をぎゅっと引っ張られてしまった。
「いっ! キトリー、いたいからっ!」
エヴァンスが言えばキトリーは「あ、ごめぇん」と素直に謝った。つい咄嗟に引っ張ってしまったらしい。だがエヴァンスにとっては勘弁してほしいところだ、髪の毛をそろそろ気にするお年頃なのだから。
「もう二度と引っ張っちゃダメだぞ。……で、蓋は開けないから、中を教えてくれないか?」
「だぁーめっ。おたのしみなの!」
「お楽しみ、ねぇ?」
エヴァンスは答えつつ、バスケットを見つめた。少しだがなにやら香ばしい、美味しそうな匂いがする。だが、それが何かわからない。
……一体何だろうか?
そう思うエヴァンスの頭をキトリーが小さな手でぽんぽんヨシヨシしてきた。
「とーしゃまのもーこん、ごめんねぇ」
……どこに謝ってるんだ。どこに。
そう思いつつもエヴァンスは真面目に謝る小さな息子にちょっと笑いがこみ上げてくる。
「ふふっ」
「とーしゃま?」
「いや……それよりこの後はどうするんだ?」
「次はお庭にいきましゅっ!」
「はいはい」
エヴァンスは返事をして今度は庭へと向かった。
そして広い庭園を歩いていると一人の庭師が花壇に咲き誇るチューリップの花を手入れしていた。
「あ、ふぇる~!」
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╰(´∀´ )╯三 < ヒーハー!
( ˘•ω•˘ ))))))…トコトコトコ… < ヤッパリ,ウチノコダイジョウブカナ。
心配なエヴァンスパパなのでした。
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梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼不定期連載となりました。
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
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