竜人息子の溺愛!

神谷レイン

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番外編

3 イサールの手紙

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 それからシオンとポールに案内されながら、イサールはルイと共に城を回った。
 応接室にサロン、大広間や食堂、図書室や客室。だが中庭に着く頃にはルイのお腹がぐぅうぅぅぅぅっと大きく鳴る。

「イサちゃん、ルー、お腹しゅいたぁ」

 ルイはお腹を抱えて言い、イサールが持っていた鞄からおやつを取り出して渡そうとしたが、その前にシオンがひょいっとルイを抱っこした。

「ルイがそう言うと思って、お昼を用意しているよ。ルイの大好物のオムライスだ」
「ほんとー!? おむらいしゅーっ!」

 ルイはきゃっと笑い、イサールが戸惑っている内にいつの間にか中庭の四阿でテーブルを囲んで昼食を取る事になった。



 ◇◇




「……あの、いいのでしょうか。私までお昼を頂いて」

 イサールが尋ねると、シオンは首を傾げた。

「勿論ですよ? それともオムライスはお嫌いでしたか?」
「いえ」

 イサールはそう答えて、目の前のオムライスを見た。
 城仕えの料理人が作ったのだろう、デミグラスソースのかかった半熟とろとろの美味しそうなオムライスがある。
 しかも竜人仕様に、イサールのオムライスは三倍量だ。自然とイサールのお腹もぐぅっと小さく唸る。

 ……しかし本当に頂いていいのだろうか。

 イサールが迷っているとポールが声をかけた。

「イサールさんは食べても大丈夫ですよ。……ただ俺はまだ勤務中なんですけど、シオン様?」

 ポールは少し呆れながらシオンに言った。なにせポールの前にも同じように料理が出されているからだ。
 本来、護衛の立場であるポールがこの場で一緒に食事をするというのは許されない。
 だがシオンはとぼけた顔を見せた。

「何のこと? いいじゃないか、団長には僕から言っておくから」
「シオン様。いいですか、そういうのを職権乱、むぐっ!」

 ポールは言いかけてる途中で、オムライスがのったスプーンをシオンに口に突っ込まれた。

「ポール、食事中は静かに食べないとね」
「うぐっ」

 ポールは唸るが美味しいオムライスとシオンの押しに負けて、やれやれという顔を見せながらも口に入れられたオムライスをモグモグと食べる。そしてスプーンを片手に持った。
 そんなポールを見てからシオンは満足気な顔でイサールとルイに声をかける。

「さ、ルイもイサールさんもどうぞ」

 シオンが言うと、ルイは「はぁーい!」と返事をして、スプーンを片手にもっもっと口にオムライスを食べ始めた。

「ルイ様、おいしいですか?」

 イサールが声をかけるとルイはごっくんっとオムライスを飲み込んでにっこり笑顔をみせる。

「れーちゃんのが一番だけど、このおむらいしゅもすっごくおいしぃーよ!」

 ルイはそう言うと、またオムライスをもぐもぐっと食べる。おかげで丸々としたほっぺが更に丸みを増し、あまりの可愛さについ眺めているとシオンに声をかけられた。

「さ、イサールさんも食事にしましょう」

 シオンの言葉にイサールは頷きつつ、チラリとルイに視線を向けた。
 なにせ食事をするには酷い傷跡を隠しているマスクを外さないといけないから。

 ……この顔を見て怖がられるだろうか? でもまあ、もう断る雰囲気でもないし、とりあえずマスクを外してみて様子を見てみよう。ダメなら席を外そう。

 イサールはルイの反応を不安に思いつつも、そっとマスクに手を伸ばした。
 マスクは二部式になっていて口の部分だけ外すことができる。なのでパチッと留め金部分を外し、イサールは口元だけとはいえ、マスクをルイの前で初めて取った。

 ……大丈夫、だろうか?

 そっと隣に座るルイを見れば、ルイはイサールの心配をよそにオムライスに夢中だ。イサールがマスクを外しても興味がないらしい。なのでイサールはほっとした。
 しかし、その代わりではないが向かいに座るシオンとポールの方がじっとイサールの方を見つめていた。

「すみません、お見苦しくて」

 イサールはすぐに謝ったが、シオンは首を横に振った。

「いえ。不躾に見たりしてこちらの方こそ申し訳ない。どうやって食べるのか気になって」
「イサールさんのマスクって口の部分は外れるんですね、すごい」

 シオンもポールは傷より別のところを見ていたようだ。
 気になる所はそこ? とイサールは思ったが苦笑して答えた。

「このマスクは食事をする時は口元が外れるようになっているんですよ」

 イサールが説明すると、二人は「へぇ」と驚くように呟いた。
 だが、そんな会話をしていると、隣から小さな視線を感じた。ちらりと見るとさっきまでオムライスに夢中だったルイがイサールをじぃーっと見ている。

