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32話

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 僕たちの意表を突いた手に魔物たちは明らかに動揺していた。
 おそらくサラさんか僕を一斉に攻撃して倒して、人数の差をもっと有利にしてからミレティアを狙う手はずだったに違いない。現に5体の魔物はすぐにでもボスのもとへ行こうと僕たちのすきをうかがっている。ミレティアはきっと勝つ。僕らはこいつらを止める。

「行かせるか!」

 1体が駆け抜けようとするのを止める。剣が魔物の体に当たると石に刃物をたてたような感触がする。返ってくる音も何かの皮膚とは思えない硬質でギリギリとした音だ。

「硬すぎる」

「魔力も肌に当たると散ろうとするの。気を付けて!」

「はい!」

 少しの間にらみ合いが続く。同時に来られれば確実に何体かは通してしまう。ここは攻めるべきか......。ちらりとミレティアの方を確認するとまだまだ戦闘中のようだ。音も激しく刃物同士で切り合ってるかのようだ。

「サラさんはどうやって倒したんですか?」

「あいつらが遊んでるうちに最高威力の魔法をぶつけたの。でもかなり時間がかかるし、この状況ではもう無理だわ。あなたはどうにかできそう?」

「僕じゃあ無理そうです。歯が立ちません」

「そう。わかったわ」

 僕たちの絶望的な会話をしり目に、奴らの攻撃はだんだんと熾烈になってくる。だが一つだけいいこともある。僕らを何度か抜けてボスのもとに行こうとしている間、僕の攻撃を受けて僕が脅威じゃないとわかり、遊びに入り始めているように感じる。抜けようという感じではなく僕を攻撃していたぶろうという意思を感じるようになってきた。
 口を開けて嫌な笑い声を出しているのもきっとそういうことだ。サラさんへの攻撃も抜けようとする努力も減ってきている。
 僕はここで大きな賭けに出ることにした。今までは抜けそうな相手を止め、攻撃はいなし。自分から一切攻撃しなかった。もしこいつらが僕をいたぶることを楽しみ始めてるのであれば、僕が前にでれば、僕をより狙ってくるに違いない。ここである程度僕たちに釘付けにしなければ、ボスが負けそうになった時に気づかれ一斉にそちらへ行く口実を与えてしまう。サラさんは敵を減らせない。当然僕も減らせない。なら餌になるなら遊ばれてる僕の方がいい。

「サラさん!僕が引き付けます」

 僕はそう言ってぐっと前に出る。

「そんなことしたら抜けられるわ!」

 だがその想像とは違って、魔物はサラさんの方から退き、僕らを抜けもせず、一歩前にでた僕を標的にし始めたのだった。
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