 ……やっぱり、怖がらせてしまっただろうか。

 心配に思ったイサールだが、ルイはスプーンを持って言い放った。

「イサちゃん! はやく食べないとおむらいしゅ、さめちゃいますよ!」

 ルイはまるで小さな子供を叱るようにイサールに言った。恐らくレイの真似をしているのだろう、まるで小さなレイだ。
 その姿にイサールは怖がられてないのだと安堵したのと同時になんだか大人ぶって言うルイが可愛くて、ふっと笑ってしまった。

「はい、すいません。私もいただきますね」

 イサールはそう言うとオムライスを食べ始めた。
 それを見たルイはよし! と言わんばかりに、ふんすっと鼻息を出しで、またオムライスを食べる。
 そんな二人の様子にシオンもポールも微笑みを零し、また食事を始めた。



 ◇◇◇◇



 しかしデザートまで食べ終えた後。
 ルイのお昼寝タイムがきて、こっくりこっくりと船を漕ぎ始めた。そんなルイの為にシオンが客室を用意してくれて、ルイは今ベッドでスヤスヤお昼寝中だ。
 だがシオンとポールにはこの後予定があり、部屋にはイサールとルイだけ残された。

 そしてイサールは大きなベッドの端に座り、ベッドの真ん中で気持ちよさそうにすぴーすぴーっと鼻息を鳴らして、まん丸のお腹を呼吸と共に上下させて寝ているルイを一人見つめた。

 ……こんな豪華な部屋で寝れるなんてルイは大物だな。

 ルイの寝ているベッドは本来なら他国の賓客が来た時に使われるものだ。天蓋付きのベッドに、部屋に置かれている調度品も高価なものばかり。

 ……でもまあ、ルイは生まれが生まれだからな。相応の部屋なのかもしれない。

 イサールは元竜国国王でありファウント王国王弟という間に生まれたことを思い出し、見ても見ても飽きない可愛らしい寝顔を見つめた。

「うむむーん」

 むにゃむにゃと口を動かして寝言を言っている姿も可愛い。

 ……何か夢を見ているのかな。

 その寝顔を微笑ましく眺めながら遠い昔も同じように、こうして愛し子の寝顔を飽きるほど見つめた事をふと思い出した。

 それはまだイサールが二十代頃で。
 竜国の先々代国王と恋に落ち、子供を授かって、小さな家で暮らしていた頃の話。
 その頃はまだイサールは、イサールという名前でもなかった。

 ……あの頃はとても幸せだったな。

 イサールはルイの寝顔を見ながら、昔を思い出した――――――。






 ◇◇◇◇





 ――――それは約二十前、ある日の昼下がり。
 若かりしイサール、いや、ラクアは大声を上げた。

「こら! ルーク、待て!」

 ラクアは風呂場から裸で飛び出して行った小さな子供、ルークに向かって叫んだ。しかし、ルークは言う事を聞かないで、てててっー! と走ると、玄関先に立つ人の足元にぺちょっと張り付いた。

「るーふぁ!」
「おうおう、元気そうだな。ルーク」

 その人はひょいっと裸の赤ん坊ルークを抱き上げると笑って言った。
 そしてその人はルークと同じ輝かしい銀髪を持ち、ルークの後を追いかけてきたラクアに視線を向けた。

「ラクア」
「ルーファス様! またお供なしで来たのですか?!」
「まあまあ、いいじゃないか」

 そう笑って彼は返した。そんな彼にラクアは「全く」と呆れつつ、視線を向けた。

 銀色の髪に紫がかった青の瞳を持ち、ラクアよりも体躯が良くて、五十代というのにまだまだ頑健で、渋いおじ様、というような言葉が似合う人。
 彼こそがラクアの伴侶であり、ルークの父親。竜国の現国王ルーファス・アリエス・エディランドだった。

「それよりも、久しぶりだな。ラクア……何か困っている事はないか?」

 ルーファスはラクアの頬を撫でて、優しく尋ねた。でも、その仕草が色っぽいものだからラクアは顔を少し赤くしてしまう。

「一週間前もそう尋ねていましたが、困っている事なんてありませんよ。とても良くして頂いています」
「そうか? 私はもっと色々としてやりたいんだがな。お前は欲がないな」

 ルーファスははっはっはっと豪快に笑ったが、ラクアにとってルーファスの伴侶になれ、その上、ルークとここで生活させてもらっている以上のものなんてなかった。

 ラクアは生まれは庶民で、なんなら孤児院の出である。本来なら伴侶なんて、到底なれない。
 実際ルーファスの亡くなった前王妃は貴族の出だった。その上、ラクアは元々ルーファスの護衛官で、このような関係になる事すら本当はいけない立場だ。

 けれど初めて会った時、ラクアもルーファスも同時にお互いに一目惚れをしてしまった。

 だが立場と生まれが許されない事だと、ラクアは自分を律し、ルーファスからの熱烈な告白をなんとか躱した。
 そもそもルーファスには亡くなられた前王妃との間には、ニールという素晴らしい王子がいた。
 だから、もしも父親がこんな生まれもわからない護衛官の男に入れ込んでいると知れたらきっと落胆するに違いないとラクアは危惧したのだ。

 ……折角、親子仲が良い二人に亀裂を作りたくない。

 そう思って、ラクアはルーファスの誘いを一切拒否していた。

 けれどルーファスは諦めず、ニール王子からも直々に『早くくっつけ』と言われてしまい。三年の攻防も空しく、ラクアは結局ルーファスの伴侶になってしまった。
 ただし付き合う時に、ある条件を付けて。

 その条件とは、王の相手が自分であるという事は公にせず、秘密の関係にすること。
 なぜなら、自分のような者が王の相手だとわかっては良くないことだとわかっていたからだ。

 勿論王は不服そうにしたが、ラクアが『それなら付き合いません』と拒否したので渋々了承。
 それからようやく二人のささやかな付き合いが始まった。

 だがラクアは恋愛関係に疎く、手を繋ぐまでも相当時間がかかった。でも仲を深めていく中で触れ合いは頻度を増し、しばらくしてラクアは当然のようにルーファスの子供を授かった。

 卵を産むまで七カ月。卵が孵るまで三カ月。大事に育て、元気な男の子が生まれた。
 可愛らしい銀髪に自分と同じ水色の瞳を持つ赤子『ルーク』

 目に入れても痛くない可愛い我が子の誕生にラクアは胸が弾けるほどの想いだった。それはルーファスも。

 だがルークは生まれて間もないルークをつれて人目を避けた郊外の小さな家へと引っ越した。
 なぜなら次期竜国国王には、成人済みの聡明なニール王子がいる。王位継承権に余計な波風を立てなくなかったのだ。なによりラクアは竜国の民としてニールは次期国王にふさわしいと思っていた。
 だから小さなルークに王位など考えず、ひっそりと暮らすことを選んだ。

 けれど、王様業をまだ止められないルーファスは一緒に住むことは当然叶わず、時々週に一度のペースでこの郊外にある家に人目を忍んで、遊びに来るしかできなかった。
 そう、今日のように。

「しかし、ちと遠すぎやしないか。私としてはもう少し近くに住んで欲しいものだが」

 ルーファスは口を尖らせて言ったが、ラクアは首を横に振った。

「ダメですよ。ルークが貴方の子だとわかったら、大変な事になるのは目に見えていますから」
「それはそうだが……」

 ルーファスは不服そうに言ったが、それ以上は言えなかった。なぜならルークは銀髪だからだ。この竜国では、銀髪は王族に連なる者しか受け継がれない。

「それよりルーク、服を着るぞ。こちらに来なさい」

 ラクアは両手を伸ばして言ったが、ルークはプイっと顔を背けた。

「や!」
「わがままを言わないんだ。暖かくても、そのままでいると風邪を引くぞ」
「やぁ!」

 ルークは大きな声で拒否した。最近、だだをこねる年頃になってきて、世話が大変だ。成長しているのだと思えば嬉しい事だが、毎日の事になると頭を抱える。

「わがままばかり言うと、今日のおやつは抜きだぞ!」

 ラクアが少し厳しく言うと、ルークはうっすらと大きな瞳に涙を浮かべた。

「やぁだ~っ!」
「なら、服を着なさい。どうして、そんなに服を着たがらないんだ?」
「ルー、おようふくきたくない! るーふぁぁああっ!」

 ルークは助けを求めるようにぺたっとルーファスに抱き着いた。そして、小さな我が子に頼られて断れる父親はいない。

「まあまあラクア、いいじゃないか。しばらくはこのままで」
「ルーファス様、駄目ですよ。ルークを甘やかしちゃ、ルークの為になりません!」

 プンッとラクアが怒って言うと、ルーファスはにっこりと笑った。

「日頃はそうしてちゃんとラクアが躾けてくれてるのだろう? なら、私がいる時ぐらいは甘やかせておくれ。な?」

 ルーファスはぽんぽんっとラクアの頭を撫でて、優しく言った。そう言われれば、ラクアも何も言えない。

「もぅ……今日だけですよ」
「ほら、ルーク。ラクアがいいと言ったぞ?」
「……ほんちょ?」

 じろっと疑うような目でルークが見てくる。やれやれ。

「今日は特別だぞ」
「……おやつ、ぬきじゃない?」
「ああ、おやつも食べていい」

 ラクアが言うと、ルークは嬉しそうに顔を緩めた。

「ほら、ルーク。ラクアにちゃんとお礼を言おうな」

 ルーファスが言うと、小さなルークはラクアと同じ大きな水色の瞳をにっこりと細めた。

「ありあとー、らくちゃん!」

 ルークに言われて、アクアは自然と頬が緩んで微笑み返しそうになったが、何とか頬を引き締めて「今日だけだからな」というので必死だった。



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